第599話 21枚目:行動開始
水曜日である今日は平日なので、当然ログインと言えば夜の1回だけだ。「第四候補」からの連絡でいつもと若干時間をずらしているとは言え、休みを取っている人を含めても一番賑やかな時間と言っていいだろう。
なので早速行動だ。私は軍服・レプリカ改(なお、更に強化が入っている)に着替えてその上からルージュと「第四候補」の共同開発による装備を付ける。うん、私からしてもそこそこ重量はあるけど動きに問題は無いな。
砦の裏手に回って用意されていた雪玉をインベントリにどっさり放り込み、必要な物を装備含めて準備完了した「第四候補」と一度合流。作戦におけるそれぞれの役割を最終確認だ。
「はぁいー、ちぃ姫さん、お迎えに来たわよー。あら、やる気十分ねー?」
「よろしくお願いします、「空の魔女」さん。これで火力が足りなければ割と手詰まりですからね」
「本日はどうぞ宜しくお願い致します指揮者さん! はわわ直接見ると更にイケメン!」
「やぁやぁよろしく。今日が無事に終わったらツーショットスクショでも撮る?」
「宜しいんですかヤッター!!」
鮮やかな空色の魔女装束を着た「空の魔女」さんと一緒に、クリーム色の魔女装束の人が一緒に来ていた。多分彼女が「第四候補」を乗せてくれる人だろう。楽しそうで何よりだ。
さて空を飛ぶって事で分かる通り、「第四候補」発案の悪だくみは上空がメインであり、狙いは「凍て喰らう無尽の雪像」の頭だ。もちろん頭だけに限らず、首でも肩でも削れる限りは削るつもりだが。
出来れば上半身を削り切って腹の中に入り、捕まっている
「ログインしても動けないって言うのは相当にストレスでしょうし。一部では自動回復系スキルの訓練に良いとか言う話も出ているようですが、釣り合わないでしょう」
「その後も考えると、完全に悪手なんだよなー。つかそれあの集団の唆しじゃね? ってまであると思う!」
「細かい所まで嫌がらせを忘れませんよね」
何が困るって、それが十分あり得る事だからだよ。そして気にはなるけど、気にした所で何が出来る訳も無いし。そちらに労力を割けば割くほど本命の行動に支障が出るから、罠以外の何物でもないんだよな。
そういう地味だがじわじわ効いてくる妨害行為もあるし、やっぱり決着は早めにつけるべきだよな。って事で、「空の魔女」さんに抱えられる形で箒に相乗りさせてもらい、「凍て喰らう無尽の雪像」が超巨大化してからは雲の欠片も見当たらない上空へと移動だ。
さて、「第四候補」発案の悪だくみで、司令部にも正式に許可を取ったこの作戦だが、発案者の時点で既に大体分かる通り、ある種の物量攻めだ。私は前準備の段階においてはリソース供給係だった。
そして物量と言う割に、私がインベントリに入れている目立つものは雪玉ぐらい。つまりメインでその物量を運ぶのは、魔力こそ相当に高いだろうが筋力はそこそこな「第四候補」だ。
普通に考えれば私が運んだ方がたくさん持ち運べるのだが、もちろんその行動にも理由があり……それこそが、この悪だくみの要となる要素だったりする。
ここで話は変わるのだが、一部特殊な能力を持つ装備には、装備自体を使い込むことによる熟練度のようなものが存在する。これを上げる事で、装備の特殊能力の幅が広がったり、コストが下がったりする訳だ。
なのだが、あくまで装備は装備。大抵の場合は特殊能力の分だけ性能が物足りない為に、頑張って使い込んでもやはり性能という面では一歩劣る。だから装備と言うより、アイテムという使い方をされる事が多い。
……というのが常識だったのだが、サブクエストや種族関係で、極稀にそれ系の装備が手に入るようになり。その結果、それらの装備は十分に熟練度(仮)を上げる事で――住民や
「あっはっは! 確かに俺向きだとは思ったけど、ここまであつらえたようにとは思わなかったなー!」
「本当に、何で私に来たんでしょうね。まぁどうせ、本来ならそういう戦い方が持っていく報酬っていう想定だったんでしょうけど」
ところで、特殊な能力を持つ装備、と聞いて、何か思い出さないだろうか。そう、例えばフリアドにおける最初のレイドボス、その「最大攻撃回数1位」の特別報酬とか。
何と言うか……流石はレイドボスの特別報酬と言うべきか。あの「人造スライムの杖」は、進化する類の装備だったらしい。細かいスペックは知らないが、「第四候補」曰くは性能が一回り上昇し、諸手を上げて大歓迎な特殊能力が追加されたようだ。
で、その、追加された特殊能力、っていうのが、今回の悪だくみの要となる。むしろ、あの杖が進化して特殊能力が追加されたからこの悪だくみを発案したんじゃないかって気すらする。
「この杖で喚び出したスライム限定とはいえ!
そういう事だ。……普通に召喚すればいいのではって? 違うんだよ。
使役型、と呼ばれるスキル構成において、一番の華と言えばその物量だ。では次点はと言えば、それはもちろん「使い魔の改造」となる。ある意味、テイマーとは一線を画す特徴だ。
そしてこの場合何が問題かと言うと、移動だ。改造した状態の使い魔をどうやって運ぶか。何せ使い魔は一応分類が生物になるのか、通常のインベントリには入らないから。
「……寒さ耐性改造と特攻爆弾改造を施した水属性スライムを山ほど造り、上空から降らせて、凍る前に自爆させる、ですか。ある意味使役型のロマンですね」
「爆発の威力は「第三候補」の魔法準拠だから、派手になるぞー!」
水属性の攻撃で氷に変わった部分は、体力が半分を切った時の特殊行動でも氷になったままだというのは確認済みだ。だから一定以上の範囲を氷に変えてしまえば、まぁ、反撃は気にしなくていいって事だ。
今まではその「一定以上の範囲を氷に変える」っていうのが難しかったが、文字通りの物量でゴリ押せば問題なく行けるだろう。その凍った部分をごっそり削り取る為に、新しい装備を作って貰った上で雪玉をたくさん持ってきたんだし。
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