第1084話 37枚目:思わぬ依頼

 という訳で、8月の期間一杯はイベントダンジョンに籠る事に決めて、実際ほぼ全てのログイン時間をイベントダンジョン探索に突っ込んでいた。

 ……の、だが。


「はい?」


 何故か途中で「第一候補」に呼ばれて、竜都のお城まで行って事情を聴いて、第一声がこれだ。え、ごめん。訳が分からない。何で?


『うむ。繰り返すが、「第三候補」には、我らが拠点となっている以外の島を探索してほしいのである』

「いえ、内容が聞き取れなかったという意味ではなく。その理由がさっぱり分からない、という意味なのですが」


 丁寧に、一言一句全く同じに繰り返してくれた「第一候補」だが、違う。そうじゃない。私はその理由を聞いているんだ。

 私達のクランである『アウセラー・クローネ』は、最初の大陸の東、北国の大陸から竜都の大陸に向かう航路の南に広がる海に、広範囲にわたって点在している島の一部をクランハウスとしている。

 それ以外の島、という事は、その点在している島を1つ1つ調べろって事なんだろうが、なんで今、このタイミングでやんなきゃいけないのかっていうのがさっぱり分からない。だってボーナスタイムを切り上げろって事だろそれ。やだよ。


『しかし、我らの中で最も機動力に長けている集団であるのは「第三候補」達であるからな。断られると困ってしまうのであるが』

「だから私は、何故今このタイミングでその調査をしなければならないのか、と聞いているのですが」

『うむ?』


 うむ? じゃなくて。心当たりが無いから聞いているんだが。視界の端で一応、もう一度クランメンバー専用掲示板を開いてみるが、イベントダンジョンの変化についての情報が最新だ。その前は、レイドボスに挑みに行く前となっている。イベントダンジョン内部では、召喚者プレイヤー特典の連絡手段が基本的に使えなかったからな。

 もちろん今は、その元凶であったレイドボスが討伐された為、普段通りに使う事が出来る。だから何か情報が更新されている可能性もあるが、それなら私は毎回ログインした直後に確認しているから、気付いている筈だ。

 そうでなければメールが届いている筈だし、重要な情報なら「万溶の融合液」を渡したときに元『本の虫』組の人から聞いているだろう。そのどれもで何も聞いてないから、訳が分からないって言ってるんだ。


『……もしや、聞いておらぬのか?』

「何をです?」

『「拉ぎ停める異界の塞王」の領域における、特殊救出対象についてである』

「初耳ですね。いるだろうとは思ってましたけど」

『初耳であるか。うーむ……全員に周知したつもりであったが……』


 またなんか連絡ミスったのかこの隠れ天然。……と思ったのは隠し通せただろうか。割とマジで、特に情報共有関係。そろそろなんか対策考えてほしいんだけど。

 ともかく。ハイデ様じゃない方、というと失礼かもしれないが、私が予想はしていても知らなかった特殊救出対象、「モンスターの『王』」に直接捕まえられていた誰かというのが、なんと不死族の人だったらしい。

 自分で自分を堅固な結界で包んで、その中で思索という名の考え事に没頭していたその人は、どうやらかなり昔から竜都に滞在していた人だったようだ。そして不死族というからには、何らかの研究を行っている人なのだが。


『それがどうやら、神の加護と祝福についての研究をしている方のようであってな。今の段階で出てきた話だけでも、相当に大神の加護の強化や加護封じの対策が出来るのであるが。出来れば同じ研究をしていた他の不死族を探してほしいとの事なのである』


 なるほど。それは確かに急ぎだな。これは対策が絶対に必要、というのが分かり切ったところで手札が出てくる。ある意味お約束だ。苦労している分だけ力の入れ方が変わってくるし。


『そしてさらに話を聞いたところどうやら現代の不死族は、ひとところに固まっているのではなく、離島を工房のように改造して個人で暮らしているようなのである。よって島を1つ1つ確認する必要があり、機動力があり、なおかつ隠蔽の類を見破れる可能性の高い「第三候補」に頼みたいのであるが』

「なるほど。話は分かりました。……で。ちなみに「第一候補」。それが分かって周知したのっていつです?」

『元の時空における、討伐その日の夜である』

「なるほど。……浮かれているのは分かりましたが、たぶんその時、私は一足先に休んでいましたよ」


 ははは。私もだいぶ「第一候補」に慣れたもんだ。……「はっ!?」ってリアクションが見えたぞ。午後の緊急ログインでログイン時間が削れた分だけ、私が早めに引っ込んだの、完全に忘れてただろ。

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