第1076話 37枚目:段階進行

 さて、今度も過剰火力を叩き込み、指を落とす余裕もなく削り切ってやるつもりだったのだが、やはり見えている体力バーは少し残ってしまった。っち。

 それでも残り1割は切っているので様子を見る。案の定笑い声をあげて最後の指を落とした「蝕み毒する異界の喰王」は、その上に表示されている体力バーをまず真っ黒に変えた。

 周囲の地面を自分だと書き換え、取り巻きと「手」が蠢く範囲を広げたところで、3ヵ所に体力バーが表示される。地面付近のものは3段のままだがほぼ全回復していて、手首のところに表示されたものは満タンだ。


『あははははははっ! たのしいね! すっごいたのしいねぇ! あははははははははははっ!』


 そしてそんな声と共に、手首の辺りに表示されていた体力バーが、1割ほど減る。そして、焦げたり凍ったりした表面を突き破るようにして、5本の指が生えてきた。当然、その上に表示される体力バーが一気に端まで回復している。


『たのしいね、たのしいね! たのしいね!! だからもっと、もーっと戦おう!!』

「実質体力10倍とか、流石に正面からでは付き合っていられないんですが!?」


 正規のフラグを踏んだからか、3ヵ所の体力バーは今度は消えない。が。ここまでと同じく地面から生えている「手」を狙って攻撃しながらしばらく手首の辺りにある体力バーに目を凝らしていると、その青い部分が、極僅かとはいえ、増えている事に気が付いた。

 うん。これ、10倍どころじゃないな。ちょっと何とかしないとマジで千日手だぞ。要するに、回復しきる前に指を落としきる必要があるって事だろう? それも最低10回。

 ここでログイン時間を確認。内部時間であと5時間ぐらいか。やっぱり結構かかってるな。このままでも削り切れるだろうが、時間がかかる。少なくとも、今晩中、というのは無理だ。


「出来ればキリ良く終わっておきたいところですが……!」


 どうする。どうすればいい。火力を上げる為には。時間単位のダメージを上げるには、どうすればいい? いや地道にやれよって言われたら反論できないんだけど、このままダラダラ耐久戦してると緊張の糸が持たない気がするし。

 それに耐久戦だと消化不良になりそう。あと、疲れ切って討伐を喜ぶ余裕もなくなる感じがする。というか、連絡手段が使えないから、「拉ぎ停める異界の塞王」の方がどうなってるか分からないんだよな。司令部は把握してるだろうけど。あっちが先に終わって応援に来てくれるならいいが、向こうも応援が必要だったら余力は必要だ。

 となると、やっぱりペースを上げるしかないよな、これ。しかし問題はその方法な訳で。面攻撃も範囲攻撃も既に叩き込まれているから、その上で総合ダメージ量を上げる、となると……。


「結局ダメージ床が欲しいって話になるんですよね。床が敵になってるんですが」


 現在の状況の何が厄介って、本当に厄介な相手である「手」が地面付近にあるって事なんだよな。そしてそれが、大量のモンスターで隠されているからどうにもならない訳で。

 それこそどこかに、地上1mぐらいの高さに切れないワイヤーを張ったりできれば、相当な量のモンスターが勝手に死んでくれると思うんだけど。その切れないワイヤーが無い訳でさ。

 エルルの大技も連発できないし、本体に届くだろうからダメージにはなるけど、反動が大きそうだ。もうちょっと何とかなる手段は無いだろうか。


「……そういえば、壁系魔法はまだ使ってませんでしたね。ある程度は避けるでしょうけど、召喚される根元にでも設置すれば、多少はやりやすくならないでしょうか」


 地形変化があったし、地面があれなせいで簡易砦を作ろうって動きが無いんだよね。「蝕み毒する異界の喰王」の動きに合わせて前線を動かさなきゃいけないから、固定拠点は作れないって判断だったんだろう。

 それに、一応土系の壁魔法はあったんだけど、あの範囲が広がるのに巻き込まれたらどうも「素材」として取り込まれたっぽいんだ。まぁ相手が頑丈になるなら、その分は攻撃に回した方がいいよな。

 とりあえず、カバーさんに大丈夫そうな場所か方向を聞いて試してみよう。いきなりど真ん中に設置して、うっかり相手に吸収されて攻撃に転用されると困るし。

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