第646話 22枚目:ステージ開始

 と、言う訳で、2回目のステージの開始地点はというと。


「……また極端な所に出ましたね。沼地に近い海岸線、という事は、北西の端でしょうか」


 条件は全て同じ、という事は、地形の変化も当然無い筈だ。前に調べた地形情報がそのまま使えるなら、バウムクーヘンを切り分けたような形の、ほとんど角に当たる部分に居る事になる。

 ちなみに今回の自由枠は【人化】【飛行】【魔力練化】だ。言語スキルは捨てた。洞窟ならすぐ他のスキルも開放できるだろうしと思っての事だったんだが、当てが外れたな。

 東の空から顔を出したばかりの太陽を一度見て、南へと視線を向ける。とりあえず、あっちにいってスキルを増やさない事にはどうにもならない。


「現状で誰かと会っても、竜族以外には言葉が通じなくなってますからね……」


 と言う訳で、軽く助走をつけて【飛行】で山へと一直線だ。うん。やっぱり【魔力練化】があると制御の難易度が全然違うな。言語スキルを捨ててでも入れて良かった。

 ほぼ種族スキルだけの状態でも、私のステータスは大概高い。だから、そのスピードはかなり出ている。快適に森の上を飛んでいけるので、あとは姿勢制御にだけ気を付ければそう時間を掛けずにあの洞窟へ辿り着けるだろう。

 今のステータスでもランタンは使えるだろうから、それで宿光石の鉱脈に光を蓄えつつイベントアイテムを回収、言語スキルを開放してから制御スキルを開放、光属性から魔法スキルを開放して、後は可能な限り光の柱の設置だな。


「まぁ、洞窟の中に先客が居なければ、の話ですが」


 その場合は、まぁ、相手にもよるけど話し合いからだな。前のステージで、山の南側にもそこそこスキルを開放できるイベントアイテムがあったって聞いてるから、何なら先にそっちの回収に向かおう。

 と、考えながら森の上を飛ぶことで北上を続け、それが半分を超えたあたりだろうか。あ、あの湖って確か霧竜族の人達がテント張ってたとこだ、とか思いながら、一瞬正面から視線を外し。


「――っつ、あ!?」


 ッガン!! と、横から強く殴られたような衝撃を受けた。当然ながらそのまま墜落する。【徒手空拳】が無いとはいえ、それでもどうにか受け身を取って着地はしたが、何だ今の!?

 着地の衝撃をもろに叩きつけてしまったので、私は平気だが着地先の結構大きな木が折れてしまった。すまない。しかし何だ、いや、確実に何らかの「攻撃」だろうけども。

 自分で言うのもなんだが、私は小さい。それに身に着けているのもサバイバル仕様の服なので、あれだけ精度の高い「攻撃」を叩き込んで、ステータスが落ちているとは言え私を墜落させる程度の威力があるなら、しっかりと目視は出来ている筈だ。


「ヒャッハー! 特上の獲物を見つけたぜぇー!!」

「仲間もイネェ! 護衛もイネェ! 大チャンスって奴だぁー!」

「狩れ! 狩れぇ! 大物狩りだぁ!! 名を上げろぉ!!」


 なので確実に「狙って」攻撃した、という事になるのだが……と思った矢先に聞こえてくる声。あぁなるほど。面倒な奴と同じステージになったみたいだな。

 どうやら言語スキルは「話す」事に対する補正であり、「聞く」事については単純にステータスで良いようだ。何せ、今こうして問題なく聞き取れているからな。もしくは、封じられているだけという事も関係しているのかもしれないが。

 はー。と呆れを息に乗せて吐き出して、とりあえず着地した態勢のまま乗っていた、ほぼ根元から折れた木から降りる。幸いと言うべきか、今いる場所はこの折れた木を中心とした、ちょっと開けた場所になるようだ。


「第三陣、なら神器込みとは言え“遍く染める異界の僭王”に対する火力を見ている筈ですし。それ以降か、或いは話に聞いていてもそんな訳ないと笑い飛ばしたか……」


 ドドドドド、と、結構な人数が走って来る足音を聞きながら、その方向に当たりを付ける。まとめた髪が崩れないように耳の辺りをかるくかいて、折れて倒れた木へと手を添えた。

 足音の方向は東側。私はほとんど海岸線に沿って飛んでいたので、足音の方を向けば後ろは海となる。まぁ、だからどうしたって話なんだけど。


「……それが「自分達に向けられる事は無い」と、こっちを舐め腐っているか、ですね」

「みぃつけたぁー!! 獲物だぁー!!」

「俺の獲物だ!!」

「いいや俺のだ!!」

「狩れ狩れ狩れ狩れ狩れぇー!!」


 それなりにステータスがあるのか、結構な速度で森の中を走って来た推定召喚者プレイヤー達。全く、罪人プレイをしたいんならもっと別の、そもそもの治安が悪いか、治安を悪化させることを目的としたゲームをやれって言うんだ。

 理解できないし理解しようとも思えない。モンスターと同等程度には明確な「敵」が、こっちに突っ込んでくるのに息を1つ吐いて。



 手を添えていた倒木を掴み、可能な限りの人数を、そのまま森の向こうへと吹き飛ばした。



「……は?」

「……へ?」


 どうやらギリギリ倒木の射程に入らなかったか、速度の関係で出遅れたか。一拍置いて森から飛び出してきた、格好からして悪役をやりたいんだろうなぁという感じの召喚者プレイヤー達が唖然としている。

 今の一振りでも相当なダメージが入ってしまった倒木を、元の場所にぽいっと放って。確実に重量級の、軽く地響きを伴う音を後ろに、すたすたと残った数人に近付いていく。


「人を殺していいのは、殺される覚悟のある奴だけだ。――私は確かに、私の周囲に比べれば温厚なのは違いありませんが」


 まぁ言語スキルが無いから、通じてないんだろうけどな。と思いつつ、あの狙撃手も後で仕留めに行くことを決めつつ、まだ呆然として動きの無い召喚者プレイヤーに近付いていく。

 そのまま腕を引き、こちらへ倒れてきたところで腰のあたりを掴んで――思い切り、南の方へと投げ飛ばした。

 どこまで飛んだのかなんて知らないし、考えるつもりもない。気になるとすれば、【飛行】や船といった戻れる手段無しで進める限界地点を越えたらどうなるのかって事だけだ。


「少なくとも。うちの子に手を出したり、思想的に相容れなかったり……そういう「敵」には、容赦しませんよ」


 目の前で1人「消えた」からか、パニックになって森の奥へ引き返そうとする召喚者プレイヤー達。ま、近づいていくのは普通の速度だけど、手を引いてから投げるまでは今の最高速度でやったからな。まぁ見えないだろう。

 だが。そっちがわざわざ喧嘩を売って来て、私はそれを買ったんだ。何の得にもならないが、あんな熱烈に売られてしまうとうっかり買っちゃうじゃないか。

 だから。――逃がす訳が無いだろう?

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