第703話 22枚目:開封模様

 さて、人手を増やす事が決定された訳だが、ここで思い出してほしいのは、イベント前にクランハウスである島……特に私のいる島がどうなっていたかって事だ。

 結局エルルとサーニャばかりを呼び出す形になったので、今のところ表面的には収まっているが、誰が同行するかというアピールの為に、島全体を使った何でもありのバトルロワイヤルが開催されていた。

 流石にルミ達のように行動できる環境が極端に限定されている子は参加していなかったようだが、外部向けに警告を出す必要すらあったからな。


「となると、当然今回も騒ぎになる可能性が高い訳で……」


 いやまぁ、アイテム用のイベントアイテムを集めて、一気に全員呼べばいい話なんだろうけどね? 呼ぶよ、って伝えた時点で、バトルロワイヤル再びになりかねないなって……。

 生産作業は相変わらず忙しいが、氷属性の捕獲魔法は「希釈合成」が使えるので、休憩する暇ぐらいはある。皆で種を開けている筈なので、一応自分に空間属性の防御をかけて移動だ。

 今日のフリアド内天気は晴れ。なので、川べりに残った草原の辺りで開封作業をしている筈だ、と当たりを付けて移動すると、そこには想像通り、わいわいと種を開けてそこから出てくる色々に反応している皆が居た。うーん楽しそう。混ざりたい。


「お嬢!?」

「えっ姫さん!?」

「休憩ですよ休憩。ほら、ちゃんと防御はしてますし」


 もちろん真っ先にエルルとサーニャが気づいて反応するが、ほら、と、自分の周りに半球型の防御がある事を示して座って貰う。というか、いつの間に特大サイズピクニックシートなんて作ったんだろう。

 エルル、サーニャ、ルウが種を割って、後の全員で宝箱に取り掛かっているようだ。車座になって座り、その外側にはインベントリに入りきらなかったか、それとも行く場所が決まっていないのか、色々な物が並べられている。

 ……でっかい蕾が結構な数転がってるんだけど、なにこれ。【鑑定】待ちかな?


「それねぇ。中に生き物が入ってる可能性が高いんだってさぁ」

「えっ」

「カバーさんが言ってましたー。他の場所で見つかった場合もー、その蕾に魔力を込めると開いて、出てきたのは全て生き物だったそうですー」

「まさかの三重包装。あれ? でも魔族の方はそのまま出てきたような気がするんですが」

「後で取り込まれたらそうなるんじゃないか、だそうだぞ。ともかく、そっちは受け入れと説明の準備を整えてからだ」


 なるほど。と言う事は、ヘルマン君の家族はこうなってる可能性が高いって訳だな。まぁ一番多いのは野生動物だろうけど。

 ちなみに、こういう風に三重包装になっている物は他にもあって、車座の外に転がされているのはそういうものなのだそうだ。なるほど。……って事は、この鞄や蓋つき両手鍋もそうだって事? もうちょっと形はどうにかならなかったのか。

 なお三重包装の形で中身の種類が確定しているのは蕾だけで、後は関係ないんだそうだ。ますますこの形になった意味が分からないんだけど。


「ところで、何かいいものありました?」

「今の所ぉ、一番の当たりはあれだねぇ。装備の修復に使えるポーションのレシピだよぉ。材料も手順も難易度が高いけどぉ、小さな欠けや皹ぐらいならその場で直るんだってぇ」

「o(*^▽^*)o」

「ルージュさんにとっては回復薬ですからねー。ストックは欲しい所ですー」

「すっごい釣れる釣り餌もあったヨ! 美味しかっタ!」

「そこの怪力から餌を守る必要はあるけど、確かにものすごくよく釣れたな。餌を守る必要はあるけど」

「砥石」

「それもあったね。かなり上物の砥石が塊で出て、砥いでみたらすごく良く切れるようになったやつ。あれまた出てくれないかな」

「肥料を混ぜる割合と効果の表が出て来たメェ」

「肥料自体も出て来たからすぐ使えるメェ」

「いくらでも欲しい物は置いておいてくださいね。ボックス様の試練なら増やせますし」


 それぞれに収穫があったようで何よりだ。エルルの反応が無かったようだが、ステージに呼び出した時に鎧の応急処置感が無くなっていたので、主に装備の修復と言う意味で恩恵はあったっぽい。

 まぁそうやって話してる間も手は止めてないんだけど。やっぱり消耗品の類が多いみたいだ。バックストーリーの通りだな。


「ちょっとよく分からないお薬が出る時もあるけどぉ、それはそれで調べるのが楽しいんだよねぇ」

「複数同じのが出た時は何故か俺が飲まされそうになるけどな!? というか食事に混ぜるのは止めろ!」

「やだなぁ。貴重な薬をそんな風には使わないよぉ」

「じゃあこの間昼飯を食べたら俺だけ語尾がおかしくなったのは何なんだ!?」

「あれはぁ、見つけたレシピを使ってとりあえず作ってみたお薬の試験だよぉ」

「なお悪いわ!!??」


 そしてルドルは相変わらず不憫枠のようだ。しかし強制語尾変化薬か……どこのギャグ時空から輸入されたんだろう。そしてどんな語尾になったんだ。それもルドルが。……ちょっと気になってきちゃったぞ?


「ちなみにぃ。同じ束の中にはまだ作ってないお薬があってねぇ?」

「模擬戦の時の水分も自分で用意してるのにどうやって変な薬を混ぜてるんだよ!?」

「アタシの器用さと速度がどれだけだと思ってるのさぁ」

「そうだったちくしょう!!」

「ア」


 ルドル、がんば……。と思ったところで、ルウが声を上げた。何事、と思ったら、一際豪華で解錠が難解そうな宝箱が。


「よーし、ちょっと下がってろお嬢」

「と言うか、姫さんに空間属性の封印魔法を使って貰って、その中で作業すればいいんじゃない? 確かショーナは今別の島だろう?」


 なおショーナとは、やらかしてしまった赤髪の魔族さんの事だ。どうやら警備に関係した魔族の人はなかなか出てこないらしく、あちこち引っ張りだこで忙しくしていたりする。少なくとも、うちのクランハウスではとりあえず対処できるからね。

 もちろんその内空間的な対策もしっかり取るつもりだけど、たぶんそれは、このイベントが終わってからになるんじゃないかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る