第813話 24枚目:ダンジョン突入

 どうやら司令部でも、元『本の虫』メンバーこと検証班の同行は必要だという判断になっていたらしく、カバーさんに来てもらう事はあっさりと決まった。

 ルミはルミで雪玉を作るお仕事が忙しかったようだが、重要度で言えば野良ダンジョンの探索の方が高い。うちにいる他の雪像達は変わらず働いてくれているので、全員を一通り撫でて褒めてから連れ出す事が出来た。

 で、サーニャなのだが。


「いや何で姫さんが突入する事になるの!?」

「私が一番死なないからですけど」

「そうかも知れないけどそうじゃなくて!!」


 ……まぁ、だからカバーさんを呼ぶのを先にした訳なんだけどね。盛大にごねるのが目に見えてたから。本当にエルルの理解力の高さには助けられてるよ……半分ぐらい諦めなのは気にしない方向で。

 流石に今回は出し惜しみなしって事で、全員に精霊さん込みで私が耐性系バフをかけて突入だ。突入した途端に寒さで動けなくなりましたとか、今までの事を考えると普通に有りそうだし。

 と、覚悟を決めて踏み込んだのだが。


「……何と言うか、酷いですね? 大丈夫ですか、3人とも」

「…………大丈夫と言いたいところだが、かなりきついな」

「何でこんなに自爆目当てのモンスターばっかり出てくるのさ!? 多いよ!!」

「お役に立てず申し訳ない……」


 いやー、まさかここまできっついとは。主に環境が。対策をしっかりしていた筈のカバーさんが寒さで動けなくなるとか、私達が先陣を切ってて良かったな。たぶん、小人族の村を手分けして探している頃の大陸北側ぐらい差があるんじゃないか?

 ルミを連れてきて良かった。雪玉を投げまくってくれて大活躍だよ。魔法だと属性を問わずその場で大爆発するモンスターの群れも、「必凍状態」になったら自爆しないみたいだから、こっちの被害も抑えられたし。

 私がまだ遠くに居るモンスターを魔法で誘爆させて、すり抜けてきた奴をルミが雪玉で凍らせ、それでもまだ近づいてくる奴はエルルとサーニャが奥へはじき返す、という形でしのいでどうにかなったから、かなりきっついぞ。


「入り口を入ってすぐモンスターの群れに襲われる事までは想定内ですが、いきなり自爆祭りとは思いませんでした。私達でなければ何が起こったのか分からないうちに追い返されていたのでは?」

「そうですね、その可能性は高いと思います。現状の、一般に普及している防寒対策では、この通り完全に不足ですし……」

「湯たんぽ程度ではどうにもならなさそうですしね。かと言って、山火石を持ち込んだら、通路諸共溶けてしまいそうですし……」


 改めてダンジョンの中、あの見た目通りに重かった扉を開いて進んだ奥に広がる景色を眺める。それは入り口から想像できた通り、これでもかと寒さに振り切った光景だった。

 壁も天井も床も氷で出来ていて、すりガラスの様な微妙に向こうが見えない白さだ。しかもその表面をびっしりと分厚い霜が覆っていて、先程から連続して起こっていた爆発により剥がれ落ちては降ってきていた。

 通路の大きさ自体は3m四方と言ったところだろうが、その霜のせいで一回り小さくなっている。何より、踏みつけるととても滑るのだ。そして当たり前だが、転べばその霜の塊に突っ込むことになる。


「寒いし濡れるし袋叩きにされるし、転んだら実質死ぬと言ってもいいのでは? そしてその環境で自爆祭りとか、難易度おかしいでしょう。剥がれてきた霜が積もって更に寒いですし」

「霜というより、ルミさんが雪玉を作っているので、雪として見た方が良さそうですね……」

「カバーさん、大丈夫ですか。というかこれは一旦撤退した方が良さそうですね?」

「そう、ですね。ただじっとしているだけで、既にスタミナが危険域まで削れているようです」


 ははは。その上でしばらく同じ場所に居たら周囲の霜が成長してくるとかどうなってるんだろうな。成長速度自体はとてもゆっくりだが、それでも私の足首ぐらいまでが埋まってたぞ。生き埋めかな?

 とはいえ、難易度の高いダンジョンには難易度の高い罠がある事がほぼ確定している。私を含む竜族はそういうのは苦手だし、ルミは器用値こそ高い物のそこまで細かい作業には向いていない。だからカバーさんに来てもらったんだし。

 なので、そのカバーさんが動けない状態で進むのは危険だ。環境とモンスターだけで既に厳しいのだから、罠にはまったらマジで一撃死とかがあり得るからな。


「それにしても、やたらと環境が厳しいですね。多少は前回の報酬で軽減できるとしても、何か他に軽減方法があるような気がしますが……」


 とりあえず一旦外に出て、カバーさんが本調子に戻ってから相談だな。一方通行の脱出できないダンジョンではない事は確認しているし。

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