第1178話 41枚目:加速終了

 残り時間と相談しつつ空間異常の攻略を進め、最後の1つは時間に余裕のある物を選んだ上で最後の一手を残すのみ、という状態にしておいた。これなら連続ログイン制限が開けた、日付変更線直前の僅かな時間でも何とか解決できる筈だからだ。

 その分だけログイン時間は残してあるので、再ログインしてちゃっちゃと解決。なるほど、通常空間から挑戦できるのはこのためか。


「で、エルル。襲撃はありましたか?」

「……無かったと言いたいところだが、あったな。それもお嬢たちが使ってるのとは明らかに違う香を使ってたやつ」

「それはヤバいのでは?」

「ニーアマルカが全部吹き飛ばしてたから問題なかったぞ」


 ニーアさんが大活躍だったらしいが、やっぱり来たか。まぁ神に干渉するチャンスなんだから、来ない訳が無いとは思ってたけどさ。だから警戒してもらってたんだし。

 もちろん実行犯は全員捕まえたらしいのだが、どうも正気じゃないというか、ダメゼッタイなオクスリの中毒患者っぽいというか、使い捨ての駒的な気配が強い感じらしい。


「……まぁ、お香って時点で何となく、そんな予感はしてましたけど……」


 邪神の信者が作るお香。事実を述べているだけなのにアウト感が強い。まぁ実際に完全アウトというか、真っ黒だから何も間違っていないのだが。

 もちろんフリアドでもダメゼッタイなオクスリは完全にアウトだ。摘発対象で取り締まり対象である。エルルも過去にそれを扱う組織を潰した事がある的な話を前に聞いたし。

 たぶん、前から作ってはいたと思う。だが今回のイベントで、お香の材料が大量に出回った。大量にあるなら、一部が不自然にどこかへ流れていても分かりにくい。だからきっと、大量に作れたのだろう。


「儀式でも使いますし、オクスリ漬けにしてしまえば色々便利に扱えますからね。微妙に理性が残っている状態を維持して周りの人間を引きずり込ませる事も出来ますし。信者にしたり生贄にしたりする難易度もぐっと下がるでしょう」

「本当に厄介なんだよな、その手の犯罪は。物の携帯性と保存性がいいのも厄介だ」


 相手が相手なので、流石に戦争準備中だった最初の大陸の国々もそちらの警戒を優先し始めたようだ。そりゃそうだ。というか、そもそも戦争の準備をしている方がおかしい。

 っていうかこれ、掲示板の流れ的に、たぶんアキュアマーリさんまで話が行っただろ。でなきゃ近衛隊の鎧を着けた竜が最初の大陸をあちこち飛び回る訳がない。……いや、近衛隊が動くって事は、ハイデ様の方か? あの人を抑える為に近衛隊が走り回るっていうのは納得しかないんだけど。


「お嬢たちの方は大丈夫だったのか? 主犯はそっちに混ざってるんだろ」

「混ざらざるを得ないからこそ、内部では大人しく普通の召喚者プレイヤーのふりをしていたと思いますよ。だから外から自分たちに繋がるものを可能な限り削ぎ落した人員で襲撃をかけたんでしょうし」


 実際、司令部からの情報でも、今のところ救出に失敗したという報告は出ていない。救出は順調だ。……まぁ空間異常を解決しない限り外に出れない上に、応援が来るのは自由だからな。そんな逃げ場のないところではやらかさないだろう。

 もちろん1ヵ所の空間異常に『バッドエンド』のメンバーしか突入しなかった、とかいう事になれば話は別だろうが、そこは司令部がしっかりと信頼のおけるメンバーを振り分けている。空間異常の攻略を最速で進めてからあと1歩のところで止めて、予備戦力として待機している召喚者プレイヤーもいるだろう。


「なるほど。自分たちが動けないから、別の方法で手を出してきた訳か」

「あとはオクスリを使った状態での運用試験とかいうのもありそうですよね」

「…………無駄がないな」

「本当に。とても腹は立ちますけど」


 そういうところは本当に抜け目が無いからな。もちろん普通の召喚者プレイヤーとして動いている間は、普通の報酬を受け取っているだろうし。それをどう使うかは別だけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る