第782話 23枚目:爆発の理由

 とりあえずその場でスクリーンショットを撮り、カバーさんへのメールへ添付して送信してから改めて空気の足場を踏み切り、雪雲の上へ飛び出す。高さはそのまま、南側に移動しつつ雪玉をばら撒いていった。

 雲に遮られているので結果は見えないが、雪玉をばら撒いたところに雲が集まって来るから、恐らく穴が開きかける程度には効果が出ているんだろう。進路修正と現在位置の確認は、面倒だがこまめに雲の下に出るしかない。

 するとそのたびに(物理的に)大穴の開いた防衛陣地が視界に入る訳で、上空から見る限り、その復帰は遅々として進んでいないようだ。まぁあれだけ大穴が開けば、爆発そのものは当然として同時に発生する衝撃波などでも被害は出るだろう。


「問題は、あれだけの威力の爆発物を、どうやってど真ん中に運び込んだか、ですが……」


 原因究明は是非ともしておきたいところだが、今はとりあえず現状を凌ぐ方が先だ。ちょいちょいと雲の下に出て現在位置を確認しながら、木箱に入っている雪玉をざらざらと雲へ投下していく。

 様子を見る限り、絨毯爆撃の方は順当に効果が出ているようだ。何かの模様のように均一に流れて来ていた流氷の群れが、一定の幅で線を引くように空白になっているのが見える。その線の先端は私なんだけど。

 そんな流氷の群れの、たぶん南の端まで行ったところで、カバーさんからウィスパーが届いた。私が動いているのは地上からでも良く見えるだろうし、司令部で情報は共有されている筈だから、追加の指示かな?


『ちぃ姫さん、ありがとうございます。現在も現場は混乱しているようですが、ちぃ姫さんは念の為現場には近寄らず、大陸南部の防衛陣地における司令部から雪玉を受け取り、もう一度絨毯爆撃を行いながらもどって頂けますか?』

『立て直しが進んでいないのは上空からだと良く見えますね。分かりました、戻ります』

『ありがとうございます。それと、可能なら現在の位置でもう一度現場の航空写真を撮って送っていただけないでしょうか』

『分かりました』


 これは、このまま往復しながら絨毯爆撃を続ける感じになるんだろうか。まぁ確かに、直接戦闘するよりはエルルとサーニャの心労もマシだろうけどさ。




 北国の大陸北側の防衛陣地は、クランごとに砦を作り、その砦を氷のブロックで出来た壁で繋ぐ、という作り方をしていた。クランという組織の主張が強い造りであり、どちらかというと個人プレーに近いものがある。

 なので、司令部はあるが中心部ではなく、北と南の端に位置していたようだ。なので雪玉を作る為に、冷人族の人達やテイムされた雪像達が集まる場所は今回無事だったらしい。

 とは言え個人プレーの集団だったので、余計立て直しに時間がかかっているようだ。砦を作る場所取り合戦って意味で。同陣営内でもめてる場合じゃないってのに呑気な。


「しかしまぁ、見事にどこかで聞いたような覚えがある名前ばかりが騒ぎの中心に居ますね……」


 絨毯爆撃を継続しながら、クランメンバー専用掲示板にまとめられた現在の状況を読む限りはそんな感じだ。もちろんちゃんと動こうとするクランの方が圧倒的に多いのだが、悪人は2割いると集団全体が悪人に見えるって何かで聞いた事がある。

 そしてどこで聞いたかと言えば、それはもちろん先月のイベントの要注意団体って意味でだ。本気の本気でどうしようもない奴らは一掃されたが、上手く生き残った集団クランがいたらしい。もしくはネーミングセンスがほぼ一緒だから、生き残り同士で新たにクランを立ち上げたか。

 まともな集団の一部はさっさと見切りをつけ、大穴の縁に沿うような形で防衛陣地を再構築しつつある。まぁ確かに、今はエルルとサーニャが矢面に立ち、私が爆撃で数を減らして対処しているが、これを本来の形に戻すだけで揉めてる奴らは一掃されるもんな。


「実際そうすると後がとても面倒な事になりますが、方法の1つではありますし」


 現時点での感想が、邪魔でしかない、だからなぁ。元々の防衛陣地でも本当に成果を上げていたのか疑問に思うぐらいに。いやまぁ、自分達の事を最優先にするんなら、そりゃ自分達が活躍する為の事は真面目にやってただろうけど。

 北の端と南の端につくたびに北国の大陸北側の防衛陣地のスクリーンショットを撮ってカバーさんに送っているが、巨大なクレーターが埋まる気配はない。大陸側の縁に沿うようにして防衛陣地が再建されつつあるし、クレーター自体を調べるような動きがあるので、地形として使うのだろう。

 とりあえず今の所、少なくとも上空から見える範囲で混乱が起こっている場所は無い。続けざまに何か仕掛けてくると思っていたのだが、当てが外れたか?


――ッッドン!!


 なんて思いながら高高度を北へ向けて戻っていると、そんな爆発音が聞こえた。ちょうど雲の下に降りているタイミングだったので、素早く北国の大陸全体に目を走らせる。今度は何処だ!?

 ……と、思ったのだが。爆発が起こったらしい煙が上がっているのは、既に爆発が起こって何もなくなっている、クレーターの中心部だった。

 あんなところで爆発を起こしても、何の被害も出せないだろうに。というか、防衛陣地の再建やそれに関する揉め事で、かなり警備のレベルは上がってる筈だぞ?


「……んん?」


 どういう事だ、と、ゲテモノピエロがやるにしてはリスクとリターンが全く釣り合っていない動きに首を傾げていたのだが、よくよくクレーターの中心部、爆発が起こった辺りを見てみると、どうやらそこに居るのは元『本の虫』組……検証班の人達だ。

 彼らは新しい爆発が起こった場所を何か調べ、そこへ新しく、防衛陣地を作るにあたって多用されている氷のブロックを1つ置いて、ざざざーっと距離を取った。

 そこからその氷のブロックに魔法をぶつけてみたり、投げナイフのような物を投げたりし始める。耐久試験でもしているのだろうか。と思っている間に、見たことのない白いボールの様なものが投げつけられた。その白いボールが氷のブロックにぶつかり、パァン! と弾けた、瞬間。


――ドォンッ!!


 ステータスの暴力の私でも、通常の氷のブロックと見分けがつかないそれは、派手な爆発を引き起こした。そして再び爆発跡地へ集まって何かを調べ始める検証班の人達。

 なるほど。大体分かった。つまりだな。


「…………どういうカラクリか知りませんが、氷のブロックの中に爆弾が混ざっていた、という事ですか……」


 恐らく、あの検証兼爆破処理されている爆弾ブロックは、他の場所にも混ぜ込まれていたのだろう。それを司令部が探索・特定して無力化したから、続けざまの混乱が起きなかった、と言う事らしい。

 で、あの投げつけて弾けた白いボールが起爆装置か何かで、これもまた雪玉にそっくりなんだろうな。そうとは知らずにまんまと爆弾ブロックで砦や壁を作らされ、そして雪玉に混ざっていたあのボールを誰かが投げて、起爆した、のではないだろうか。

 本当に、色々と考えつくものだ。どうしてその頭をまともな方向に使わないんだろうな?

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