第975話 34枚目:神獣の行方
神獣とは。
生態がはっきりしていないどころかそもそもの目撃情報からして非常に少なく、「存在しているのは分かっているが実態はほとんど分かっていない」の代表例のような存在だ。
既存の生物と大きく違い、特定の場所を住処とする訳でもない。その癖振るう力は災害を引き起こせる程度に強大であり、生物というより自然現象に近い扱いをされている。
長年に渡って僅かな目撃証言を集めた研究者により、どうやら個体によって性格が違うものの、見た目と能力が同じであればその行動基準もまた大まかに似通っている、という事が分かったぐらいで、それを仮に種と呼ぶことにして、実質放置するしかなかった、人の手には余る存在である。
「まぁ精霊獣の限界突破個体というなら、納得なんですよねぇ……」
そしてそんな神獣……神聖な存在とされているらしいが、実際には手出しするとしっぺ返しが大変な事になるから手を出すなよ!? 的な意味ではないかと思いつつ……の1種である麒麟が、巫女2人を含むゲストも一緒に見守る中、今まさに誕生したわけだが。
「「第一候補」。角があるからって
『無い筈であるぞ。そも「第三候補」の場合、種族が種族であるからな。精霊や世界に類する種族へは、非常に好意的に見られるのは道理である』
現在、笛のような声で鳴きながら、めっちゃ私に懐いている。一応聞いてみたが、どうやら私の種族が精霊と非常に親和性が高い為、最初から好感度が非常に高い状態になっているようだ。
生まれたてだからか元からそんなに大柄ではないからか、あるいは促成育成の弊害か、生まれてきた麒麟はそんなに大きくない。頭の高さが私よりちょっと上くらいで割と首が長いので、体高1mぐらいだろうか。ニーアさんより一回り大きいかな。
そういえば麒麟の体は鹿だったような気がする。馬にしては細いような、と思ったが、なるほど、それならこの大きさでも普通なのかもしれない。
「おー、すげー。この高さでも微妙に浮いてんのな。蹄の周りに生えてる毛が魔力制御してんのかこれ? ブラッシングしたら手にはいらねぇ?」
「ご機嫌なところを邪魔されて~、雷に打たれても知らないわよ~」
「やめとく! 「第三候補」がブラッシングしたら手に入るかもしれないから待つ!」
「さりげなくこっちに無茶ぶりしないでもらえます? そもそも抜けるんですか、これ」
「今の「第三候補」だっていくらかは自然と抜け毛が出てるだろー?」
ふわふわの鬣を撫でながら言葉を返すが、言い返されて納得した。なるほど、それならまぁあるかもしれない。もっとも、近くに来て分かった角の丸さとか鱗の薄さ、毛の細さからいって、もうちょっと育つ必要があると思うけど。
しかしどうするかね、この神獣。すっかり私に懐いてるから大型犬を相手するノリで撫でまわしてるが、私がログアウトしている間の世話とかあるだろうし。精霊獣の系譜なら、そこまで苦労しないかもしれないけど。
『まぁ、ともあれ。「第三候補」。【縁】の枠に余裕はあるであるか?』
「えーとちょっと待ってください。……いえ、それ以前に、私が面倒を見ろと? 放浪の習性があるのでは?」
うりうりぐりぐりと撫でまわしていると、どうやらあちらも珍しく残ったらしい元宿光石の球体、殻の残骸を調べていたらしい「第一候補」からそんな問いがあった。それにするっと確認しようとして、その意味を察して聞き返す。
流石に手に余るんだが? と込めて返したわけだが、変わらずカーリャさんに抱えられてぬいぐるみに「乗って」いる「第一候補」は、さらっとこう返してきた。
『なに、問題はあるまい。放浪も、恐らくは定住をよしとするだけの条件が揃っている場所がない故であろうしな。霊獣も属性精もあふれんばかりに居て、かつ居心地よく居ついてくれているのだ。持つ力が大きいだけであるし、制御できるとしたら「第三候補」のところであろう?』
…………まぁ、検証班の人達から、「???の卵」をお願いされた理由も大体その通りなんだけどさ。
「制御するというか、暴走に耐えられるの間違いでは?」
『意味としては一緒である』
そうなんだけどさ???
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