第706話 22枚目:合流と発見

 1日目の夜であれば“影の獣”も放っておけば引き上げる。そしてうちには3人ほど、とても足の速い使徒生まれの子がいる訳だ。もちろん、エルルとサーニャも当たり前に素早い。

 今回ばかりは襲い掛かる現場を見つけたらその場でオーバーキルして良し、の許可を出して、主に兎さんが楽しそうに飛び出していった後、知り合いだけを回収して気球に退避した。

 うん? 知り合いがいたのかって? 居たよ。


「いやー助かりました! ここまである意味偏ったステージになっているとは思わず……!」

「誰も思いませんよ。なってしまったものは仕方ありませんが、今回はもう精霊獣の救出を主目的にすると切り替えています」

「流石ちぃ姫さんですね!」


 大半は『ボランティアハウス』か『雷霆の使徒』所属だったし、他には時々返り討ちに遭ったらしいPK集団所属の奴が混ざってるぐらいで、1人だけだったけど。これ、一般的には外れステージって言うんじゃないかな。いや、人間種族ならそうでもないのか。主に『雷霆の使徒』の協力具合が。

 そしてその1人であるスピンさんだが、この人は確かどちらかというと生産職だった筈なので、気合の入ったPKに開幕不意打ちされれば、確かに対処は厳しいだろう。

 ただ、知り合いは1人だったけど、まともな召喚者プレイヤーは1人じゃなかったみたいなんだ。っていうのも、だな。


「……ところでスピンさん。私を見るなり鼻血を出してぶっ倒れたそちらの皆さんは」

「まぁ大体お察しかと思われますが、『可愛いは正義』に入ったばかりの新人さんです! 1月からスタートしたとの事ですので、そろそろ新人の呼び名は卒業できるかなー? ってところですね!」


 復活地点がスピンさんと一緒だったので、初期地点は近かったらしい。人数は3人。全員女の子だ。

 気絶してはいるが、セーフティが働いて強制ログアウトになっている訳では無く、時間きっちりで目覚める不思議な睡眠の状態に近いようだ。ただ、何時間で目覚めるかは分からないとの事。

 うーん、これは、不用意に姿を見せた私が悪いか。頭の上にはフライリーさん、肩やらお腹やらにはもふもふの精霊獣がたくさんくっついた状態だったからなぁ。可愛いに決まってる(自画自賛)。


「正直私もなかなか厳しいですけど、流石にこの現状で倒れる訳には行きませんので! 元『本の虫』所属召喚者として!」

「頼りにしています」

「ん゛っっ!! ……生きろ、私!」


 おっとついいつもの癖でにっこり皇女スマイルしてしまった。致命傷で済んだだろうか。

 さて、ここまで会話しておいてまだ触れていないのだが、実はとても気になる事がある。なんなら全員が最初から気付いているだろうし、大半は同じく気になっている筈だ。

 それでも今までそこに触れなかったのは、まず状況確認及び説明が先だったからと、それが、まぁ、言ってしまえばちょっと話題にするのを躊躇う部分だったからだ。


「……ところで、スピンさん」

「何でしょうか!」

「その。……もしや、体形を変化させる薬、みたいなものが、見つかったんでしょうか?」


 スピンさんは小柄だ。今の私が目を合わせての会話がそこまでしんどくないって時点で、高身長な環境であるフリアドにおいては大分小柄な部類に入る。

 身長がそんな感じなので、体形としても準じる形だったのだが……何故か。その、胸の部分だけがこう、思いっきり布地を押し上げてるんだよね。ぱっと見て分かるぐらい。

 そりゃ気になるよ、だって明らかに違うんだから! ぶっちゃけ違和感しかない! でも言葉によっては同性でもセクハラになっちゃうし、第一フリアドってキャラと本来の性別が違ってても問題無いタイプのゲームなんだよね……!


「あ! よくぞ聞いてくれました!」


 と内心結構葛藤していたのだが、ぱっ、と明るい顔になって嬉しそうにそう言うスピンさん。ん? 質問待ちだったの?

 とりあえず深刻そうじゃなくて良かったけど。と思う目の前で、ごそごそと自分の服の中に手を入れて探るスピンさん。え? 何? 詰め物でも開発されたんだろうか。でも今見せる?

 疑問符が結構出ている目の前で、ずぼっ、と、スピンさんが自分の服の中から取り出したのは。


「とうとう見つけましたよ!! 私は! やり遂げました!!」


 ――ひにゃー。と、か細い声で鳴く、白くてもふもふの、子猫だった。



 マジで!?!?!?

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