第864話 26枚目:大陸到着

 まもなく船は港について、ぞろぞろと順番に召喚者プレイヤー達は降りていった。もちろんその最初は第一陣と元『本の虫』組で固めているので、住民とのファーストコンタクトは上手く行っている。……筈だ。

 私は特にこの大陸だと、姿を見られることによる騒ぎがどう頑張っても収まらないレベルになる可能性が高いので、他の『アウセラー・クローネ』メンバーが一通り地盤を作ってからこっそり移動する事になっている。もちろんエルルとサーニャも一緒にだ。


「そういう事なので、サーニャはいつも通りですが、エルルは顔が固まってますよ」

「元からだ」

「私はそんなくっきり眉間にしわ寄せてるのほぼ見ませんけど」

「…………」


 うん。エルルがこの調子だから。ちなみにサーニャもいつも通りと言ったが、たぶんあれは割と緊張していると思う。まぁ、現代竜族に合流したら、実際どのくらいの時間が過ぎたのかがはっきりするっていうのはほぼ確実だからなぁ。

 以前エキドナ様に謁見した時にどんな話をしたかはまだ聞いてないけど、それでも多少は話に出ただろう。私の方はそのものど真ん中だったし。だから、ある程度覚悟は出来ている……と、思っていたんだけどな。

 まぁでも、そんな簡単に覚悟が決まるなら誰も苦労はしないか。何せ、家族関係だからな。そもそも家族ってものには爆弾があるところに、さらに話がややこしくなっている。……確かにエルルをイレギュラーに引っ張り出したのは私だけども。


「エキドナ様に伺った話だと、まず現代竜族に接触して協力を仰がなければどうにもなりません。私は問題ありませんけど、慣れてない人だと怖い顔と思われますよ?」

「それは元からだ」

「エルルが普段から怖い顔なら精霊獣達は寄ってこないと思うんですよね」

「…………」


 論破すると視線を逸らされてしまった。怖い顔になっている自覚はあったらしい。なるほど、サーニャからしてみればこの顔が基本なんだな? そりゃ声も掛け辛いわ。

 とはいえ、今回私はその出番を極力少なくする方向で『アウセラー・クローネ』うちのクランの意見は一致しているし、出番を減らす中にはエルルとサーニャも含まれてるから、多少怖い顔してたって支障は少ないだろうけど。

 うちの子が凹んでたり何か悩んでたりしたら、とりあえずブラッシングしておけば大体話してくれるんだけどな。流石にエルルは大きすぎてブラッシングは厳しい。【人化】した状態で髪を梳かすのは違うらしいし。


「……それ以上難しい顔を続けるなら、くすぐって無理矢理笑わせますよ」

「止めろ!?」


 仕方ない、と、割と本気の最終手段を出してみると、エルルはぎょっとして返した後、ぐりぐりと自分の眉間をもみ始めた。うーん、効果が無いとは言わないけどたぶん覚悟が決まらないと解けない奴だと思うんだ。

 まぁでも、顔が固まっていたのは緊張のせいもあるから、それが多少なりとほぐれたならマシにはなるだろう。たぶん。

 とか部屋で待機しながら船を降りるタイミングを待っていると、外のざわつきが変わったようだ。今までは新大陸に喜ぶ声が多かったのが、驚きと混乱が混ざった様な声に取って代わられている。


「? 何か想定外の事でも起きたん……」


 若干警戒しながら窓から外を見てみる。と、渡鯨族の港町の外に、かなり大きなドラゴンが降下していくのが見えた。燃えるような赤い鱗の上に、金属鎧の筈なのに表面に透明な層を持つ乳白色の鎧を纏っている。

 どうやらあのドラゴンさんを見て住民が動揺し、それに釣られて召喚者プレイヤーも混乱しているようだ。って事は、相当なお偉いさんか?

 途中で言葉を切って首を傾げている私に気付いたのか、エルルも後ろから窓を覗き込んで来た。そして、納得を見せた後に首を傾げる。


「……近衛隊の隊鎧だな」

「近衛隊、ですか?」

「あぁ。皇族の護衛専門の奴らだ。……が、お嬢を迎えに来たんなら最低3人はいる筈だし、そうじゃないなら皇族に匹敵する様な重要人物の送迎って事になるが、召喚者に何の用だ……?」


 どうやら本来私が守られている部隊の1人という事らしい。なるほど、それは確かに大物だ。しかし、私を迎えに来たにしては人数が少ないと。となると、誰だ? って話な訳だな。

 現代の竜族において、皇族に匹敵する重要人物で、召喚者プレイヤーが来たと聞いて自ら足を運ぶ「誰か」ねぇ……と考え、1人、該当者がいる事に気が付いた。


「あぁ、なるほど。あの近衛さんはどうにか付いてきた可能性が高そうですね」

「どういう事だ?」

「……いるんですよ。本来の道のりからすれば完全に想定外の方法で、先に竜族と接触している召喚者プレイヤーが」


 うん。

 たぶんだが、「第二候補」の、ようやくの合流、って事だろう。

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