第658話 22枚目:状況把握

 早速【人化】を解いたエルルの背中に乗せてもらって、ぐるりと島の様子を再度確認したら、もう日没だ。太陽が沈み切ると同時にまだ輪の残っていた光の柱が消えて、一気に暗くなる。

 谷の側面に設置した光る床は残ってるし、宿光石にもちゃんと光を蓄積してあるので、真っ暗では無いんだけど。と思ってる間に、谷からぞわぞわという感じで、何か黒いものが湧き上がって来た。


『お嬢、あれか?』

「あれですね。前回見た時はもっと勢いがありましたが、まぁ初日ならこんなものでしょう。他の場所でも対策はしているでしょうし」

『同じ空間を複数に分けて、同時に探索する、なぁ……』


 いまいちよく分からん。と言いたげに声を零すエルルだが、空から地上を見る目は真剣だ。途中で光を蓄積した宿光石が露出している場所を避けながら、じわじわと広がっていく推定“影の獣”の動きを追っている。

 動きだけを見るなら溶岩っぽいんだよな、あのドロッとした感じ。平地で「襲い掛かって来た」って証言が多数あるから、絶対に違うものなんだけど。だから推定の名前に「獣」って入ってるんだろうし。

 かと言って、生き物と言うには違和感が酷いんだよな。そもそも実体があるのかないのかが曖昧だし、生き物ならもうちょっと生き物らしい挙動をしろと言うか。


『…………俺も伝え聞いた話だから確証はないが、たぶん、あの“影の獣”っぽいな。とりあえず、ここから見る限りは、だが』


 なんて考えていると、エルルからそんな呟きがあった。どうやら心当たりは正解だったようだ。多分今、その伝え聞いた話っていうのを出来る限り思い出しているんだろう。

 しかし今回、本当にヒントらしいヒントが無かったからな。人工物はあったんだけど資料っぽい物はほとんど見つからないし、生き残っていた雲竜族と霧竜族の人達も正体は分かっていなかったし、島中探しても情報らしい情報が得てこなかったんだよ。

 もしかしたら、運営大神的にはひたすらに片っ端から出来そうなことを試行錯誤し続ける予定だったのかもしれないが、早めに対処できるんなら出来た方が良いよね。


「人工物があった、という事は、何がしか他の種族が暮らしていたという事でもありますからね。そちらも可能なら探し出したいところですし。地形が変わっている、というのが、どういう影響でそうなっているのかも分かりませんし」

『あー…………そうか、あの谷、妙に真っすぐだなと思ったらあれか。あれがアレクサーニャの言ってたやつか』

「あれです。推定ですが、空間異常系の痕跡もしくは異常そのものですね」

『で、そこから湧いて来てる訳だな?』

「と言う事ですね。ちなみに、私が谷底に光を叩き込んでいたのも、底にどうやらあの黒いのがあるから、少しでも削ろうと思っての事です」

『なるほど。確かに昼間でもあそこなら暗いだろうからな……』


 じわわっと平地にまで広がっていく黒いの、恐らく“影の獣”で確定、と言う事でいいのだろう。その様子を見ながら、点在している明るい場所、宿光石の大岩を確認する。竜族としての視力でなら、明るい場所に野生動物がみしっと固まっている様子が見えた。

 他にも召喚者プレイヤーらしい姿もあって、そちらは光属性の攻撃を叩き込み続けているようだ。ちら、と気球の方に視線を移すと、そちらからもぽんぽんと魔法的照明弾が地上へ落とされている。

 出来る事はやっているので、少なくとも1日目の夜は無事に乗り切れそうだ。2日目からはまた手探りだから、油断は出来ないけど。手探りと言うか、エルル次第と言うか。


『お嬢。そう言えば前回もあの調子で、谷に大規模な光属性攻撃をしてたのか?』

「谷にというか、谷をみっちり埋めて平地全体を満たしていた“影の獣”にですけどね。4日目以降は朝一から夕方までがっつり叩き込みましたよ。というか、そうでもしないと平地に降りれなかったんです」

『規模が大きくなるとは聞いてたが、そこまでか』

「そこまでですね。今回は他の場所も対策しているでしょうし、多少はマシ……だと、いいな? って感じですけど」

『そこの確信は無いんだな……』

「まだまだ手探り状態で、全く情報が足りませんからねぇ……」


 計10回の2回目、イベント的には序盤も序盤だからなぁ……。運営大神も検証班が居る前提で、情報を更に出し渋るようになってるみたいだし。もともと情報の出し方下手過ぎなのに、拍車がかかるってどういう事だ。


「そんな感じなので、少しでも情報なり手掛かりがあるなら欲しい訳ですよ」

『それで全員あそこまで食いつきが良かったのか』

「そういう事です」


 そういう事なんだよな。元『本の虫』組の人達をして割とお手上げなんだから、本当に情報が足りないんだよ。

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