第918話 29枚目:実行影響
とりあえず現状維持をお願いされたので、【調律領域】は展開したままその場で待機だ。となると生産作業をしたいところだが、流石に骨の誰かさんが起きるかも知れない目の前でそれはちょっとどうだろうなぁ……。
ってことで、ニーアさんからお茶をするときのマナーを教え直して貰う事に。基礎は教えて貰ったが、まだ抜けがあるだろうし。あと、お茶してたら美味しそうな匂いで起きてくれないかなって打算もある。
「……一応言っておくけど、竜族は全員が全員、食い意地が張ってる訳じゃ無いんだよ、姫さん」
「食い意地が張っている訳ではなくても、美味しいものは他のものより強く興味を引かれるでしょう?」
「うーん。残念ですが否定できませんね!」
食い意地が張っていないと言っても、種族特性でいっぱい食べるからね、竜族は。そしてどうせ食べるなら美味しいものがいい。そもそも竜族自体、あんまり欲しいものがないからな。その分だけ食べるものに興味が向くのはしょうがないと思う。
しかし、今大急ぎでスクリーンショットを撮ったり各種スキルで解析をしていると言っても、この谷が丸ごと封印の一環って事は、複雑さも相応なんだよな。全体がはっきり見えるようになったと言っても、やっぱり時間はかかるだろう。
魔力の跡が励起された、って事は、魔力を注ぐのを止めてもしばらくは残る感じなら、もうちょっと解析が捗るんだろうけど……と思いながらニーアさんにお茶のマナーについて教わり直しつつ、【調律領域】で魔力の供給を維持し続けている。と。
「うん? どうしたのかな、なんかこっちに来てるけど」
「ギュンテアーリさんですね! 何か不測の事態でしょうか」
近衛の人が1人、私達の所へ駆け足でやって来た。……改めて周囲を見るが、特に変化は起こってないよな。カバーさんが確認できたという事は谷の外だから、そこで起こっているような変化は見られない。
いやでも、あの街の跡で儀式は行われていたようだから、そこに何か変化があったかな? と内心首を傾げつつ、そのまま話を聞いてみると、どうやら違うらしい。
どうやら彼が言うには、エルルの様子がおかしいらしい。それも妙な動きをしているとかではなく、何かに気を取られている感じの反応が増えてきたようだ、との事。……んん?
「……。ちょっと連絡を入れて、一旦魔力の供給を止めて見ます。私が寝た後も調査が続けられるかどうかというのは大きいですし」
「え、いいの姫さん」
「エルルが不調となると、それも何かの変化である可能性が高いですからね」
そのままカバーさんに連絡を入れて、大きな骨に一礼してから【調律領域】をOFFにする。これで魔力の供給はストップした筈だが、どんな変化があっただろうか。
とりあえず近衛の人……ギュンテアーリさんにはエルルを呼んできて貰い、私自身は待機を継続だ。
『ご連絡です。ちぃ姫さんが魔力の供給を止めると、ゆっくりですが励起が収まっていきました。恐らくですが、励起によって相応の魔力が消費されているのだと思われます』
『そんなには持たない感じですか……』
『残念ながら。しかし、ちぃ姫さんでこのペースという事は、本来なら竜族の方々や、それこそ竜人族の皆さんに複数人数でやって貰うべき事だったのかも知れません。現在、竜人族の皆さんはその方向で説得中です』
……なるほど、そうか。竜人族の人達も、魔力はたっぷり持ってた筈だもんな。ちゃんとご飯を食べて良いベッドで眠れば、複数人数で魔力を流す事ぐらいは問題なくできるか。
私の魔力でなければダメなのでは、と思っていたが、冷静に考えれば封印を維持する為に使われてきたのは竜人族の人達の魔力だ。てことは、種族名に「竜」がついているなら問題ないって事かな。
と、1つ納得した所で、エルルがやって来た。…………んんー?
「で、何だお嬢」
「……エルル。意識ははっきりしてます?」
「してるが」
「ほんとかい? 何かちょっとぼーっとしてるように見えるよ」
「そうか?」
眉間のしわ、はもうそろそろ見慣れてきてしまったので別に良いとして。……確かにちょっと調子が悪そうだな。サーニャも気づいて首を傾げているし。
私はもちろん、サーニャもニーアさんも、恐らく近衛の人達も影響は出ていない。と言う事は、エルルだけが謎の影響を受けているって事だ。で、その影響っていうのは多分、私が封印に魔力を流し込んだことで……。
「…………まさかというかもしやというか。エルル、もしかして、眠いのでは?」
「眠い? いやまさか……いや、そうなのか?」
「そうなのか、ってエルルリージェ、君もしかして、眠気がどんなものか忘れたとか?」
「……かなり長い事眠らなくてもいいようになってたからな」
「そうなのですか!?」
返って来た返事に、内心、頭を抱える。
さっき聞いたところによれば、どうやら「第一候補」曰く、この谷にあるものは基本的に全て封印の一環だ。財宝も、骨も。あの街の跡とそこにある道具も、恐らくは。
で。……エルルは、「この谷にある」野良ダンジョンの、ボスとして出会ったのを、私がかなりイレギュラーに引っ張り出した訳で……。
「……ちょっと早急に「第一候補」に確認しなければいけない案件が出来ましたね……」
この谷にあるものへの行動が、封印の内側にあるものへの影響は、起きれば忘れる夢程度の軽いもの。
だったら。
……今ここにいるエルルは、もしかしなくても、扱い的には「夢」になる……の、かも、知れない……?
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