第592話 21枚目:ギミック推測

 冷人族の人達にとって、その冷気を操る能力を大規模に使う、というのは大分疲れる事らしい。なので召喚者プレイヤーの出番が無くなったという事は無く、今は交代でレイドボスを削っている。

 順調だ。ある意味とても順調だ。が、


「……やっっっぱり、削りダメージしか入ってない気がするんですよね」


 うーん、と悩みながら雪像の頭に水球をぶつけて氷に変える。今の所、正直有り得ないとは思いつつ「核が無い」という方向で話はまとまりつつある。だってそうとしか考えられないからね。有り得ないとは思うけど。

 どうやらあの雪玉をぶつけるのも、体毛を模した雪の鎖に当てるとロスが大きいらしい。だからまず水属性の攻撃を当てて氷に変えて、そこに雪玉を当てるという方法で安定したようだ。

 いやまぁ、削れてないとは言わない。削れてるとは思うよ? 思うけども、うん。


「で、本当に削りダメージしか入ってない場合……千日手で火力が足らず、逃がしてしまう可能性があると」


 それは避けたい。断固として避けたい。誰が逃がすか、後がより厄介になるのが分かり切ってるのに!

 ……とは言え、方法論として他に有効な手立てが思い浮かばないのも確か。本当に、どうしたらいいんだろうね?


運営大神は知っての通り、ヒントの出し方下手過ぎですから……」


 調査で出てくる情報に、これというものが混ざっている、と言うのは期待しない方が良いだろう。つまり、これ以上調べたところで、無駄とは言わないが……ってやつだ。

 じゃあどうするか。発想を変えよう。事ここに至るまで一切打開の目が見えないんだから、ここまでに一切していない、もしくはやったけどすぐに止めた行動は何だ?

 そしてその中で、運営が「この行動は避けられないだろう」と、高をくくってる感じの、普通に考えたら絶対にやってるだろう行動は、どれだ?


「…………まぁ、普通に考えるなら、あの白熊にはある程度の人数が捕まってますよね。すると当然、コピーの雪像が出て来て、それは倒す訳ですから、降雪が加速している筈で……」


 まず差っ引くのは私と言う特級火力の行動だ。雪像を一撃で丸ごと氷像に変えるっていうのは、普通に考えたら想定外だろう。

 そして、そもそも助け切れていなかった冷人族の人も何人か捕まっていた。だから、コピーの雪像が全く出てこないって言うのはきっと想定外だ。だから、コピーの雪像は出現していた、とするなら、降雪は加速しているだろう。

 で。降雪が加速するとどうなるかって言えば……まぁ、相手の回復、あるいは成長を多少呑み込んででも、雪雲を削る方向に動いていただろうな。下手に雪が積もれば、そこら中から雪像型モンスターが湧いても不思議じゃ無くなるんだ。挟み撃ちは勘弁してほしい。


「もちろん雪像型モンスターが湧けば、それは倒しますし……そうなると、更に降雪が加速していた訳で……」


 となると……運営の想定の内、全くうまくいっていないのは、見た目白熊こと「凍て喰らう無尽の雪像」の、巨大化、か?

 ……巨大化、それも恐らく、際限なく巨大になっていったら、どうなる? ただでさえ現状巨大なのに、それが更に大きくなったら、それも加速度的に巨大になっていったら?

 まず思いつくのがその厄介さの上昇だが、それ以外。難易度が上がる以外に起こる変化。なんだ。多分この辺だと思うんだけどな。かなり深いクレーターの底に居て、それでもなおかついい加減に巨大な見た目白熊が、更に大きくなったら、何が起こる?


「おーいエルルリージェ、炊き出しの方の手が足りないってさー」

「マジか。召喚者込みで結構な人数が動いてるだろ?」

「それでも足りないんだってさ。だからほら、交代と呼びに行くのでボクが来たんだし」


 と、考え込んでいると、エルルがサーニャに呼ばれて北国の大陸へと戻る事になった。炊き出しの手が足りてないのか。大変だな。

 ……って事は、やっぱり冷人族の人達にはそんなに頼らない想定だったって事だよなぁ。食料の備蓄とかを考えると。なら、やっぱりあの見た目白熊の巨大化には、さらに加速が掛かっていた筈だ。


「……という事は、やっぱり際限なく巨大になっていた筈ですよね、あの見た目白熊。で、問題は、際限なく巨大になって、それで厄介になる以外に、何が起こるかって事なんですが……」

「うん? どうしたの姫さん」

「ちょっと考え事を……そうですね、サーニャ。ちょっといいですか?」


 考えを整理するのも兼ねて口に出していると、サーニャは気になったらしい。エルルは完スルーするんだけど、その辺も性格の違いだよなぁ。

 まぁそれはそれとして、ついでだしとサーニャに意見を聞いてみる。具体的には、あの見た目白熊が際限なく巨大になったらどうなるだろう? と。

 あー。と、えー? を混ぜた様な顔で、しばらくサーニャは今も絶賛戦闘中の見た目白熊を見て考え、


「うーん。よく分からないけど、どこまでも大きくなるんだったら頭が雲に届くんじゃない? それでどうなるかは知らないけど、雲に雪玉を投げたら氷になるんだから、勝手に氷になってくれたら色々楽だよね」


 という答えを返してくれた。

 なるほど、そうか。確かに今は(妨害目的で)頭はほとんどずっと氷に変えているけど、元は雪像だ。「必凍状態」の付与こそ無いものの、雪が降る理屈を考えれば何か変化が起こるだろう。

 ……気は進まないが、恐らくそれが運営の想定する戦闘展開だ。斜め上の方向に厄介さが増す可能性もあるが、いざとなれば特級戦力わたしが責任を持って吹き飛ばすとしよう。と決めて、カバーさん経由で司令部にその推測と提案を伝えてみるのだった。

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