第1059話 37枚目:攻略要素

 その後さらにしばらく押し問答をして、辛うじてハイディレータさんの被テイムを押しのけきる事に成功した。途中で何度、あなたは駄々っ子かと言いたくなったことか。あとあちこちツッコミどころだらけで、皇女ロールを維持したまま淡々と論破するのが大変だった。

 流石にハイディレータさんも、ここで子供のようにじたばたと暴れてそれが後世に残されるのは嫌だったらしい。召喚者特典大神の加護では動画を残す事も出来るっていうのは説明に入ってたからな。


「でも、ここで引くのも気が収まらないわ!」

「退いてください。神々の加護が制限されているんですから、お姉様も影響を受けている筈ですよ」

「でも大神の加護を分けてもらえればある程度解決するのよね!?」

「非常に限定された条件が付いていて、お姉様は当てはまりません」


 流石にハイディレータさんを「乗り物枠」に入れる度胸は私にはない。という事でなんとか論破成功し、そっとカバーさんが呼んでくれたお迎え部隊(竜族と親交を特に深めた召喚者プレイヤー集団)に連れられて、ハイディレータさんは後方へと下がっていった。


「普通はここまで【空間古代魔法】を上げている召喚者プレイヤーがいない想定だったんでしょうね。たぶん。通常ルートで習得しようとすると、すさまじく難易度が高いようですし」

「そもそも、救出の難易度も相当に高いかと。かの方が自らを封印している分だけ捕まえる力が強く、なおかつ大規模攻撃を行っても問題ない、と判断できるだけの情報はありませんので」


 だからたぶん、それこそ封印状態のまま、アキュアマーリさん辺りに対処をお任せする事になってたんだろうな。本来なら。あの人なら神器の事もあるし、私という例外がいなくても召喚者プレイヤーとある程度交流を持っていただろう。

 さてハイディレータさんが後ろに下がって実質平和的に退場したところで状況の確認だが、どうやら遠慮なく火力を叩き込んでいるだけあって順調に削れているようだ。モンスターの湧き速度はそのままだが、床や壁が蠢く感じが鈍くなっているから。

 まぁそれでも、まだ床も壁も、高い上に暗いから見えないからたぶん天井も、色々なあれこれをぐちゃぐちゃに混ぜっぱなしにしたようなもののままだ。まだまだ体力は残っている、とみるべきだろう。


「しかし本当にどれだけリソースがあったのやら。まぁ例によって、空間の歪みをある程度は吸収していたんでしょうけど」


 ……そういえば、厄介度を上げた高確率で元凶の集団が妙に大人しいな。というか、気配も感じないのはかなり久々じゃないだろうか。


「この特殊空間が出来てから、一度も妨害が入ってませんよね? 接触があった筈ですから、何か仕掛けてくるのでは、と思っていましたが……」

「あぁ、例の集団ですね。……実は、不確定情報故に表には出ていませんが、生活圏の中心と言っていい場所での超大規模なモンスターの召喚に加え、例の肉の柱及び眷属の召喚、氷の大地における儀式の強行未遂、という事で、流石に何かしらの罰が下ったのでは、と言われています」

「おや、そうだったんですか?」

「はい。ただ不確定情報ですので、確定ではないのですが。しかし大神官さん曰く、罰が無かったとしても、あの儀式の強行及び最後の最後でその強度を上げたカラクリは、恐らく神器の行使であるとの事でした」

「なるほど。流石におかしいと思ったんですよ。ギリギリ耐えれてたのに、一気に強度が上がりましたから」


 どうやら身銭を切ったのはほぼ確定でいいようだ。それに新人を派手に巻き込んだし、危うく『スターティア』が機能不全を通り越して死んでしまうところだったからな。流石に大神運営もまともなペナルティを科す事が出来たか。

 それでこのリアル2ヵ月ほど不気味なほど大人しかったんだな。流石に、崇める神自身にペナルティがいくか、必要な神器が使えない状態だと動きようがないか。

 ……それならそうで徹底的に隠密するとは、やっぱり厄介なんだよな。


「まぁしかし、とりあえずこの大一番には妨害がこない、というのがほぼ確定なのは朗報です。それでもギリギリの難易度に思うところはありますが、このまま押し切りましょう」

「そうですね。今までのパターンからして、まだいくらかギミックは残っていそうですが……集められる情報を疑わなくていいのであれば、速やかに特定できるかと」


 来ないって油断しすぎるのも良くないんだろうけどね。だからカバーさんというか元『本の虫』組の人達も、情報を表に出してないんだろうし。

 だがとりあえず、今は目の前に集中しても問題ないらしい。いやー、何も警戒せず、純粋に全力を出せるのは本当に久々だな。頑張るか。

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