第1129話 39枚目:行動継続

 さて徐々に救助済み物質系種族の人達の人数を増やしつつ、日中に準備で夜に救助&攻撃、という事を繰り返すこと3日。まだまだ敵である砦型モンスターの数は減らないが、それでも結構な空間を確保する事に成功していた。

 たぶん金曜日の夜には北側の大穴と、最初に突入した大穴から広げていった空間が繋がるだろう。不協和音も、救助済みの人が増えたことでかなり音源が遠くなっている。

 北側の大陸における進捗も似たようなものらしく、順調と言えるだろう。という事で、今日もエルルに回避をお任せした状態で、旗を掲げて領域スキルを超ブーストしていた。


「そろそろ砦の厚みを削り切って、大陸内部に辿り着けそうですが……」

『それは別に何も問題ないんじゃないか?』

「一応、防衛ラインを抜かれたという扱いで、何か変化が起こりそうじゃないかなと」

『……そこまでこっちの様子を確認してるなら、この音が響き渡った時点で何か動いてると思うぞ』

「まぁそれもそうなんですけど」


 何でそんなことを言い出したかって言うと、まさに今、上空から見る限りでは砦の厚み方向最後のブロックの1つから、中心部を構成するパーツが運び出されてるからなんだよな。

 不協和音はだいぶ遠くなったから抵抗もあるんだろうが、それでも生きているがゆえにインベントリには入れられない歯車等のパーツを持った召喚者プレイヤーがわらわらと出てきているから。慣れた作業って感じの辺り、最前線に慣れているベテランだろう。

 もちろん警戒していない訳ではないし、実際周囲には多くの召喚者プレイヤーがいてモンスターを迎撃したり、ガーディアン然とした大きな影と戦ったりしている。他のブロックに向かっている召喚者プレイヤーもそうだろう。


『というか、動き的にお嬢の領域スキルも届いてるんじゃないのか?』

「えぇ、届いてますよ。陽炎のような境目は、砦の構造物ギリギリに見えていますから」


 届いてるんだけどなぁ……。それなりの圧を押し返して、届けてるんだけどなぁ……。

 なんて若干のもやもやを抱えつつも姿勢は変えずに、エルルに回避をお任せして召喚者プレイヤーの動きを見ていると、わらわらと召喚者プレイヤーが最後のブロックに集まって突入し始めた。たぶん中心部からの救助(?)が大体終わったから、戦力を集めて討伐にかかるんだな。逃げ回る相手だから手数がいるんだよな。

 周りの「生きている部品」を先に運び出すのは救助になるからだが、砦を構成しているモンスターの攻撃手段を減らすという目的もある。だからまずは注意を引いてちょっかいを出し、周りの部品を射出させて回収しているんだとか。


『なら問題ない筈だが……』


 私が引っかかっているのが伝わったのか、唸り声でそう返しつつだが、エルルも警戒の態勢に入ってくれたらしい。

 しばらくして、あれこれもしかしていつもより緩いけど「嫌な予感」になるのでは? と思い至り、カバーさんに一応伝えておこうとメールを書くことにした。

 ところで。



 ゴギンッッッ!!!



 鈍い音。というには高い、硬質な音が戦場に響いた。

 音源が遠くなった不協和音をもかき消す大きな音。何か硬いもの同士を勢いよくぶつけたような。その勢いで、折れたり砕けたり、そういう方向で壊れたような。

 何が、とメール画面を閉じて戦場へ視線を戻す。旗を掲げたままだから手が使えないんだよね。メニューは視線と意識で操作できるんだけど。


「……は?」


 ともかく。戦場に視線を戻し、一番に視線を向けたのは、大陸内部への最後のブロックだ。何かあるならあそこだろうし。直前の時点から気になっていたから。

 なんだけど。そこには、一見すると何も変わらない光景が広がっていた。ブロック単位で倒され解体されて切り開かれた地面と、それを囲むような砦及びモンスターと戦闘。

 けど。



 さっき召喚者プレイヤーが大挙して突入していったブロックがあった場所に……明らかに左右から押し挟まれる形で潰れている、砦と同じ色と材質っぽいものが、砦の間から飛び出していた。

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