第678話 22枚目:ステージ開始

 案の定それぞれに凹みまくっていた2人のメンタルケアというか相談と言うか説得と言うか、言葉を尽くす事になった。まぁのんびりお茶の時間と思え、ば? ……サーニャはよしよしすれば大体機嫌が直るんだけど、エルルは自己嫌悪が悪化するからなぁ。もっと自信もっていいのに。

 で、その流れで赤髪の魔族の人にも面談する事になったんだが、まぁ、その、こっちの方が説得は大変だったよね……。大分カバーさんや「第一候補」からのフォローは入っていたみたいだけど、そもそも話を大分聞いてくれない。

 これで既に召喚者という存在や私の性格について説明が入ってるって言うんだからびっくりだよ……。とは言え、これからの対空間干渉警備の事を考えると、ここで協力を取り付けておきたいしな。


「気づいたらログイン時間が吹っ飛んでいましたよね」

「マスターも災難だったねぇ。これで終わりになればいいんだけどぉ」

「本当にそう願いますよ」


 ちなみに、今は元『本の虫』組の人達が全員揃って、図書館で「勉強会」をしている。そう、お分かりだろうが、ルールの能力と今までの検証結果を合わせて更なる検証をしている。特にスキル関係だな。

 私は空間属性の封印魔法を使ったお札を作るので手一杯だ。なお、事故で突入してしまった“影の獣”の中で確保した種については既に放出している。が、何せ事故があった所だからね。対策が取れるまでは保留って事になった。

 思わぬ事故はあったが、得られるものはあっただろう。多分。きっと。恐らく。色々不安が形になった気もするけど。ヘルマン君をブラッシングして出てきた抜け毛で、ミサンガ風の腕輪も作れたし。


「……次も出来れば身内と合流したいですね。熟練者が多いとなおいいのですが」

「そうだねぇ。ただ、そうはならないと思ってた方が、準備としてはいいと思うよぉ」

「そうなんですよね」


 そうなんだよな。

 ……今から3回目のステージが不安だが、そういうイベントなのだから仕方ない。少なくとも1日目のやるべき事はすでに確定しているし、その後も大体方針は固まってるんだ。

 この2回のステージで、新人たちにも『アナンシの壺』のススメには従った方が良い、という空気が生まれて…………いると、いいな、と、期待値低めに希望しておこう。




 さてそんな訳で、3回目のステージがスタートした。例によって準備は万端だ。今回の自由枠は、色々考えたが、前回と同じ……初手の移動を重視するものになった。

 とりあえず私の場合、アイテムを呼び出す(=仲間を増やす)イベントアイテムより、スキルを揃えてステータスを戻す方が優先だ。何せステータスの暴力が私の代名詞だから。

 それが、トップ召喚者プレイヤーと並ぶぐらい、というのは、うん、その、アイデンティティ的にね?


「さて、初期位置は…………はい?」


 まぁ方針としては決まっているから、動きとして迷う事は無い、と思ってのステージ開始だったのだが、予想に反して開始直後にまず思考停止する事になった。

 と、言うのもだ。ステージの地形は、少なくとも公式のお知らせでは全てのステージで共通だ。前提条件は同じ、というのが、今回のイベントにおけるポイントなのだから。

 そしてステージの地形は、扇形、というか、バウムクーヘンを切り分けたような形の島で固定している筈だ。南に切れ目の入った山があり、北に行くほど広がって、地形的になだらかになっていき、その大半を森が占める、というものだ。


「海の、ど真ん中……?」


 だから。こんな、全方位に海が広がるような場所は、無い筈だ。無い筈、なんだけど……。


「……いや、違う。これは、岩礁? しかし、こんな地形は少なくとも『アナンシの壺』のまとめには無かった筈……」


 足元を確認してみると、波に洗われながら、ギリギリ海面の上へ顔を出している岩が点々と存在していた。私はその内の1つの上に居るようだ。しかしギリギリだな。

 改めて周囲を見回してみる。ステータスは普段に比べれば1割以下だが、それでも相当に視力は良い。太陽が顔を出したばかりだから、あっちが東だから……。


「というかこれ、私でなければ詰んでいたのでは? ……いや、「空の魔女」さん辺りなら大丈夫でしょうか」


 南の方向に、どうやら島っぽいものを見つけて、とりあえずそちらへ移動する事にしたのだった。

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