第719話 22枚目:レイドボス出現

 で。3日目の昼までは特に変わった事は起こらず、これまでのステージと同様、種の回収と精霊獣の救出に動き続けた。ちなみにトンネルは反対側にも掘って、そっちにも光の柱を設置している。

 なお、このステージにおける司令部の要請で、水門(推定)が見える位置に穴を開けようともしてみたのだが、全力で真っすぐ上に穴を穿っても“影の獣”が出てくるばかりだったので、断念する事になった。予想通りだけど。


「直接光を叩き込めるならやってるんですよね」

『それでも一応やってみて、可能性を目に見える形で潰しておく必要はあるであるからな』


 それはそれとして、空間が歪んでいる中にあったかなり大きな宿光石の結晶を回収しているから、これでサーチライト的なものが作れないか「第四候補」に相談しよう。

 で、今はと言うと3日目の昼が終わるのを、島の南側の空で、最大限に警戒しながら待っているところだ。もちろん召喚者プレイヤーは全員地上からの退避を完了しているし、現地竜族の人達の気球は、念の為北の海上まで離れて貰った。

 何でかと言うと、ここまでのステージで“影の獣”の出てくる量が跳ね上がったのがこのタイミングだからだ。元凶、あるいは源泉と呼べる場所がはっきりした現在、それがどういう風に変わるかが分からない。


「下手したら、そのままレイド戦に突入、という可能性もありますからね……。どういう攻撃をしてくるのかとか、そういうのは一切予想出来ない分だけ、警戒せざるをえません」

「そうですね。ただ、少なくとも光属性が有効である事と、相手が群体である事ははっきりしています。その辺りを押さえつつ、いつものように手探りしていくしかないでしょう」


 まぁそれしか無いんだけど……。と思いながら息を1つ吐いたところで、西に沈んでいった太陽の、最後の光が沈み切った。

 瞬間、ざわ、と空気が揺れるように、森の影が揺らめいたような気がした。エルルもサーニャも十分な高度をとって飛んでいるが、ステータスの暴力による視力なら問題なく地上を見る事が出来る。

 もちろん私もそうなので、どういう動きがあるのかと目を凝らし、


『全員掴まれっっ!!』


 非常に珍しいエルルの本気警告に、慌てて背負い袋の内側にしがみついた。直後に強い重力が横向きにかかる。エルルが緊急回避したようだ。何を? というのは、この状況なら考えるまでも無い。

 そして、恐らくそこからほぼトップスピードでしばらく飛んでいたエルルのスピードが緩んだタイミングで、召喚者プレイヤーからは送れなくなっているメールが届いた。


[件名:イベントメール

本分:イベント条件が満たされたため、レイドボスが出現しました!

   このレイドボスは莫大な体力と特殊能力を持っています。

   プレイヤー全員で力を合わせて退治しましょう!


   ※レイドボスがイベント期間内に倒されなかった場合、通常空間に出現します

   ※出現する際、本体及び特殊能力の状態は引き継がれます]


「ってこいつも仕留め損なうと通常時空に出現するんですか!?」

『マジか!?』

運営大神からのお知らせ啓示にはそう書いてあるんですよ!!」

「なるほど。今ですら神々が総出で何とか押さえ込んでいる状態なのです。ここでしっかりと痛打を入れて弱らせておかなければ、再封印もままならないのでしょう」


 どうやらエルルは、島から大分離れた南の海の上まで移動したようだ。メールを読むなりカバーさんの言葉を聞きながら顔を上げると、5日目の夜かと思う程に大量の黒いものが、上空まで含めて島中を覆い尽くしていくところだった。

 もちろんその覆い尽くす対象の中には超巨大な積乱雲も含まれている。……エルルが西方向へとずれてくれたので見えた北の海の上には、白い気球が3つ並んで浮いていた。良かった。現地竜族の人達は無事か。

 とは言え……今の、シーツお化けにヘドロをぶっかけた上で半透明にしたような巨大な姿が出現する余波で、島の空中に居た召喚者プレイヤーはほぼ全滅しただろう。現在も空を飛んでいるのは、気球とエルルとサーニャだけっぽいし。


『びっくりしたー。ブレスが効いて良かったよ』

「サーニャも無事で良かった。……まぁ問題はここからな訳ですが」

『そうであるな。ここまで規模の大きい不意打ちが来るとは思っていなかったである』


 ずずず、と音を立てるように、実際はほぼ無音で、巨大な影のような姿が島を土台に盛り上がっていくのを見ながらサーニャ及び「第一候補」達と合流する。本当にな。大分人数削れたぞ、今ので。

 もちろん気球に乗っている召喚者プレイヤー達や、そもそも海の向こうで待機している召喚者プレイヤー達は無事だろうが、それでも空を自由に動ける人数って意味だと致命的だ。

 エルルが本気出して緊急回避したって事は、それこそ「空の魔女」さんぐらいの機動力が無いと、回避からの離脱は厳しいだろう。


「ま、あと3回チャンスがある現在に引き出せたのですから、それで良しとしましょう。次からは警戒できるんですし」

『そうであるな。……問題は、現在の此処から、どう動くべきかであるが』


 ……とりあえずは、光属性と捕縛魔法で殴ってみて、様子を見るしかないよなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る