第600話 21枚目:ステータス全開

 箒に乗って運んでもらいながらそんな会話をしている間に、「凍て喰らう無尽の雪像」の頭上へと辿り着いていた。上空へ注意を引きつけていた『魔女の箒』の人達と入れ替わりで、超巨大な見た目白熊を見下ろす位置に到着だ。


「よーっし! そんじゃ、いっくぞー!!」


 見た目としては、相変わらず貧弱で弱そうなまま、頭にはまっている透明な玉が縦に2つ並ぶ形になっているだけの地味な杖を「第四候補」が箒の斜め前へと突き出した。

 瞬間、そこから、ドバッッ!!! と、鉄砲水のような勢いで濃い青色のスライムの群れが飛び出してきた。いくら耐性を付けたとはいえ、あっという間に表面を霜が覆っていくスライム達は、その内側に何か光るものを抱えている。

 あの光るものは後付けの核で、「第四候補」が耐性上昇と爆発能力を付与した後で、私が限界まで魔力を込めたものだ。なのでその爆発の威力は私準拠、という訳である。


「まぁ核が爆発するんですから、実質自爆なんですけど」


 私のそんな呟きは、一瞬超巨大な見た目白熊の頭を覆い尽くしたようにも見えたスライムの群れが、一斉に爆発した音にかき消された。分かってたけど派手にいったな。

 もちろん爆発と言ってもそれでダメージを与えるのが主目的じゃない。スライムという縛りがある中でわざわざ水属性のスライムを選んだのは、その起こる爆発が単なる爆発では無く、スライムの属性を帯びた爆発になるからだ。

 結果として発生した現象は、というと。


「うーん!! 肩のちょっと下までしか行かなかったか!!」

「あれだけいけば十分でしょう。では「空の魔女」さん、行ってきます」

「はぁい、気を付けてねー。お迎えは任せてちょうだいー」


 あれだけ巨大であるにもかかわらず、胸像というにはちょっと足りない、というぐらいの範囲が、氷像に変わるという訳だ。どうやら仕様は変わっていなかったようで、振り回される腕の動きが雑になっている。

 だが、体力バーが青くなってからこっちでは、氷に変えるだけではダメージにはならない。現に視線を向ければ視界に入る青い体力バーは、半分より少しだけ多い所から動いていない。氷に変えて、砕くなり斬るなりして削らなければダメージにはならないのだ。

 ……まぁ、だから、ここで、特級戦力わたしの出番な訳だよね?


「さてそれでは装備の試験も兼ねて、派手に行きましょうか――――[流星脚]っ!!」


 高く高く、空戦一筋の道を猛進している「空の魔女」さんの、今現在の限界高度から、乗せて貰っていた箒から飛び降りる。そのまま超巨大は見た目白熊の頭を狙って、落下距離がそのまま威力になるアビリティを発動した。



 なお、晴れて【格闘】から進化した【徒手空拳】だが、一応防具しか装備していなくてもアビリティは発動する。発動するが、その威力にはそれなりの減衰がかかる、というのが検証班によって明らかになっている。

 だからヒラニヤークシャ(魚)の時は使い捨てになる事を分かった上で装備をしてた訳だしな。で、もちろん、このアホほど体力がある上に回復力が高い「凍て喰らう無尽の雪像」を相手にするとなって、流石に壊れないとはいえ防具だけでは、私だって厳しい。

 じゃあどうするか、という事で、私が攻撃したら装備が壊れる、というのを前提条件として、それでも多少なりと継戦能力を持たせるにはどうすればいいか、と、「第四候補」とルージュが協力して作ってくれたのが、これだ。



 結果として出た結論は、「一度で壊れ切らなければいい」。その条件以外の、素材の値段や装備自体の重量といった部分は、私の場合は全部無視できる。お金はどうせ余ってるし、ステータスの暴力がそもそもの原因なのだから。

 その結果出来上がったのは……壊れたら、壊れた部分をパージする事で装備としての形を維持する、多重装甲型の手甲と脚甲だった。

 その重ねた装甲の数は実に7枚。手足でそれぞれ、7回ずつは攻撃できる筈だ。もちろん通常の戦闘としては回数が少ないにも程があるが、私は、特級戦力である。


「着地は上々、からの――[震脚]!」


 流星、の名に恥じないクレーターを、氷像となった「凍て喰らう無尽の雪像」の頭に穿って、その上から更に打撃を叩き込む。ゴッッ!! と衝撃波が走り、ガラスが砕けるような音がそこに紛れた。

 足技で2回、足が軽くなったのを感じるが、それでも壊れ切ってはいない。それはつまり、追加で攻撃を叩き込めるという事だ。


「[畳返し]! ――[掌波]! [上段蹴り]! [踵落し]! [正拳突き]!」


 攻撃を叩き込むたびに、面白いように氷が砕けていく。ステータスの暴力を全開にするのは楽しいなぁ!

 まぁそれでも削れたのは一部なんだろうけど――と思いながら、コンボを重ねていく。最後に手足の装甲を2枚ずつ残したところで、自分で穿った氷の穴の底で、ラスト一発を叩き込んだ。


「――[専心拳]!!」


 バギィッッ!!! と、かなり深く亀裂が入った所で一旦離脱。外へ飛び出すと、タイミングばっちりに飛んで来た「空の魔女」さんが拾ってくれた。


「ちぃ姫さんがまともに攻撃を入れると、こうなるのねー」

「こうなる訳ですね」


 で、インベントリに入れておいた次の装備に付け替えながら「凍て喰らう無尽の雪像」を見ると……頭が3分の1ぐらい削れていた。うーん、流石私。全力で削るとこうなるか。

 そうなるともちろん体力が半分を切った事による特殊行動が発動している訳だが、やはりあれは、体毛のように見える雪の鎖が動く場所限定……つまり、氷に変わっている部分だと、変化は起こらないようだ。

 これで遠慮なく殴れるってもんだな。体力バーも目に見えて数%は減ってるし、この調子で頑張っていこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る