第860話 25枚目:置き土産
「あら……壊れちゃった。酷いわ。作ったばかりだったのに」
流石にあの大技はエルルも連発出来ないのか、振り下ろした大剣を構え直して警戒の態勢だ。多くの
そんな中で、その声はまるで現実感と言うものが無かった。まさしく他人事、それこそゲームでもしているような、随分と非現実的な調子だ。
フリアドの運営がメンテナンスのたびにサイレントでアップデートしているゲーム内描写は、年齢制限がついている私でも最大まで上げればこの通り、痛みそのものはともかく、視界が塞がれる程度にリアルになる。なので、現在に限って言えば、
「まぁ、でも、壊れてしまったものは仕方ないわね。新しいのを使えるのなら、それはそれで楽しみだわ」
右手で差した日傘を揺らし、「拉ぎ停める異界の塞王」は、実に楽しそうに笑った。確実に場違いな程の無邪気さだ。……その内容と、そこから察しが付くあれこれを除けば、だが。
「わんちゃんも壊れてしまったし――真っ白で綺麗なキャンバスを作るのは、また今度ね。それじゃあ、さようなら。また会える日まで、どうかお元気で」
最後に、そんなどこまでも日常めいた言葉を残して……「拉ぎ停める異界の塞王」の動きが止まった。だけでなく、そのまま落下してくる。
正規の出現では無かったからか、システムメールが来ない。だから本当に撤退したかは分からないが、まさかここから引っ張る事も無いだろう。あの様子からして、罠を仕掛けるタイプでもなさそうだ。って事は。
「っ、エルル!」
「は!? いやだがお嬢あれは」
「あれはもう抜け殻で被害者です!」
「っな、あぁいや、そうなるのか……!」
「カバーさんは出来れば腕の回収をお願いします!」
「分かりました」
作ったって言ってたし、たぶんあの船精だったメイドさんと同じパターンじゃないだろうか。と言う訳で、ボックス様に短く感謝してから両手を離し、すぐエルルとカバーさんにお願いをした。
エルルを見送ってそのまま【王権領域】もOFFにする。うーん、緊張の糸が切れたからか一気にどっと痛みと疲れが押し寄せてきたぞー?
「しかし、本当に最悪な不意打ちでしたね……」
『ごしゅじんはひとまず休んでくださいー!』
「そうします……」
ボックス様の加護というか奇跡は、本人の防御力を上げる事が大前提にある。特に今回みたいな「誰かを守る」為のものなら余計にだ。だって自分が死んだら守れないからね。
そんでもって、ポリアフ様達の神殿で【王権領域】を使ってレベルが上がっていたし、そもそも私のボックス様への信仰値はかなり高い筈だ。その上で私はステータスの暴力が止まらない状態だし、いくら攻撃を受けた全員分を一気に食らったと言っても、受ける防御力は私のものになっている筈だから……。
……うん。やっぱりあの攻撃、火力がおかしいな。まずは弱体化させないとどうにもならないタイプか。
「他にも、あの感じからして、残機が一杯ありそうですし……」
『ごーしゅーじーんー?』
「はい。休みます」
休む場所に移動はしてるし、自己回復はしてるんだけどな。……休む気が無いのが問題? うん。それはごめん。
で。
「……やっぱり、というべきなんでしょうが、何て頭の痛い……」
服まで込みですっかり綺麗にして貰い、『可愛いは正義』の人達に主にご飯を貰うという意味でお世話になって、その対価としてミニファッションショーを開催していると、そんな連絡が回って来た。
結論から言うと、私の懸念は大当たりだったらしい。エルルが切り落とした腕も回収してからワイアウ様の所に連れて行ったら、服まで込みで全くの別人になったんだってさ。
で、何が頭痛ポイントかっていうと……その、変わった、というより、元に戻った、だろう。その姿が、だな。
「……青くて魚っぽいドラゴンですかー……」
なお、エルルとサーニャには既に確認が入っていて、間違いなく竜族だとの事。水棲特化の海寄りな竜で、そのまま海竜族って言うんだってさ。ちなみに火山の女神を宥め終わったばかりの「第一候補」も確認に付き合ってくれて、加護や祝福なんかから、現代竜族で間違いないそうだ。
うん。やーな予感したんだよね。……主に「作ったばかりなのに」って辺りで。
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