第936話 30枚目:発見報告

 とりあえず地上に戻り、文字通り飛んできてくれたニーアさんにアキュアマーリさんへの繋ぎをとって貰う。それなりサイズの木箱を2つも抱えて出てきたから、周りの人達にも「何かあった」事は伝わっただろうけど。

 馬車を待っている間に一旦クランハウスの島に戻り、倉庫に素材を入れておく。そして探検服からドレスに着替えて竜都近くの大神殿へ移動したら、既にお迎えの馬車が到着していた。早い。

 馬車は快適だが滅茶苦茶速いので、あっという間にお城に到着。スムーズにアキュアマーリさんのプライベートエリアまで案内された。ちなみに、木箱は神器の方を私が、結晶化した魂の方をニーアさんが持ってくれている。


「いらっしゃい、ルミルちゃん! ……その木箱、もしかして――」

「はい、お姉様。ようやく1つ見つかりました」

「ありがとうルミルちゃん!」


 と言う挨拶から流れるように抱き締められて膝の上、だったのだが、流石に真面目に、もとい、対外用のキリッとした状態になって聞いてほしいとお願いし、ニーアさんもまた木箱を持っている事に気付いてくれて、どうにか対面で座ってくれた。

 そしてそこから100階層に到達するまでの流れをざっくりと説明し、待ち構えていた多頭の竜との戦いも超ダイジェストにあっさりとまとめて話した。

 で、撃破した所まで話して、その間際に言葉があった事を説明。ここであの動画を出して、アキュアマーリさんに見せる。


「……この後、骸を探った所、首の根元に当たる場所から神器が発見されました。また最後まで残った頭からは、脳の代わりにこのようなものが見つかりました」


 じっ、と、とても真剣に動画を見てくれたアキュアマーリさんの前に、ニーアさんを手招きして、木箱を置いてもらう。蓋を開けて貰って、私がその内の1つを取り出し、包んでいた布を開いた。


「――――そう。そう、だったのね」


 それが何なのか……誰なのかは、見れば分かったのだろう。手を伸ばして「古代徒人族の魂」の1つを撫でたその指先が、僅かに震えていた。


「本当に。……ミスをしたのは、私なのに。責があるのは、私でしょう。なのに……何故、そこで、自分を責めてしまうのかしらね……」

「それはそっくりそのままお姉様にも言えると思いますよ」

「だって、私は、皇族だもの。責任をとるのも、仕事で、義務だわ」


 これが本物の誇りってやつだな。強い(確信)。

 しかしこうして比べると、ミスはミスでもその罰の差がすごいように見える。……とは言え。たぶんだが、アキュアマーリさんの罰はこれからなんだろう。何せ、ここからの竜族は今までの比ではないほど忙しくなる。

 だって「モンスターの『王』」による侵略、浸食は、次の大陸の方が絶対に酷いからだ。であれば、ステータスの暴力という種族特性で、耐性の類が圧倒的に高い竜族でもなければ最初の一歩が踏み込めない、という可能性は高い。

 それに侵略された土地を取り返していくと言う事は、守るべき場所が広がると言う事だ。あのゲテモノピエロにやられかけたように、危機が遠ざかった所に睨みを利かせ、余計な争いを抑制するのは竜族にしか出来ない。


「ありがとう、ルミルちゃん。彼らはこちらで面倒を見るわ。神器は、これからすぐに神々へお伝えする儀式を行うわね」

「よろしくお願いします。もう1つの神器も、可能な限り早く回収できるように頑張ります」

「もう、私だって話ぐらいは聞いているのよ? ルミルちゃんはさっくり省略していたけれど、その苦労は十分に試練と言えるわ。……いいわね? 決して、まだ、ではないのよ。この短期間で、もう、なのだからね?」


 だから何故その気遣いを自分に向けないのか。アキュアマーリさんだって突然の竜都からの撤退を、被害を非常に軽微に抑えてやり遂げてるでしょうが。

 と言うと何故か頬をむにられてしまうので、気を付けます、とだけ返して部屋を退出する。とりあえず古代竜都の鍛冶屋さんに行って武器の修理依頼と、一回クランハウスに戻って消耗品の補充だな。

 あの野良ダンジョン、進行状況が完全に独立してるから、また1から攻略し直しだし。皆にも1個見つかった事を報告して予定を確認してもらおう。もうカバーさんがその辺やってくれてるかも知れないけど。

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