第1246話 41枚目:年の瀬

 そこから内部時間で1時間も経過すれば、それなりに色々と分かってくる。司令部は稼働しているからね。竜族は軍という指揮形態で動いているが、それならそれでその動きに合わせて召喚者プレイヤーの動きを誘導すれば連携も出来るし。

 まず、あの集落を守っている神の力っぽいバリアだが、あれは「加護の証」を持った召喚者プレイヤーがバリアの中か近くにいれば、魔力を消費して修復する事が出来るらしい。なので予断は許さないが、少しは防衛が楽になったそうだ。

 そしてどこかで修正が入っていたのか、野良ダンジョンが発生するのは人里に近いか、発見されやすい場所に限定されている。今回大量発生した野良ダンジョンもその法則に従っているらしく、へき地に行くほどモンスターの数も少なかったらしい。


「モンスターの湧きスポットが増えているという事もなく、野良ダンジョンが時間切れで崩壊したスタンピート、というのも確定。しかし本来は制限時間がもっと長い筈ですし、突入して戦闘が行われていればカウントダウンは止まる筈なのですが……」


 なお初手で野良ダンジョンに突入した召喚者プレイヤーだが、こちらはカウントダウンが0になったと同時に、外へ放り出されたようだ。当然のようにモンスターの群れの只中だったので、その大半が死に戻ってしまったようだが。

 また、明らかに空間の歪みが関係する異常にもかかわらず、一部神殿を除いて試練ダンジョンには挑めなくなっているとの事。一部神殿というのは、それぞれの神における本殿の事のようだ。つまり、一番大きな神殿って事だな。


「……これ、本来は試練ダンジョンに完全に挑めない仕様だった気がしますね」


 そんな気もするが、ともかく。竜都の大陸など、戦力に余裕がある場所では召喚者プレイヤーが試練ダンジョンに挑み、空間の歪みを消費しているようだ。なお、それで間に合うかどうかは別問題だが。

 とはいえ、私が領域スキルの全力展開で竜都を守り、その分だけ竜族が他の場所へ救援に迎えているんだから、流石にそろそろ事態は収束してきている筈だ。

 それにしても、とんでもない年末だ。ギリギリ召喚者プレイヤー側の対応が間に合ったから良かったものの、このまま湧き続けたらどうしようもなかったぞ。海にも湧かなくて良かった。


「まぁ掲示板を見る限り、渡鯨族と人魚族の神殿には大量の野良ダンジョンが集められているみたいですが。それもそれで攻略する必要があるでしょうし……」


 もうそろそろ領域スキルの全力展開も一区切りつけられるかな、と思いながらまた1本ポーションを飲み干した。いやー、本当に、ある程度は回復ポーションを持ち歩くようにしておいて良かったよね。ご飯はいつも持ち歩いてるけど。

 しかし危うく年始のカウントダウンどころじゃなくなるところだったな。本当に運営は全く。


「……いえ。そういえば呪いの件がありましたし、もしかしなくてもあのゲテモノピエロが何か仕掛けてきていたせいもあったり……?」


 ……そういう可能性もあったか。という事は、あの大量発生は運営のせいであっても、カウントダウンの高速化は『バッドエンド』のせい、とかいう可能性もありそうだな。何せ最大値は8時間、つまり、特殊ログイン時間と同じだから。

 まぁ実際の所は分からないんだけど。のろいの方向から場所を突き止めようとしている動きもあるようだが、当然対策はしているだろうし。

 そんな事を思いながら時間を確認すると、もうすぐ1時間半が経過するようだ。この調子ならたぶん、2時間を過ぎる頃には終息できそうかな、と、息を吐く。その目の前で、ログイン時間がちょうど1時間半になった。



 瞬間。

 ズゴゴゴゴゴゴ!! と、地響きを伴い、大量の野良ダンジョンが出現した。



 一瞬、戦いの音が静まり返ったのは気のせいだろうか。そして私はステータスの暴力による非常に良い視力で、その野良ダンジョンの入り口に2割ほど減ったバーと、掲示板で見た通りの勢いで減っていく、5時間半からのカウントダウンを確認した。


「――おかわりとか聞いていないのですがっ!?」


 とりあえずカバーさんに連絡して、ポーションの追加を持ってきてもらおう。ちょっと持たないぞこれ。

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