第1056話 37枚目:皇女について

 封印解除の手ほどきを受けつつエルルから聞いたところによると、この皇女様の名前はハイディレータ・ロア・ヴェヒタードラグ。通称はハイデ様、あるいは第三姫様。ニーアさんによれば、先々代竜皇様の第一皇妹様らしい。

 多分一番最新の正式通称は第一皇妹様になるんだろうが、ニーアさんが知ってるだけでもお転婆エピソードが出てくる出てくる。訓練場でしれっと訓練に混ざってたり、ふらっと竜都に遊びに出ていくなんてのは序の口。麓の町まで降りて子供たちと遊んでいたり、姿が見えないと大騒ぎしていたら遺跡からひょっこり帰ってきたとかいう話もあった。

 その部分だけ聞いていると不良皇女としか思えない訳だが、どうやらハイデ様、やるべきことは通常の半分以下の時間できっちりと片付けていたらしい。だからあまり強く文句も言えなかったんだそうだ。


「……間違いなく、優秀ではあるんだよ。使い方があれなだけで……」

「あぁぁ、分かります。当時の記録にも「あれで皇族としての自覚をもっとちゃんとした形で持って頂けたなら良かったのに」というものが山ほど……!」


 どうやら直接会ったことのないニーアさんにすらそのお転婆っぷりは知られていたようだ。妙なところが雑で記録の類も割とかなりテキトーな竜族ですら後世に伝わってるって、相当有名だったみたいだな。

 そしてエルルの推測は正解だったらしく、封印の結び目が内側に入り込んでいた。うーんこれは、さっさと後方に運んでもらって、それこそ竜都でアキュアマーリさんとかにお任せした方が良かったんじゃないだろうか。

 もちろん周りでは激しい戦闘が続行してるんだけどね。温度差が酷いんだよな。まぁ要救助者の治療って意味だと間違ってないんだけど。


「……今更ですが、今ここで封印を解いて大丈夫だったんでしょうか」

「後方に下げてからだと、たぶん、暴れだすから……」

「いえでも、召喚者とかの事情を説明したりするのには落ち着いた場所の方がいいのでは」

「とりあえずそんな大規模戦闘が起こってるなら、最前線に突入して、戦いながら聞くっていうだろうし……」

「本当に詳しいですねエルルリージェさん?」

「…………第7番隊って、建前上は予備隊で、特定の担当がないだろ?」

「あー……便利に振り回されてきたんですね」


 そういう事だったようだ。なるほど、通りで詳しいと思った。かなり苦労させられてきたらしい。

 まぁ今は私の直属なので、同じ調子で声をかけられても断っていいし、騒動のしりぬぐいもしなくていいんだけど。エルルはうちの子なんだから、あげないぞ。

 とかいうやり取りをしている間に、どうにか封印の解除が出来た。ふわっ、と力場がほどける感覚がして、見えない箱に押し込められていたような固まり方が、普通にうずくまっている状態になった。


「……エルル、前線に戻ってます?」

「いいのか?」

「なんかややこしい事になる気がしますし。進化とか武器とか」

「……そういえば進化したんだった。すまん」


 割とすぐに身動きを始めたのだが、どうもエルルが逃げたそうにしていたので逃がしておく。うん。召喚者プレイヤーとか現在の状況とかの説明は、ニーアさんとカバーさんがいるからね。少なくとも、見た目妹わたしがいれば無視して最前線に突撃するってことも無いだろうし。

 しかし種族特性が解放されて、隠密行動に大幅補正が入るようになったと言っても、本当に消えるようにいなくなったな。それだけ逃げたかったって事なんだろうけど。


「どれだけ無茶ぶりをされてきたのやら」

「末姫様も、あまり先々代第一皇妹様の事は言えませんよ?」

「私は基本的にエルルの前には出ませんし、司令部の人達の指示に従ってますよ?」

「仔竜の尾長比べですっ!」


 あ、竜族的な五十歩百歩の言い回しってそうなるんだ? という知見を得つつ待つその前で、ようやく結構な大きさの銀色の竜が、その目を開いた。うん。私と同じ銀色の目だな。

 ぼんやりと周りを見ていたが、何故かその内ふっと開きかけた目を閉じてしまう。うん?


『…………お腹すいたわ』


 ……。

 …………。

 うん。まぁ。予想通りにドマイペースだな!

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