第795話 23枚目:探索開始
思った通り、そこからさほどなく最初の上陸者が現れたらしい。ウィスパーで一旦停止の指示が来たので、雪玉の投下を止めて雲の下に声をかける。
「サーニャ、あそこに到着した人が出たようですので、しばらく様子見です」
「えー、もう?」
思った通り全然疲れてないどころか、まだまだ足りないという感じの返答を返してくるサーニャ。うん。上陸した
私も雪雲の下に降りて、流氷山脈へと目を向ける。ステータスの暴力だから、普通に見えるのだ。ある種特等席だな。
ライブ動画で見ていたが、流氷山脈の裾野とも言えるだろう平地は大分広がっていた。もはや流氷ではなく、大きな島か小さな大陸と呼ぶべきなんじゃないだろうか。
「上陸した人たちに対して、モンスターが襲い掛かって来るのは想定内ですね。むしろ出てこない方が違和感ですし」
「まぁ敵の拠点に攻め込んでるんだから、何もなかったら罠だよね」
積もった雪やデコボコしていた地形からモンスターが飛び出し、群れを成して上陸者へ襲い掛かっていく。まぁそれは誰しもが予想していたので、迎撃する動きに淀みは無い。
上陸した所から円を描くように陣形を組み、内側に検証班や観測班、もとい、スキル構成が非戦闘員に寄っている
で、海岸沿いに空間が空くと、そこに次の船がやってきて、新しい集団が同じように展開して、別の方向へ進んでいく。この繰り返しだ。
「実質次々応援が来るような物ですから、撤退もスムーズに出来る筈なんですよね。問答無用に一掃するような攻撃が来なければ」
「あ、エルルリージェだ。……ん? 進まずに船に残ってるね?」
「いくら後続が来ると言っても、退路の確保は基本ですからね。召喚者は最悪死んでも復活しますから、そういう意味では船の方が貴重ですし」
「…………そっか、そうなるんだ。何回聞いても慣れないなぁ」
まぁエルルでも慣れるのに大分かかってたからね。召喚者っていう存在と考え方自体はまず変わらないから、ゆっくりでもいいから慣れてとしか。
で、エルルを船の留守番に残して進んでいく探索部隊だが、そこそこ進んだ一団が流氷山脈そのものへの攻撃を試し始めたようだ。まずは裾野の平地部分に打撃属性攻撃を叩き込んでいる。
こちらは遠距離からの攻撃と同じく、大きくひび割れが入った。そしてそこへ、上の方が崩れて氷が落ちてくる。これは既に分かっていた事だが。
「……あー、そうなるんですね」
「ただの氷じゃなかったって事かー」
どうやらその降って来る氷には、冷人族の人達が付与するものと同じぐらい強力な「必凍状態」になる効果があったようだ。盾を構えて氷を受け止めた
もちろんこの間も周りからモンスターは襲い掛かってきているし、ひび割れが埋まるまで氷は転がり落ち続けている。今回は間に合ったが、救助が間に合わなければ、そのまま流氷山脈の一部にされるのだろう。
そしてそうなった場合、死に戻り出来ないのはもちろん、他にも何かペナルティがあってもおかしくない。転がり落ちてくる氷を避ける事自体の難易度はそこまで高くないみたいだし。
「あの白熊もどきと同じく、捕まったら死ぬよりマズい事になりかねませんからね……」
「あれは酷かった。……そうか、あれの大元がアレなんだっけ」
「そうですよ」
そういう事なんだよな。本当に性質が悪い。クレナイイトサンゴの大元であった「遍く染める異界の僭王」といい勝負だ。少なくとも同格なんだから当たり前かもしれないが。
で、流氷山脈の本体とも言える部分を殴ると……打撃属性は攻撃者が氷漬け、斬撃・刺突属性はかすり傷、魔法は雪雲が発生、火属性だと大量の雪雲が発生、という結果になったようだ。
これは、削れなくはないけど……って感じだな。あんまり推奨される感じじゃなさそうだ。明らかに時間効率が悪いし。
「と言う事は、また調査のお時間ですね。……と言う事でサーニャ」
「うん?」
「平地にひび割れが出来ると、モンスターはそちらを埋める事を優先するようです。なので探索班の支援として、氷の塊を叩き込んでください、という指示が来ました」
「えー。当てないように叩き込むの?」
「頑張ってください。サーニャなら間違って当てるとかそんなうっかりミスする訳ないでしょう?」
「ま、まぁね!」
当てちゃいけない動く相手が増えた状態で、千本ノック再びだ。さぁ頑張ってサーニャ! 私は雪雲の上から雪玉を投下するだけだけど!
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