第1186話 41枚目:変化確認

 何が起こったのかよく分からないが、とりあえずは被害確認だ。

 手分けしてざっくり確認したところ、人的被害は無し。拠点(砦)の損傷も無し。積み上げたり拠点(砦)の中に運び込んでいたりした氷がぶつかったり転がったりして若干割れたぐらいだった。軽微で済んで何よりだな。後は、拠点(砦)から離れるほど揺れはマシだったそうだ。

 ただ問題は、あの揺れが何だったんだって話だ。何で起こったのか、については……冷静に考えると心当たりがあった。というか、カバーさんも多分気付いているだろう。


「カバーさん」

「なんでしょう」

「とりあえず迷惑にならない場所まで移動して、再度【調律領域】を最大展開してみようと思うのですが」

「そうですね。タイミング的におそらくそれが直接原因かと」


 展開範囲を広げたタイミングで、そういえばなんか引っかかったな、と。ただし、確かに【調律領域】は非常に使い勝手のいい領域スキルだが、それだけで本命となる神様を引っ張り出せるほどではない筈だ。

 という事は、引っかかって反応があったのは、本命の神様、“湧水にして脈穴”ではない可能性が高いって事だ。でも敵ではないだろう。敵だったら問答無用で負荷を押し付けるだけで、私の感覚には引っかからない筈だ。

 ……じゃあ何だ。と、なる訳なんだよな。さっき反応したのというか、揺れを起こしたのは。


「吸収能力は切ってましたし、たぶん良性もしくは善性のものだと思うんですが……」


 とりあえず、空間の一番奥、拠点(砦)から一番離れたところまで移動して、周辺確認。この辺りは砂こそどけられているものの、まだ氷を積み上げるほどではないので、何もない。ただの地面だ。

 十分砂からも距離がある事を確認した上で【飛行】と【風古代魔法】をメインスキルに入れ、いつでも高高度に逃げられる準備をする。カバーさんを始めとした元『本の虫』組の人達も準備を終えたところで、【調律領域】を最大展開だ。

 途端、ゴゴゴゴゴゴゴ……! と地面が揺れ始めた。空気の足場に乗っているから揺れが伝わってこない。って事は、空間じゃなくて地面が揺れてるな。


「……あ、やっぱりありますね。魔力の供給対象に出来る何かが」


 今回は【調律領域】から伝わってくる情報を確認する事に集中していたので、無事さっきの引っかかり、と、たぶん同じものを感知する事が出来た。しかし地中とは思わなかった。しかもこの「何か」たぶん、かなり大きいな?

 なおかつそれが揺れと共に上がってくる、いや、上がってくるから揺れが起こっているのか。という事もカバーさんに伝え、その「何か」の真上から空間の外側へと避ける。

 元『本の虫』組の人達もそれぞれ震源となっている「何か」から横方向の距離を置いたところで、地面に変化があった。揺れの中心、【調律領域】の対象となる何かの端が地面のすぐ下まで来て……ボコリ、と、地面から何かが生えてきたのだ。


「……もしや、外壁っぽいものが無かったのはこういう……?」


 そのまま揺れと共に生えてきたものは、この辺りの地域でよく見られる、レンガで作られた建物だった。いや、建物というより外壁、でもそれにしても大きいというか、ちょっとした丘では? 流石にここまでのサイズと形は見たことないな。

 何だこれ、と思っている間もその謎の建造物は地面から生えてきている。そのうちその左右に、今度は完全な岩の塊がせりあがってきた。というより、この丘のようなものと一体化しているらしい。

 が。その岩の塊が、どちらかというと石でできた丘のようなものらしい、というのが更にせりあがってきて分かった。つまり。


「元々こういう、巨岩の塊というか、岩の丘があって……その隙間を埋める形でレンガの建物を作った、感じでしょうか」

〈その通りだ〉


 独り言で情報を整理しているところに、返事が返ってきた。素早く周りを見回すが、元『本の虫』の人達はそれぞれに動いている。返事をした感じはない。というか、今の声の感じはまさか。


〈皇に連なる竜よ。よく参った。――歓迎する、と、手放しで言えんのが残念だがな〉


 続いた声で、ようやくどこから発せられたかが特定できる。それはそろそろ見上げる大きさとなってきた岩の丘と、その隙間を繋ぐレンガの建物。ちょうど私の正面に当たる場所に見えてきた、入り口のようなトンネルだった。

 全て出てくれば『スターティア』の大門にも匹敵するだろう大きさのトンネル。まだ半分ほどしか出てきていないその下に空いた空間に、乾燥した風と暑さと日差しに強い、今私が着ているような服を着た、スキンヘッドで筋骨隆々のおじさまがあぐらをかき、自分の膝に左腕で頬杖をついている。

 まだ揺れは続いているが、私のステータスをもってすれば立てない程ではない。ので空気の足場から地面に降りて、丁寧に一礼。


「直接お姿を現して頂き、お声がけ頂けただけで十分です。――失礼ながら、神名をお尋ねしてよろしいでしょうか」

〈固いな。儂ほどではないし、儂がいえた事ではないが。まぁ良い。儂はこの地を守り、この風を守り、道を守って指し示すもの――“導岩にして風守”だ〉


 ……リアルでいうところの、道祖神とかの元締めだろうか。フリアド世界解釈だが。

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