第1239話 41枚目:夜の神

 推定“夜天にして闇主”の神だが、その目標ははっきりしている。こちらで保護しているこの集落の住民、つまりは吸血鬼の人達だ。今はその全員がこの空間異常の入り口に設置された拠点にいる筈なので、この拠点自体が攻撃目標でもある。

 かなり遠いが、私の視力であれば問題ない。だからその黒いドレスの裾を翻し、とん、と軽い調子で美女の姿を取る神が祭壇から降りたのもよく見えた。……吸血鬼は招かれないと入れない、と聞くけど、神相手にそれは通じないかなぁ。

 というかそもそも、夜の神を夜中に相手して勝てる訳がないのでは? とも思ったが、まぁそれはそれ。夜が明けるまでの耐久戦だと(ログイン時間的に)かなり厳しいが、夜中が終わるまでならギリいける。


「筈です、たぶん……!」


 第一、向こうからやって来るのだ。守りたいものがある以上、迎撃しない訳にはいかないだろう。そしてそれなら、少しでも前線を上げておいた方がいい。と、空気の足場をけって飛び出すべく軽く屈んだ。

 もちろんその間も、推定“夜天にして闇主”の神から目を離していない。だから祭壇から降りて、地上から僅かに浮いた状態で滑るようにこちらへ来るその動きも……。


〈はっ……夜空の下で、わたしに挑もうなんて〉


 北側から、その姿を回り込むように木造の屋根を伝って走っていく2つの人影も、よく見えていた。


〈誇り高き竜の一族も、随分と傲慢になったこと!〉


 赤い唇を凄絶に吊り上げて神が声を上げた瞬間に、タイミングを僅かにずらしてその2人――エルルとサーニャの攻撃が叩き込まれる。だがその攻撃は、どちらも空を切るようにして“夜天にして闇主”の神をすり抜けた。


「聞いてはいたけど滅茶苦茶だな! 本当にこれでどうにかなるのかい、エルルリージェ!?」

「それでも足止めぐらいはやらないとお嬢が飛び出してくるだろうが!?」

〈あら、夜空の下でわたしに挑んでおいて、他の事に気を取られてるの?〉


 …………。

 その内容にはちょっと思うところが無い訳ではなかったし、なら種族特性での支援をする為に最前線に出てやろうかとも思ったが、まぁ実際私が行っても恐らく邪魔にしかならない。対策が出来るまでは大人しくしておこう。

 どうやらエルルとサーニャが戦っている様子を見る限り、こちらからは攻撃できないが、あちらからは攻撃し放題、という状態は変わらないようだ。影響を受けていてもこちらの神ではあるからか、『勇者』であるエルルの攻撃も見る限りは無効化されている。


「まぁ2人が足止めしてくれるなら、こちらは対策に全力を出せますが……」


 しかし本当に対策が無いとどうにもならない、もしくは夜の間は無敵状態みたいな感じだな。これはマジで夜明けまで耐久戦かと思ったが、冷静に考えるとこの空間異常の制限時間的にそれは無理だ。

 となると何とかあの無敵状態を強制終了させないといけない訳だが、思いっきり夜の神なのに夜の間に何とかできるのか……? という、無理難題な状況になってる気がするんだよな。

 でも何とかしないといけない訳で。流石に時間切れで解決するとは思えないし。……時間切れだった場合どうなるかと言えば、最初からやり直しなんだよな。空間異常に外から捧げものをして情報を引き出すところから。


「流石にそれをやっている暇はありませんしねぇ……。次はまず攻略できるようになってるとはいえ」


 これだけ情報が出揃ってたら、司令部の事だからショートカット気味に最短ルートで攻略できるだろう。それでもクリアできるならしておいた方がいいよな。

 ……とりあえず、あんな無敵状態になれる存在が他に居てたまるかって事で、あの神はまず間違いなく本物だろう。じゃあ問題は、なんで本物の神が、あんなにしっかり顕現できてるのか、ってあたりだろうか。

 攻撃がすり抜けてるのは、体を霧に変えられるって能力の上位互換だろうし。……そういえば山賊リーダーさんが確か前に、どんな光も太陽光に変えるレンズとか持ってた気がするな? 今回使えないか、あれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る