第992話 35枚目:進化準備

 もちろん当たり前の話だが、6月21日は平日だ。日付変更線直後の再ログインは厳しい。かなり厳しい。

 いくら最も夜が短いタイミングとはいえ、内部時間でも4時間じゃ終わらないだろう。リアル1時を過ぎてしまうと、その次の朝及び日中が大変厳しい。だから住民であるうちの子大集合になった訳だし。

 竜族の皇女わたしが泊まるのでもちろん最高級の温泉宿で皆にはしっかり温泉に入ってもらい、【寒さ耐性・弱】のバフを数日続く程度に延長してもらった。防寒具もヘルマちゃんが張り切ってくれたので、全員分が揃っている。


「………………そうか。そうだった」

「やっぱりすっかり忘れてましたね。そんな気はしましたけど」


 で、いよいよ氷の大地に行く、という動きのカモフラージュとしてポリアフ様の神殿に向かう途中で確認を取ると、そんな反応が返ってきた。だろうと思ったよ。何にもそれっぽい変化が無かったから。

 そして自覚したからか今更落ち着きが無くなるエルル。何やってんの。そっちは来た方向。ポリアフ様のご厚意で山の北側に降りられる道を使わせてもらえるんだから逆だよ。

 道中にも多少はモンスターが出るんだが、今更問題になる訳がない。エルルも戦闘はいつも通りだ。……心ここにあらずといった状態でも体は動くんだな。


「うぅ……ちょっと、寒い、です……鱗、割れそう……」

「大丈夫アリカちゃん!? ヘルマがあっためてあげる!」

「だって、私の鱗、鉄だもん……。ヘルマちゃん、危ない……」

「ヘルマは鍛えてるから大丈夫!」


 アリカさんがちょっと危なそうだった。火属性じゃなくて土属性だから行けるかなと思ったんだが厳しかったか。種族特性はどうにもならないからな……。

 しかし、ついてきたいといったのは本人なのでその意思は尊重するよ。とりあえず精霊さんに声をかけ、アリカさんへの気温的守りを厚くしてくれるようにお願いした。

 そんな感じで、時間的には余裕がある状態で冷人族の人達の神殿に到着だ。お迎えを受けてから、防衛について軽く相談する。


「なんか思った以上に大ごとになってるんだが……」

「念の為というやつですよ」


 そこまでしなくても……という顔をしているエルルだが、マジでこれは念の為、万が一に備えるためのものだ。使わずにただエルルの進化を待てるならそれに越したことはない。

 ……それでも可能性がないと言い切れないのは、先週、全く考えもしていなかった襲撃が発生したから、というのもある。情報は厳重に封鎖していた筈だが、北国の大陸にうちの子総出で移動しているのは知られているだろうし。

 そして流石に鎧を着たままって訳にもいかないので、その間にエルルは着替えだ。もちろん男性陣に行ってもらったので何も問題はない。


「はーいそれじゃとりあえず今の状態で採寸させてもらうのー!」

「ちょ待てっ、今!? 今か!? せめて肌着を……っ!」

「ごごごごめんなさいっ! で、でもっ、鎧下を作るのはヘルマちゃんなので……っ! わ、私の採寸は服を着てからでいいですから……っ!」

「アリカちゃんは見ただけでサイズ分かるからもう分かったんじゃなかったっけ?」

「ひゃあああぁぁ」


 ……なんて声が聞こえた気もするが、私は知らない。いやー、ヘルマちゃんは仕事熱心だなー。召喚者わたしの服を脱ぐと強制初期装備、という大神の加護しように、心底がっかりしてたし。

 まぁ実際のところ、進化すると体のサイズが大きく変わるし、そもそも脱皮するんだから鎧を着たままだと無理なのだ。ヘルマちゃんとアリカさんが装備を作ってサイズ合わせまでしてくれるんだから、その為のデータとして採寸が必要なのは確定的に明らかってやつだな。

 ……ところで、あの鎧って服の形で脱いでから鎧の形に戻すのはどうすればいいんだろうな? なんか方法はあるんだろうけど。鎧の形より服の形の方が着脱は絶対に楽だろうし。

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