第597話 21枚目:火力計算

 氷属性の攻撃は普通に回復。火属性の攻撃はダメージ以上の雪が発生して実質回復。水属性の攻撃は、氷に変わってしばらくの間は有利になるが、放置し過ぎると雪に変わって回復。レイドボス「凍て喰らう無尽の雪像」と戦う際に特別な挙動をするのは、この3つの属性だ。

 逆に言えば、それ以外の属性は特に問題なくダメージとして通るという事でもある。近接攻撃の場合は、体毛のようになっている雪の鎖に触れると雪像内部に取り込まれてしまう、という罠もあるが、これは別の問題だし。

 なので、普通にある程度の距離を取って戦う分には、いつもの戦闘と大差はない。やっぱり見た目が派手なのと、大抵の生物的な相手には有効なので、火属性をメインにしている召喚者プレイヤーはそれなりに多いようだが。


「流石にここにきて火属性を使う召喚者プレイヤーが居るとは思いたくありませんね。もうギミックとして必要な巨大化は終わりましたし」

「ちなみにー、「第三候補」としてはここから更に巨大化したらどうなると思う?」

「海にすら沈まなくなったら詰むのではないでしょうか」

「なるほど! つまりこれ以上の巨大化はやらない方が良いって事だな!」

「今もだいぶ怪しいぐらいに巨大ですけどね」


 流石にそろそろログイン時間が危なくなって来たし、それは大半の召喚者プレイヤーがそうだろう。中にはクラン内で調整している召喚者プレイヤーもいるかも知れないが、少なくとも『アウセラー・クローネ』は全員が揃うように調節してスタートしている。

 それはつまり特級戦力がごっそりいなくなる、という事なのだが、その辺りは司令部が何とかしてくれるだろうと投げっぱなしだ。それに召喚者プレイヤーはログアウトしても、住民の皆は動けるし。

 エルルもサーニャも、加減は別として大規模魔法自体は問題なく使える。インベントリも大容量だし、空中でも動けるし連携できるし、上空へ「凍て喰らう無尽の雪像」の注意を引きつける事は問題なくできるだろう。


「……司令部としては、もうひたすら削るターンに入ったのだから、ペースさえ間に合うなら問題ない、という方針ですか?」

「そういう感じっぽいなー。ほら、土日だけだと参加できない人がいるじゃん? それでもあれ、水曜日ぐらいには削り切れるように、ペースの上げ方探してるっぽい」


 リアル今月は金曜日までなので、一応、2日の余裕を持つ感じになるようだ。司令部も大変だろう事は分かるので、あんまり急かす訳にはいかないし、急かしたところで出来る事と出来ない事と言うのは存在する。

 システムメールでも、逃走するのは「イベント期間内に倒されなかった場合」と書かれてあった。だから、イベント期間内は大人しく戦ってくれるというのも確定している。

 だから、イベント期間内に、体力を削り切れさえすればいいのだ。……今視線を向けた限り、青い体力バーは、ほとんど丸ごと青いままだとしても。


「とっこっろっでー、「第三候補」、ちょっといいかー?」

「何ですかそのやたらと楽しそうな声……」

「ぶっちゃけ俺、削り切れないと思うんだよな。このペースだと」


 唐突に放り込まれたド直球な意見に、ちょっと黙る。うん。私も思ってたからな。これ、削るの間に合わないんじゃないの? と。

 だって今はほぼ棒立ちで、特殊能力も基本にある1つ以外は使っていない。体力が減るか、あるいは時間経過で特殊能力が解禁されたら、それだけで間に合わないどころか全滅の危機があるだろう。

 もちろん、司令部にも切り札の1つや2つはあるだろう。私という例外ほどでは無くても、召喚者プレイヤーの一部のステータスは相当な事になっている筈だし。


「でー、いくら「第三候補」のステータスが怪獣だったとしても、今回ばかりはちょっと分が悪いとも思ってる訳だ」

「…………確かに、この大きさを直接相手にしたのは初めてですからね」

「だっろー?」


 今の所、直接戦った中で一番大きいのは……たぶん、渡鯨族の時の海鮮系異形、正式名称「集め融かす外法の肉塊」じゃないか? あれも正確な大きさは分かっていないが、流石に雲を突き抜ける程では無かったし。

 それ以上、となると、唯一当てはまりそうなのはあの巨大化したクレナイイトサンゴの見た目巨人だが、あれは直接戦った訳じゃ無いしな。うん。正面から殴る、って意味だと、この大きさは初めてだ。


「だったら、まぁ? いざという時の保険、ってやつは、いくらあっても困らないよな?」

「で、結論何を企んでいるんですか?」

「直球!」


 まぁうん。いくら大火力があって、【竜魔法】によるブーストがあっても、魔法アビリティのクールタイムはそう簡単には縮まらない。だから、ちょっと手札が足りない感はある。直接振るえる武器さえあれば、いくらでも削ってやるんだけど。

 直球! と、大げさにのけぞって見せた「第四候補」だが、実際そうダメージを受けた訳では無いのだろう。すぐに姿勢を戻し、見た目だけは満点の麗しき城主であるその顔に、にやっとした笑みを浮かべた。


「とーぜん、司令部には言えない、わ・る・だ・く・み」

「……ヒラニヤークシャ(魚)の時の事を思い出しますねぇ」

「あっはっはっはっは! 「第三候補」の何だかんだいいつつノリのいいとこ好きだよ俺は!」

「悪だくみ仲間として?」

「もち!」


 悪だくみっていうか悪戯のノリとテンションなんだが、まぁいいか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る