第606話 21枚目:みえた正体

 レイドボス「凍て喰らう無尽の雪像」が討伐されたのは、祝日であり大型連休の頭となりうる木曜日の午前中だ。4月は明日で終わりなので、割とイベント的にはギリギリだった。

 だからイベント自体の残り時間としては、丸2日を切っている。そんな状況で、少しでも状態が変わるといいなと思いつつ私はその「何らかの塊」を自分のインベントリにしまって、ポリアフ様の神殿……から、結構離れた場所にある、雪に埋まっていた村跡の1つに移動していた。

 私が送った「何らかの塊」の外見(初期)と【鑑定☆☆】結果のスクリーンショットを張り付けた、推測つきのメールを見て、カバーさんは早速動いてくれたらしい。


「同様の塊が、大陸の北半分東側沿岸にも漂着しているようですね。海上に聳える流氷山脈へも比較的近寄れる、というか、その周囲の海で動けるようにもなったようですし……その動ける範囲にも、それなりの数が漂流しているようで」


 とりあえず形だけ復興された村は、当然だがガランとして寒々しい。山火石が持ち込まれて建物が凍り付かない程度に燃やされているが、生活の気配と言うものが一切無いからだ。

 先に到着していた、『アウセラー・クローネ』との同盟枠を勝ち取ったクランの1つ、『巡礼者の集い』に所属する召喚者プレイヤーの人達と合流する。そう、「第一候補」を勧誘に掛かっていた、フリアドにおける宗教の道に進む事を選んだ召喚者プレイヤーの集団だ。

 そんな彼らと合流するって時点で大体分かるのだが、今回のこれも恐らく、神様の力を頼るしかない問題な可能性が高い。


「……私のインベントリに、移動の間だけとは言え入れておいて、それで全く変化無しとは。分かってはいましたが、経時変化ではどうにもなりませんね」


 村の中央付近にあった大きな建物、冷人族の人達からの聞き取りで、獣人族における集会所兼襲撃・天災時の避難所だったというその建物の、一番大きな部屋にたっぷりの毛皮と毛布を敷き詰めた上で「何らかの塊」を取り出す。

 薄々察していた、というか、推測が正しければ時間に任せての解決は無いと言っていい。だから比較的ダメージは薄い。覚悟はしてたからね。

 効果が発揮されなかった、という訳ではない証拠として、ぐっしょりと濡れていた表面は綺麗に乾いている。まぁ、気休めでしか無いんだけど。


「では、後はよろしくお願いします」

「承りました。大神官様と共に、微力を尽くさせて頂きます」


 私は大して感じないが、重さも結構あるのだ。この「何らかの塊」。もちろん大きさと同じく1つ1つ違うので一概には言えないが、それでも、少なくとも今は大々的に動けない以上、大容量のインベントリを持つ私が動いた方が良い。

 位置情報を確認し、他の場所で見つかった「何らかの塊」の回収に向かうついでに、もう一度カバーさんからのメールを確認する。

 そこには、まず他の場所でも「何らかの塊」が見つかった事と、それらの流れて来た大元があの流氷山脈でほぼ間違いない事、場所が場所だけに発見された事自体を一般には伏せる事、そして


「…………」


 元『本の虫』所属、水面下で動く検証班としてのネットワークで「何らかの塊」を調査した所、生物であるという確証が得られた事と。……この「何らかの塊」が、「生きたまま謎の力でこの形に圧縮されている」という事実が、ほぼ確定した事が、書かれていた。

 この短時間で、驚くしかない量と精度の情報を集めてくれたのは流石だ。そこからほぼノータイムで『巡礼者の集い』に連絡を入れて動いて貰っているのだから、相変わらず有能さが留まる事を知らない。

 ……その、生物であるという確証、ってやつが。生物としての組織、つまりは生きた細胞であり。それが、動物系のものと、植物系のものの、2パターンのどちらかだ、というものであっても。


「……来るとは思っていましたし、居るとすればあそこだとは思っていましたし、正直無事に元気で普段通りにしているなんてあり得ないとは思っていましたが、これは流石にちょっと……」


 流石に想定外だ。予想を、最悪のまだ更に下方向に裏切られた感がある。助けられる目があるって言うのは確かに歓迎するべき事なんだけど、だからって死んだ方がマシな目ってのにも限度があるだろうが!?

 あぁ情報は出てたさ。渡鯨族から獣人族の話が、冷人族から露樹族の話が、あの世界規模スタンピートの後でもこの大陸に残っていた筈の種族として、情報としては出て来てたけどな!?

 大分力を取り戻したポリアフ様達からも、この大陸に残って保護を掛けた種族はその6種族だって話が出て来てたみたいだけども!? というか、その話を元に雪に押しつぶされていた集落跡を形だけでも復興させてたんだけどね!?


「状況的な色々に納得はしましたけど。特に、最初に見たこの大陸の状態とか」

『全くだな』


 短く答えてくれるエルルも、言いながら喉から唸り声が零れている。大分怒ってるな。あの氷の大地に漂着した「何らかの塊」に対する推測を話してからずっとだけど。

 ……順当に、大詰めではあるんだ。この、北国の大陸における土着種族の行方も、これで全部分かったし。ここまで来れば、異界からの侵略者、話に出て来た特徴の内、どれがこの大陸で待ち構えているのかも分かる。


「……あの「遍く染める異界の僭王」の同族だけはありますよ、ほんと……!」


 推定、“拉”ぐ。

 動詞としての意味は。



 ――――元の形が分からない程に、大体は平たく、押し潰す・・・・事。

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