第1103話 38枚目:仕切り直し

 島の奥から飛び出して、もとい逃げ出してきた召喚者プレイヤー達はとても気になる事を叫んでいたが、とりあえず今は避難が優先だ。エルルが大きいと言ってもその場にいた全員を乗せられる訳ではないので、乗せられるだけ乗せたところで一旦退避である。

 脱出してきた召喚者プレイヤーの人達が残った竜族の人達を移動させていたので、たぶん脱出自体は上手くいくだろう。エルルによる脱出は、島からある程度離れたら竜族の人達が飛び降りる形で出来るし。


「しかし、いきなり影響範囲が広がりましたね」

『まだ旗は使うなよ、お嬢』

「使うのなら退避が間に合いそうになくて、相手の注意を惹く為ですね」

『……流石にその旗を囮に使うのはどうかと思うんだが』


 やだな、敵の注意を引いて周りの安全を確保するのも立派なタンクのお仕事だよ。それに、旗だけを囮にする訳じゃないし。ちゃんと掲げ手の私も一緒だ。

 2回目の救出と脱出をした頃には、島の周囲は大きく空間が空いていた。周囲に展開していた人たちも無事退避できたようだ。エルルに乗せた人たちで最後だろう。まー見事に隊長格の人ばっかり残って。「俺はいいから先に行け」は立派だけども。

 で、その2回目の脱出の時に、1回目よりずっと遠くまで離れなければ影響範囲を脱せなかったことからさっきの会話になった訳だ。


「それはそれとして、そろそろ展開しなければ周りを囲むことも出来なくなりつつありますが」

『というか、周りからモンスターが集まってきてないか。戦闘が激しくなってる気がするんだが』

「むしろ領域スキルに近いって事は、モンスターへ強化が入ってる可能性も高そうですね。とりあえず、通常展開します。エルル、一応備えて下さい」

『おう』


 私とエルルは平気だが、遠くからでも揺れているのが分かるほど大揺れしている島の周囲は激しい戦闘が起こっている。ここに来るまでは私の領域スキル無しでもそれなりに有利だった筈なのが、今は戦線を持たせるのがどうにかって感じだ。

 エルルが若干高度を落としてくれたので、中心をやや下に置く形の球形に領域スキルを展開する。案の定展開と共に押されるような力がかかったが、分かっているなら何も問題はない。

 インベントリから「皇竜の御旗」を取り出して、圧に耐えつつ体の横に置いて周囲を見回し……ん? と、ちょっと首を傾げたくなるものを見つけた。


「エルル。確かこの場所って、完全に相手の領域スキルみたいな能力の圏内でしたよね?」

『そうだな』

「……なんで領域スキル同士の境目が、正面にしか見えないんでしょう」


 ちなみにあの陽炎みたいなの、通常は領域スキルを展開している本人同士にしか見えないんだそうだ。なので他の誰かに確認する訳にもいかないんだが、少なくとも私が見る限り、左右にも後ろにも見えない。

 おかしいな。領域スキルの実質内部で展開したんだから、それこそ全方向に見えないとおかしい筈なんだけど。


『その境目が俺には見えないが、向こうのはお嬢ほど融通が利かないんじゃないか?』

「……なるほど」


 つまり、相手は展開できる形が決まってて、障害物があったらそこで強制的に展開が止められるって事か。あ、だからこっちを押しのけるような圧がかかってるのか?

 その仮説を得て改めて周囲を見回すと、押されていた筈の戦線はどうにか盛り返しているようだ。そしてさっきまではダウンしていた竜族の人達も、遠くから順番に参戦している。

 島から私までの距離より遠ければ問題ない、というのが確定したら間違いない。……という事をカバーさんにメールで相談。ウィスパーは会話中だったらしく通じなかった。


「で、問題はあの揺れまくってる島なんですが……」

『そういえば、中から出てきた召喚者がなんか言ってたな。お嬢、その辺何か情報ないか』

「司令部も今忙しいみたいですので、まだ情報が来ないんですよ」


 なんだろうね、SAN値を削ってくる案件って。まぁ今までの「モンスターの『王』」も大概だったけど、最初から飛ばしてくるなぁ……。

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