第1058話 37枚目:把握と説得

 たぶん周囲で聞いていた召喚者プレイヤーも「そこ?」と思っただろう発言の後、ふぅ、と息を吐いたハイディレータさんは落ち着きを取り戻したようだ。


「ごめんなさい。ちょっと取り乱したわ。今それどころじゃないわね」


 ……ちょっと、という言葉の定義が揺れた気がするが、そうだな。それどころじゃないな。繰り返しになるが、今も壁際に近い位置程激しい戦闘が行われているんだから。ボス戦、真っ最中である。

 とりあえず説明再開という事で、相手の正体が異世界からの侵略者という事と、それに対抗する為の召喚者という存在、今までの経緯をカバーさんが説明していく。

 そしてその締めとして、現在ボス戦真っ最中かつハイディレータさんの救出について説明し、ようやく状況説明が現在に追いついた。この説明も結構なボリュームになって来たな。まぁリアル時間でほぼ丸3年、内部時間で12年分の話だから、長話にもなるか。


「……異世界から魂だけを喚び出しているの? 直接本人を喚ぶのではなくて? 面倒な事をするわね、神々も」


 しかし相変わらず、着眼点がそこ? だな。これマイペースでまとめて大丈夫なんだろうか。なんかこう、もうちょっと違うなにかのような気がするんだけど。

 だがどれだけ型破りでズレていても、基本ステータスの暴力そのままに優秀な人らしく、どうやらこの説明を1回聞いただけで状況を把握できたようだ。私にはとてもできない芸当だな。

 で。話を把握したハイディレータさん。何故か私に向き直った。ん?


「話は把握したわ。ルミナルーシェ!」

「はい」

「私にあなたの持つ大神の加護を分けなさい!」

「はい?」


 なんて?


「召喚者というのは、大神の加護を受けているのよね。そしてそれによって死を超越している。なおかつ、この世界の存在にもその加護を分け与える事で、共に危険地帯に踏み入る事が出来る」

「確かにそれはそうですが」

「ならば、皇族として最前線に立つにはそれが必要よ! とはいえ私も立場がある。けれど、親類であるあなたからなら文句もねじ伏せられるわ!」

「文句をねじ伏せる前提なのですか、お姉様」


 いやそれはそうだけどね? 自信満々に右手を出されても、困っちゃうんだよなこれが。


「……お姉様。いくつかよろしいでしょうか」

「何?」

「まず1つ。大神の加護を分け与えるにあたり、今説明があった分と同程度の知識の流入が発生します。かなり高確率でしばらくの間行動不能になりますが、この衆人環境でまだ情けない姿をお見せになるんですか?」

「耐えるわ!」

「……本当に耐えれそうなのでそれはもういいとして、2つ。大神の加護は、あくまで危険に挑むにあたって用意された命綱であり、危険地域に踏み入れる為の免罪符ではないのですが?」

「でも実際の行動としては同じことよ!」


 やっぱかこのお転婆姫。本当に私が言うなって話なんだろうが、大神の加護を言い訳にしてるんじゃないよ。マジで私が言うなって話なんだろうが。


「やはり、と一応言っておくとして……3つ。大神の加護を分け与えた相手に対し、分け与える側の召喚者にはその行動に対する責任が発生します。正直、私はお姉様の行動について責任を負いきれません」

「…………自己責任ではだめなの?」

「だめです」

「私は皇女なのだし、その権利でもって特例で完全自己責任という事にならない?」

「なりません。というか、妙なところが雑で記録をあまり正確に残さない竜族ですら後世にその所業が伝えられているという事をもっと重く受け止めて下さいお姉様」

「だから自己責任って言っているのだけど」

「ダメです。皇族の威厳が壊滅してしまいかねません」

「ちゃんとやる事はやるのに!? ……おかしいわね。私の方が年上なのにマーリ姉様を相手にしている気分だわ」

「年下に簡単に言い負かされないでください」

「あらやだ、この姪っ子舌戦の天才かしら」

「お姉様の行動と発想が問題すぎるだけです」


 ちなみに後で分かった事だが、アキュアマーリさんとハイディレータさんの時は、長男、長女、次男、次女、三男、三女、四男、五男、という8人兄弟だったらしい。次女がアキュアマーリさんで、三女がハイディレータさんだな。先々代竜皇様は三男の人らしい。

 つーかそうでなくてもこんな爆弾抱え込めるか!? 中身は一般人だって言ってんだろ、身近な生粋のお嬢様はマリーだけでもうお腹いっぱいなんだよ!

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