第1118話 39枚目:全域変化
突入していった
全く変わらず槍? は山ほど飛んできているので、正直姿勢が安定しているとは言えない。それでもエルルは回避する旋回運動の径を大幅に縮めてくれているので、ずっと視界の内には収まっている。
一際大きな穴が開いていて崩れ方も酷いから、元々見失う可能性は低かった。ステータス依存の視力も十分その場所を捉えられている。それでも何かしら偽装があるかも知れないと、警戒しての注視だった訳だ。が。
「いやしかし、あれはあれである意味分かりやすい事で……」
『まぁあの島と同じで、あれが全部敵の「武器」なんだろうから、なっ!』
普通に考えればその通りなのだが、外にいる敵への対処より、懐へもぐりこんだ敵への対処を優先するだろう。それに、特に撃破の優先順位が高いだろう私への集中砲火は続いているし、モンスターの群れの吐き出しも止まっていない。
だから恐らく、対処しているのは余剰リソースと呼ばれる部分だ。大きく穴を開ける形で破損していた砦が、その穴の縁を内側へ丸め込むようにして、くにゃりといっそ柔らかく感じるほど滑らかにその形を変えて見せた。
そのままその場で戦闘になっているので、砦の内側に入った穴の縁部分はそのままモンスターになっているのだろう。どんな形かは分からないが、戦闘によるエフェクトは相当に激しいから、結構な強敵のようだ。
「まぁ、元から用意されていたという感じではない、というのは幸いでしょうか。穴が開いたからあわてて用意したような感じ……だと思いますし」
なんで曖昧かというと、私視点では陽炎のようなものを透かして見る事になるので、大変と見辛いからだ。だから大型でそんなに動き回ったりはしてない、という事ぐらいしか分からないんだよな。
もちろん、重量があって巨大でとにかく後ろに通り辛い形というのは門番あるいは障害物としては大正解だ。これは、戦略ほどの事を考えて無くてもノータイムで浮かんだ考えが最適解なやつか? 天才型とか厄介だな。実際はどうなのか分からないが。
……沿岸部を任されているだけあって、このどこかの長い城みたいな砦を運用している個体がそういうタイプなだけだと、いいなぁ……!
「とは思いますが実際はどうか分からない訳で。一番時間と余裕を与えたらダメなタイプなんですよね、その場合」
つまり、難易度が高い。どこまで上がるんだろうな、ほんとに。そろそろ天井が見えてきてもいいと思うんだけど。フリアドは戦略ゲーもしくは戦争ゲーだったんだろうか。
私はボックス様を追いかけて、コトニワのうちの子と楽しくのんびり過ごす為にフリアドを始めた筈なんだけどな……? と、ちょっと現実逃避(ゲームだが)をしていても、旗を掲げて圧力に耐えているし、突入部隊の戦闘の様子と、陽炎のようなものを見る事への注意はそのままだ。私も慣れたな。
さてここで突入部隊の事なのだが、砦への突入という形にはなるが、一応大陸への上陸という形になる。それに対する反応を見るというのが第一の目的。リソースを削って妨害してくるという動きを見れたのでそちらは目的達成として、第二の目的が何だったかというと。
―――――――――――――――――――――!!!
「っぐ!?」
『なん……っ!?』
唐突に、戦場全体に響くんじゃないかという大音量で、金属系の非常に耳に刺さる不協和音のような音が響き渡った。エルルが体勢を崩すって時点で相当なのだが、それでも飛んでくる槍?を、辛うじてとはいえ躱すあたりが流石エルルだ。
私もつい旗を降ろして耳を塞ぎそうになったが、それを何とか耐えて掲げ続ける。自分の体の動きを押さえつけるついでに周囲を見回した限り、この戦場にいる全てに今の音は影響しているようだ。とにかく混乱が酷い。
海の上も空の上も、恐らく海の中もだろう。不思議なのはモンスターも同じように混乱してるって事だが、理由を別にしてこんな音が出せそうな奴は限られる。という事は。
「[砂も転がれば石となり
石は大地に抱かれ岩と化す
砂粒小石とと侮るなかれ
空に輝く星々とても
過去は小さい粒である]――」
まだ続く大きな音に顔をしかめるのを耐えつつ詠唱開始。【無音詠唱】及び【並列詠唱】と【結晶生成】を使う事で、詠唱しながら自分を黄色から茶色系の宝石で飾っていく。混乱しているのか何なのか、飛んでくる槍? も止まっていてエルルと私はフリーだ。
まぁそのエルルも耳がぺったんこに伏せられているので、相当堪えているようだが。それでも詠唱が聞こえたのか、翼で音ごと空気を打って北へと向かってくれた。
私は意識して領域スキルを南側に展開しつつ、掲げた旗を領域スキル増幅器としてだけではなく、魔法を使う為の武器だとも意識して、移動してなお出来るだけ遠くに狙いを付けた。
「[――落ちる星は巨大な岩塊
冷たく重く焼け落ちる程に光を放ち
それでもなお尽き果て切らず
地に落ちて突き刺さりて
破壊を撒き散らす災厄と化す]――」
バサ、と一度、銀色に染め抜かれた旗を、回すように翻し。
「――――[プリングダウン・メテオ]っっ!!」
前進を指示するように、斜め前に振り下ろした。身にまとった宝石が1つ残らず砕け散り、発動位置が術者の手元「ではない」魔法が形を持つ。
この魔法自体は以前にも使ったことがある。魔法にしては珍しく物理打撃属性を含む、土属性の魔法だ。そう、ヒラニヤークシャ(魚)の時に、ノックバック効果目当てで下から打ち上げたあれである。
あの時は発射点を自分の手元に持ってきたし、神の化身相手かつ周辺被害を抑える必要があったから密度を上げて大きさを小さくしたが、本来は違う。何せ、メテオと名の付く魔法なんだからな。
当然ながら。
遥か上空から、結構な大きさの隕石が、砦の離れた部分を直撃した。
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