第581話 21枚目:問題発生

『今宜しいですか、「第一候補」』

『うむ? どうした「第三候補」』

『いえ、特にこうという訳では無いのですが……冷人族の方々は、まだ昏睡が続いているのですか?』

『目覚める様子が無いのは変わらずであるな。色々手は尽くしておるのだが、全く反応が無い』


 不安になって来たので一応そういう確認もとったのだが、返答は予想通りの物だった。まぁ、だよな。

 うーん……と考えながらも「凍て喰らう無尽の雪像」の頭ときどき胴体を氷に変えて戦闘の補助をする事、おおよそ3時間ほどが経過しただろうか。ログイン時間としては半分が経過した感じだな。

 今の所、頭上の雪雲にも足元のクレーターにも変化は無し。巨大な見た目白熊の雪像も相変わらず。変化と言えば、雪像が回復してしまうが、雪が降りしきられるよりはマシと、雪雲に雪玉が投げ込まれ始めたぐらいだろうか。


「手足を切り飛ばすと、結構なダメージになった上に、手足自体は再生に使われない、というのは収穫でしたが……これはギミックの正解というより、特級戦力のお仕事では?」


 ちなみにやったのは私ではなく、第一陣人間種族の廃人組トッププレイヤーだ。かなり派手だったよ。目に見える大技っていいよね。切り飛ばした部分は普通の雪の塊になるようなので、運搬や再利用も安心だ。

 ある意味順調で、ある意味成果の無いレイドボス戦をしながら掲示板も眺めてはいるが、レイドボス戦会場以外でも、特にこれと言って何かが見つかったり起こったりしている訳ではなさそうだ。

 もちろん司令部も、ギミックがありそうな場所や方法は片っ端から試しているのだろうが……と思ったあたりで、これは、多分、クランメンバー専用の広域チャット、だな? から、こんな声が届いた。


『緊急事態です! 混乱を避ける為、現状を維持したまま応答をお願いします!』


 えーとこの声はー……たぶんあの人、「第二候補」付き元『本の虫』の、フラップさん。確か手が空いてるって事で、主に北国の大陸の南側に何か異常が無いか、あるいはギミックの基になってそうな何かがないかを探してた筈だ。

 僅かに視線だけを動かして全体を見回すが、目立った反応は無い。うん、クランメンバー専用の広域チャットで合ってるみたいだな。しかし緊急事態、かつ混乱を避ける為と来たか。

 どう考えても嫌な予感しかしない切り出しだが、それだけ重要って事だろう。そう思いながら詠唱しつつ応答する。


『こちら「第四候補」! っていうか既にヤな予感全開だな?』

『「第三候補」です。対処しない方が怖いでしょう』

『は~い「第五候補」よ~。まぁ~、放置するって訳にはいかないわよね~』

『で、あるな。「第一候補」であるが、どうした?』


 その後にフライリーさん達やカバーさん達も続いて、少なくとも『アウセラー・クローネ』の召喚者プレイヤー組は全員揃っていることが確認できた。デスペナ中の人もいないみたいだな。


『応答確認、ありがとうございます! 現在“熱岩の火山にして黒煙”の神司る溶岩洞窟にて、推定“破滅の神々”を信仰する召喚者プレイヤーに対し防衛戦闘中です! 同様の襲撃が人魚族及び渡鯨族の街にも発生している模様! 至急調査と応援を願います!』


 ……ある意味予想通りで、ある意味予想外の知らせだ。

 あぁ思ってたよ。来るとは思ってたけど、大陸の南側だとは思ってなかったな!? どこにそんな人数が、いや今更新されたクランメンバー専用の掲示板に張り付けられたスクショを見るに雪像だらけだ、2月イベントで「氷晶の核」を山ほど交換してたか!?


『っち、絶対何処かで来ると思ったらやっぱり来ましたか!』

『わぁ「第三候補」正直ー。まぁ俺も思ったけど!』

『でも~、動いた瞬間にこちらでの動きが~、って事も、あるわよね~』

『あるであろうな。かと言って、動かなければそれはそれで向こうの思惑通りであろう』

『こちらカバー、了解しました。司令部とも調節し対応します』

『こちらパストダウン、状況了解です。防衛体制を厳にしつつ応援を派遣します』

『ひぇ。やっぱり来たっすか……』

『でもどこに隠れてたんでしょうね? 大陸中探したはずなんですけど』

『本当にね。でも、案外普通の顔してしれっと混ざってたかも知れないわよ』


 数が無ければ調達すればいい。調達先が失われたなら別の手段を探せばいい。全く本当に諦める事だけはしないというか、ある意味物凄く正しく「ゲームを楽しんで」いるよなあのゲテモノピエロは!!

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