第1156話 40枚目:稼働開始

 建造物が相手だからか、それとも敵味方という区別が出来ないからか、【調律領域】による魔力供給対象には指定できなかった。まぁしてても無理があっただろうけど。

 魔力が残り1割を切ったところで手を離したが、どうやら中断しても問題ない類だったようだ。なのでフライリーさんやサーニャといった魔力(MP)の最大値が高いメンバーと交代しながら魔力を注いでいく事しばらく。

 どこかから目の前の塔に伝わる形で、ゴゴン、という、重い音が伝わってきた。


「……何か今音がしませんでした?」

「聞こえたっすね。こう、何かが動き出した感じの音が」

「とりあえず姫さん、離れようか」


 そうだね。環境調節、って事は、たぶんこの近くにいるとぐしょ濡れになっちゃうし。

 一応手を離して魔力を注ぐのを止めても、何かが動いている音が止まらないのは確認した上で環境調節塔から離れる。塔の根元を調べていた召喚者プレイヤー達も、箒や魔法を使って砂の穴の外へと退避していた。

 タイミングとしては割とギリギリで、だんだんと上へあがってきているのが分かる何かが動く音は、とりあえず今見えている範囲の頂上に到着したらしい。そこから、若干軋むような音を立てつつだが卵型になっていた塔の頂上が重なったひだを持ち上げるように動き出し――どぼぼぼぼ、と、何か思ってたのとちょっと違う感じで、大量の水を吐き出し始めた。


「……もしかして、いい感じに細かく噴き出す為の部分が削り取られて無くなってるとかそういう感じでしょうか」

「何かそんな感じっすね……すっげーこう、コレジャナイ感がするっす。いやまぁ、元の形は別として、大量の水はありがたいんすけど」

「とりあえず、拠点には出来そうだな。あの水の勢いがどれくらい続くかにもよるが」

「でもこの砂でどうやって拠点を作るんだろうね? ちょっとぐらい柱を立てたって、すぐ倒れそうな気がするけど」


 しかしこうやって離れた場所で見ると土筆っぽいな。元は違う形だったというか、たぶん機能的な物も含めてもっと周りに飾りみたいなものがあったんだろうけど。

 まぁでも確かに、本来の状態じゃないとはいえ大量の水が供給されるというのはありがたい。砂漠の真ん中で水を補給できる場所っていうのは貴重だからな。拠点にするのは、まぁ、工夫すればいいんだ。

 現に召喚者プレイヤーの人達がわっと喜んで、滝のように流れ落ちていく水に向かって飛び込んでいっているし。私の領域スキルに合わせて移動していたらしいが、それでも乾燥がキツかったんだろう。気持ちは分かる。


「……。あれ?」

「どうした、お嬢」

「なんか違和感というか…………領域スキルの維持が楽に、なっているような?」


 大量の水を見るだけで癒される気がするもんなー。……と思ったところで、本当に楽になっている事に気が付いた。ナヴィティリアさんはいないので体感になるが、制御能力訓練はこれでもかと積んできている。だから、たぶん間違っていない。

 そもそも領域スキルを展開するのに、通常の状態だと負担はない。それが通常展開の状態で負担がかかっているのは、沿岸ほどではないにしても「モンスターの『王』」の力による影響があるからだ。

 で、それが楽になってるって事は、通常の状態、つまりこちらの世界として正しい形に近づいてるって事、だよな? いや、それ自体は良いんだ。むしろこの場所を拠点にするって事を考えれば、大歓迎である。


「……とりあえずカバーさんを指揮官に、防衛戦を開始しましょうか。今もそれなりに人数がいますし、水が湧き出る安全地帯があると聞けばいくらでも応援は来るでしょう。同時並行で拠点構築の資材も運んでもらえればなお良しです」


 ただ、うん。現在の大陸の状態でそれをやるとどうなるかって言うと……まぁ、当たり前だがそれに反応して、モンスターの群れぐらいはやって来るよねって。

 しかしほぼ向こうの領域になってるからか、反応が早いな。現時点の最強装備でもあるから、一応旗を持ってきておいて良かった。

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