第1055話 37枚目:肉塊の中身
ぱぁん! と、ここまでと変わらない、威力に比して軽い破裂音が響き渡った。どうやら一番出来がいいものを私が使ったからか、あの「蝕み毒する異界の喰王」が喋っていた肉塊(?)部分まで吹き飛んだようだ。
私が初撃を入れたことでスイッチが入ったのか、それとも大きな瘤がほとんど吹き飛んだからか、ざわっと周囲の床や壁を問わずにモンスターが湧いてくる。羽ばたくような音もかすかに聞こえたので、天井からも来ているのかもしれない。
もちろん
「おいマテ銀色の竜って……!?」
「ちぃ姫と同じって事はまさか」
「中身のわりに肉部分がでかいなと思ったらそういう!?」
うん。そういうことなんだ。ちょっと待て。なんで皇族が捕まってんの!? 私の扱い的に最前線にはまーまず出てこない筈じゃなかったっけ!? なお、最前線に出ていなければそちらの方が問題なのは言うまでもない。
「エルル!!」
なので、最前線にいる筈のエルルに声をかけ、もう一発だ。一番出来がいいのはさっき投げたやつだが、他にも出来が良いものは自分で使うように確保してたからな。なんでも、自分で作ったやつを使うのが一番効果が出るとかで。係数的な話だろうか。
今度はさっきのやや下を狙って投げる。再び、ぱぁん! と大きくも軽い音がして、ぶわっと纏いつこうとしていた肉が吹き飛んだ。しかしそれでも剥がしきれないとは、いったいどれだけ気合を入れて取り込もうとしているのか。
「まぁ種族値的なものを考えれば、気合も入るでしょうけど……。すみません! ちょっと、いえ、かなり私の後ろに場所を開けて下さい!」
とはいえ、今の追加で9割方は吹き飛んだはずだ。ぐったりとした姿がほとんど露出したところで、黒い全身鎧を着けた白い竜が飛んで近寄り、残っている部分を引き剥がして、翼で空気を打って肉の破片を吹き飛ばし、飛び上がる。
私の声と、その動きに、慌てて周囲にいた
ずざざーっと
「いやしかし何故に皇族が捕まってるんですか……」
「分かりませんが、流石に攫われたとは考えたくないですね……!! ただ残念ながら、私に見覚えはないんです。だから恐らく、先代以前の竜皇様のご家族の方かと!」
もちろんすぐに【調律領域】による回復対象に指定して、各種リソースを供給する。自然回復は……ギリギリ間に合ってないな。一応ポーション飲んどくか。たぶんこれぐらいならすぐスキルが追いつくだろうけど。
しかし先代以前と来たか。よく耐えたもんだ。ステータスの暴力だなぁ……。と思ったんだが、何か微妙に違和感がある。うん。……このひと、身動きしなさすぎでは? というか、息、してるか?
いやでも「そう」ならとっくに取り込まれてるよなぁ……? と激しい戦闘の音をBGMに首を傾げつつ銀色の竜、先代以前の竜皇様に連なる……男女どっちだ? 見分けがつかない。の様子を見ていると、その姿を回り込んでエルルが戻ってきた。
「…………お嬢ー」
「どうしましたエルル。過去一番頭が痛そうな顔をして」
「頭も痛くなるわ……。この方、俺の時代の第三姫様。お嬢といい勝負でお転婆かつ最前線へ出たがりの超行動派な皇女様なんだが、たぶんこれ、取り込まれないように、自分で自分を封印してる」
「末姫様といい勝負の超行動派なんですかっ!?」
「そんな状況ではないのを分かった上で異議を申し立てます!」
「ただの事実だこの降って湧いた系お嬢は!」
と、話がそれたが、どうやらエルル曰く、この封印とやらが空間属性らしい。なるほど。【空間古代魔法】を持っててここまでレベルを上げてるのは私ぐらいだろうしね?
というか、ステータスの暴力である古代竜族の皇族が、全力でかけた封印って事なんだろうし。普通に私かエルルぐらいでないとステータスが負けるか。なおかつ、封印解除条件に皇族が入ってる可能性が高いと。
「たぶんいつもの感じだと、自分にしか解けないようにしてあると思うんだよな……」
「え? 自分で自分を封印するのにですか?」
「妙なポカするところも似てるっちゃ似てるか」
「異議を申し立てたいのですが」
「ただの事実だろ」
しかしエルル、何か詳しいというか、顔見知り以上には知ってる感じだな、これ。
え? もしかして「皇女に振り回される」のって前から? だから割と私相手でも慣れがあった感じだったりする?
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