第1071話 37枚目:最終幕状況

 ここからが本番だ、と気合を入れて、実際に襲ってくるモンスターの数だけでも十分一線を画する戦闘が始まってしばらく。なんというか、流石レイドボスと言うべき性能が相手にある事が、分かってはいたが確定した。

 まずあの「手」だが、あれに捕まると一発で「僕」と名の付くモンスターに変えられる。しかもどうやら、瞬間的に状態異常を積み込んでいる、という形になるらしく、即死耐性のアクセサリが働かなかったそうだ。

 しかも「僕化」した場合はその場にとどまり、モンスターの出現スポットの1つになって、他の半分ぐらいの勢いでモンスターを出現させる。だがこのパターンで一番厄介なのは、元となった召喚者プレイヤーもしくは住民の持っていたアビリティの内、ランダムな1つを使える状態で出現するという事だ。



 流石にアビリティの難易度に反比例した確率で継承もしくは学習するようだが、威力が低くても連発してくるし、威力が高ければ普通に大ダメージを食らう。最初の混乱は酷い物だった。まさかそんなギミックがあるなんて思わないじゃないか。

 ちなみに「僕化」した召喚者プレイヤーないし住民はもちろん後方でリスポーンするのだが、例によって死んでも解けない状態異常が積み込まれた状態だ。つまり、戦線復帰に時間がかかる。

 で。そうなるとあの「手」に捕まる事は絶対に避けなければならないし、そうなれば地面にちょこちょこ「手」が生えている「蝕み毒する異界の喰王」の足元へは踏み込めない。だから前衛は耐久して、後衛による火力で叩こうとした訳だ。



 なのだが、削れない。ちょっとおかしいぐらいに遠距離攻撃が効果を見せないのだ。魔法も物理も関係なく。訳が分からない。私がティフォン様への祈り込みで巨大な炎の剣を叩き込んでようやく傷がつくとか、明らかに遠距離攻撃に対する特殊防御があるだろう。

 どこかにタネがある筈だ、と、そこからしばらく「蝕み毒する異界の喰王」の周囲に攻撃を続けてみたところ、木の形をしてその場を動かないのにモンスターを召喚しないモンスターを発見。それを攻撃して倒したところ、さっきよりは遠距離攻撃が通る事になった。

 優先順位が分かったのなら、素早く特殊防御を発生させる取り巻きを倒して本体に取り掛かればいい。……のだが。モンスターを召喚する取り巻きに比べて、本体が召喚しなおすのが速い。しかも狙っての撃破が連続すると、周りのモンスターが肉壁のように守りにかかるようになった。


「しかもその上取り巻き召喚は通常攻撃扱い、つまりいくら周りを削ってもダメージらしいダメージは入らないと来ましたか。面倒な!」


 いやー本当にレイドボスらしいレイドボスだ。召喚者プレイヤーの全体が2つに分かれる=人数が半分になってる上に、地上の激しい戦闘で更に人手が取られている状況でこれっていうのが本当にフリアドの運営だよ!

 難易度を考えろとあれほど! と叫んだところで目の前の「蝕み毒する異界の喰王」が弱体化されるわけではないので、詠唱の為に口を動かす。雑魚を一瞬でも減らさないとどうしようもないからね。

 しかし面攻撃である私の火力でも数秒しか空間が空かないってどんな勢いだ。とにかく攻撃の手が足りないぞ。あれか。地上の戦いは完全に住民の皆に任せて、召喚者プレイヤーは全員イベントダンジョンの奥地に集合する予定だったとか?


「……もしくは、領域スキルがもうちょっと普及している予定だった、とかでしょうか」


 現在の全域デバフ負荷の強さは……神の祝福があればそこそこ戦える、ぐらいかな。領域スキルに持って行かれるリソースの感じからすると。だから、召喚者プレイヤーなら普通に動ける、と言っていいだろう。

 とはいえ、そうやって召喚者プレイヤーを大量に動員したら、どうせ数秒とかだけ一気に全域デバフ負荷の強度が上がる系の攻撃もしてくるだろうしな。私だけだと、流石に戦場全体はフォローできない。

 運営の想定が分からん。そういう意味でも情報が足りないんだよな。どのくらいの難易度のつもりなのかがさっぱり読めない。いい加減、情報の出し方の腕前を上げてほしい。


「まぁ少なくとも、領域スキルの取得条件すらほぼほぼ分からない、って事ではなかったんでしょう。たぶん。いまさら言っても遅いんですけど」


 そういう私も【調律領域】の元になったスキルの習得条件は分かってないんだけどな。これもナヴィティリアさんが顕現している間に聞いておくんだったか……!

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