第748話 22枚目:戦闘準備

 どうやら光の柱を設置する間は、エルルとサーニャが2人がかりで大きな氷の入れ物を水路の上に持ってきて、それを他の召喚者プレイヤーが総出で照らす事で対処してくれるらしい。

 まぁ確かにやっている事は同じなので、手順や人員を入れ替える必要がほぼ無い分だけ簡単に切り替えられる方法だ。それでも瞬間的にかかる重量は相当な物になるだろうが、エルルとサーニャなら大丈夫だろう。


『いや重い! 重いってこれ!? 水より重いんだけど!?』

『“影の獣”に重さがあるのは分かってたが……っ!?』


 ……ま、まぁ、落とす事は無かったので問題は無い。空間座標に固定される封印魔法って便利だねって話だ。次からは入れ物自体の大きさをもうちょっと控えめにすることで対処したし。

 そこからペースをじわじわ上げつつ「伸び拡がる模造の空間」を削り続け、どうにか2日目の昼の陽が半分ほど傾いた頃には水路を半分ぐらいまで攻略する事に成功した。もちろん中身の上限まで回収するって意味で。

 ここで新事実が分かったのだが、どうやらこの水路、というかそこに架かっている橋は、真ん中の1つが特別大きく、それだけは真ん中で2つに割れる仕様になっているらしい。


「そしてその橋を動かすには両側が開いている必要がある為、次は内海側の端から橋を動かす事になる、と?」

『そうなりますね! ちぃ姫さんには引き続き、封印魔法による「伸び拡がる模造の空間」の吸い上げと種の回収をしていただければと!』

「分かりました。まぁやる事は一緒ですからね」


 これは真ん中の橋に何かあるな? という予感はしたが、それも実際に見てみなければ分からない。

 と言う訳でそのまま2日目の昼は終了、2日目の夜もひたすら上空に注意を引き続け、地上の探索を支援する。……時々上空からサーチライトが照らされていたから、追加援護が必要な程度には難易度が高かったようだ。残り体力が減ったからちょっと本気出してきたか?

 それでも宿闇石を回収してきた探索班は流石と言えるだろう。これでまた一段と「伸び拡がる模造の空間」の再生力……? が減衰した筈だ。たぶん。恐らく。


「……多分ですけど、宿闇石の回収によって、水路を含む全体の増殖力が下がっていた気がするんですよね。ギリギリでも間に合った、と言う事は」


 なお、現在は3日目の昼過ぎ頃だ。ほぼ真上にある太陽は、最後の1本になった橋を燦々と照らしている。

 他の橋は全て跳ね上げられ、表面の黒い物も剥がされている。今はダメ押し兼保険として、その空っぽになっている水路とその周辺に、これでもかと密閉度の高い箱が並べられているところだ。

 そして私はその様子を聞きながら、可愛い好き召喚者プレイヤーが連れている霊獣のブラッシングをしていた。いやぁ、最初は休憩がてら生産作業するつもりだったんだけどね。お札はいくらあっても足りない類の消耗品だし。


「精霊獣は厳密には非実体だからか、ブラッシングできませんでしたからね! 動物や一部モンスターについて、毛並みという名の調子がステータスに反映されるのは既に判明していましたが、精霊獣は進化先も含めて例外かと思っていたので、進化したらブラッシング出来るようになるのは嬉しい誤算です!」


 と、スピンさんが言う理由もあるのだが、多分これは可愛い好き召喚者プレイヤー達の士気を改めて上げる為というのが本命だろう。まぁね? 私も可愛いと触れ合えるから大変役得なんだけどね?

 精霊に関する好感度がかなり高いからか、精霊獣や霊獣は素直に可愛いされてくれるんだよな……! と、しみじみその有難みを感じながら、列を作って並んでいる召喚者プレイヤーから霊獣を預かり、ブラッシングしていく。

 ……ところでさっきインベントリをちらっと確認したら、なんか、霊獣由来っぽい素材……毛とか羽とかが入っていたが、これはどうすればいいんだろうか。


「あ、そちらはお礼と言う事でお持ちください!」

「結構量ありますけど?」

「むしろ追加でお金を支払わせて頂きたいのですが!」

「分かりました、ありがたく受け取らせて頂きます」


 うん。問題は無いらしいな(目逸らし)。

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