第702話 22枚目:追加情報

 翌日は当たり前に学校なので、普通に登校して授業を受けてくる。早い人はそろそろ大学受験を意識しないといけないって事で、教室で交わされる話題もその手の物が増えて来た。

 既に推薦を貰うかどうかの勝負は始まっているらしく、そういう意味でも緊張がある。今でこれなのだから、夏休みが明けたら完全に空気が変わるだろう。

 まぁ私は推薦にはあまり期待せず、普通に試験を受けるつもりだけど。私立大学だし、学校自体が大きいから、競争率もそこまでは跳ね上がらない筈だ。


「と言うか、今年の8月はたぶんそれどころじゃないからな……」


 家に帰って『アナンシの壺』のまとめページを開きながら呟く。そう。何せ今年の8月は、フリアドでは次の大陸へ向かう為の大一番だ。そして次の大陸には現代竜族が暮らしていて、現代竜族と合流できれば、最初の大陸にある竜都の封印を解く事に取り掛かれる。

 そう。ようやく私含めた古代竜族に関する諸々が、正式に進められるって事だ。フラグのねじれは早く解消するべきだからね。既に大分遅い気もするけど。

 後は、竜族っていう大火力にして抑止力が動けるようになれば、治安的なものや流通的なものが大分改善すると思うんだ。やっぱり制空権を握ってるのはでかいよ。もちろん種族特性がステータスの暴力っていうのもあるけど。


「……冷静に考えると、それ以降の大陸だとそれぐらいの戦力が必要って事でもある様な……?」


 …………。よし、気づかなかったことにしよう。

 さて、と開いた『アナンシの壺』のまとめページに目を通す。最新のイベント情報は……お、更新されてるな。

 資料を集め、証言を聞き取り、神々にお伺いを立て、野生と化した魔族の人を回収して、ようやく見えたバックストーリーの続きは、と、言うと。



 異世界からの侵略者。その尖兵と言える存在が長く居座っていたために発生した特殊な歪みは、空間の歪みを取り込むことで、世界の外に場を移した大神が抱え守っている、大きな傷の1つにまで繋がっていた。

 慌てて神々はそれ以上の浸食、或いは流出を食い止めたが、そもそもが空間に対して発生した異常であった為、大神の力と共に流れ込んだ大きな傷は、亜空間に再現されてしまう。

 神々はその繋がりを遮断し、その再現がこれ以上の規模になる事に力を割いている為、支援を行う事が出来ない。特殊な歪みのせいで、大神の加護すら万全とは程遠い。そんな状態で、「災害」は再び召喚者の前に立ち塞がるのだった――。



 うん。


「だろうと思ったよ。とでも言えば良いのかな?」


 予定調和過ぎて笑いも出ない。もはや実質的にレイドボスの出現は確定したと言っていいだろう。まぁいるだろうなとは思ったけどさ。前回のステージのあれを見た時点で。

 先月からの連続か、と思った訳だが、よく考えれば今回のイベントは時間加速が行われている。5日が10回分、つまり、単純計算で50日……間の準備期間を入れれば、ほぼ2ヶ月ぐらいになる。

 そして2ヶ月あれば、まぁ、レイドボスぐらいは出てくるだろう。フリアドのイベントラッシュ具合から考えれば。どうして今このタイミングで持ってきたのかは分からないけどな!


「学生する必要もあるから、結構厳しいんだけど」


 まぁテストに文句を言っても仕方ない。イベント期間と被ってる訳では無く、ギリギリとは言えずれてるんだから、どっちにも全力を出すしか無いだろう。どうせ間の準備期間は生産作業に追われてるんだし。

 例によって再現された「大きな傷」の年代は遥か過去、つまり去年の5月イベントと同じくらいの時代だ。この時点で厄ネタなのだが、幸いと言うかせめてものフォローというか、神々が空間の歪みを消費する為に、特に消耗品の類をたくさん複製してくれたらしい。

 つまり、種によるガチャの上限が無いって事だな。もちろん一部限定品……最初から取り込まれている魔族の人とか救出が間に合わなかった竜族の人とか……は数が限られているが、そっちの数を増やされても逆に困ってしまうし。


「災害という名のレイドボスと戦う為にって素直に言えばいいのに」


 まぁ建前って言うのは大事だからね。種の回収に加速をかける必要があるのだから、これは実に有効と言っていいだろう。

 そして神様からの情報によれば、存在が発覚した精霊獣達だが、進化先がかなり多岐に渡るらしい。その上餌代などのコストが低く、各種補助系スキルも揃える事が可能で、若干だが大神の加護を強化すると、かなりの押せ押せだ。まぁ救出対象なんだからそれもそうなんだろうけど。

 それに加え、あの中身が何もなくて、ガワと言うか種自体がその場に転がるタイプの「人工空間獣の種」だが、あれの数を集めて神殿で捧げると、神様がギフトカタログのようなものをくれるのだそうだ。神様によって内容は違うが、大体は貰って嬉しいものが並ぶ中から好きな物を選べるらしい。


「うーん、種の回収をこれでもかと加速させたいんだなぁ」


 なお、目玉商品はメニューから開くインベントリとは別の枠と重量上限のある鞄やポーチ、もしくはクランハウスや自分の部屋に設置できる箱らしい。倉庫よりは手軽に、物の整理が捗るってやつだな。

 こちらは物にもよるが、内部の時間の流れを変える事も出来る様だ。なるほど? お酒とかを入れて時間が早く流れるようにしておけば、何十年も時を経て美味しくなったお酒が簡単に作れるって訳だな?

 ……主に料理を研究している人が目の色変えそうだな。いや、ルディルやルフィル達もがっつり食いつくか? ポーションというか、毒物には長い時間をかけて反応させないとダメな奴があるとかって聞いた覚えがあるから。


「ま、いずれにしても種の回収は加速するだろうし、それでいいんだろうけど」


 これはあれだ。エルルかサーニャだけじゃなく、他の皆も種の回収要員として呼んだ方が良いやつだな。

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