第577話 21枚目:探索の終わり
探索については道自体が存在しないのではどうしようもない、と、冷人族の人達の身体を確保する方に人数を割く方針で、除雪作業は現状維持なのだそうだ。それでも内部時間であと3時間もあれば、探索で行きつく事が出来た最深部には辿り着けるようだが。
生産スキル持ちは大規模戦闘に備えた消耗品の生産を。予備戦力として待機している人達は除雪される雪を使って雪像を作り、自分に同行してくれている眷属の主である神か、“雪衣の神々”に捧げるとの事。なお生産作業の関係で、ルージュは一度後方に戻ってくるようだ。
生産に使う為の素材は、まだ氷の大陸に来れない新人の人達が集めて売ってくれるのをお買い上げと言う形になるらしい。うん、上手い事全体で動けてる、よな? たぶん。
『除雪作業によって本命である可能性の高い、低い音が響いてくる場所へ辿り着くまでに、冷人族の方々を全員救出する事が最高の目標となります。それでは皆様、行動をお願い致します』
“ナヴィ”さんの出してくれた映像の向こうでパストダウンさんが話を〆て、行動開始だ。
カバーさん達、というか、他のクランに行った元『本の虫』メンバーの予定では、3時間後にはこのイベントの目玉である大物、推定レイドボスとの戦端が開かれるのだろう。
どうやら素材は潤沢に用意してもらえるようだし、これは頑張って生産しないとなー。……っていうか、ちょっと待てよ。
「ルシル達も素材調達に行ってもらえば、流石にボックス様の試練の中にまであの低い音は届かないでしょうし調子が悪くならないのでは……?」
「「「!」」」
うん。どうやら行動計画の方に若干の修正が入るみたいだな。
まぁ雪像を作らないって訳にも行かないし、雪像を作ってくれるミニ雪だるま(名前がまだ決まってない)だけではちょっと同行時間の維持は無理なので、ボックス様の試練と雪像作りを適宜行ったり来たりする、って形になったようだ。
なおこの方針はどうやら
まぁそんな若干の(?)変更はありつつも、私はせっせと生産作業をして、皆は雪像作りと試練への挑戦(という名の素材調達)を繰り返して、内部時間3時間はあっという間に過ぎ去った。
「予定ならそろそろの筈ですが……」
念の為、作業を時間がかからないものに絞って連絡待ち、あるいはシステムメール待ちだ。……ヒラニヤークシャ(魚)の事を考えると、システムメールまでは届かないかも知れないが。
さて、どうなる事か……と思いながら、掲示板で冷人族の人達の救出状況を確認する。流石マンパワーが必要な案件と言うべきか、確保からの救出は上手く行っているようだ。……その方法が、クレバス内に限ればバケツリレーなのは、まぁ。(目逸らし)
そしてそろそろ未救出の人数が減って来たという事なのか、クレバスに連れていった冷人族の人(魂)と、遭遇した冷人族の人(身体)が、初対面で合致するという事例もぽつぽつ発生し出したらしい。
「……魂を見るなり身体の方がぶっ倒れるとは……」
……それはそれで冷人族の人達(の身体)の酷使具合が心配になる訳だが、そういう事例が発生した事で、あの雪で出来た鎖について、ちょっとした事が分かったらしい。
落ちた後の鎖を持ち込んでも「雪の鎖」という名称と、何らかの力で鎖の形をしている雪、という情報しか出てこなかったあの鎖。クレバス内で落ちてその場で即座に【鑑定】したら、こんな情報が出てきたようだ。
[アイテム:凍てつく縛鎖の雪像
説明:何者かによって作られた雪で出来た鎖
製法は全く分からないが、身に着けた者の魂を凍らせる効果がある
凍った魂は取り出し、雪像に埋め込んで動力とする事が可能
空の身体は鎖の作成者に従う従順な
これは使用後の物であり、もう溶かして水にするぐらいしか使い道は無い]
なお、これを発見して情報を引き出した召喚者は、衝動的にこの鎖にそこそこ大きな火球を叩き込んで蒸発させてしまったとの事。ちゃんと【鑑定】して、そのもののと【鑑定】結果のスクリーンショットを撮って、情報を統合している司令部への報告スレッドに貼り付けてからなので、ちゃんと仕事はしている。
衝動的にやってしまったと本人が言うんだから、それはもう、仕方ないな? 明らかに冷静に分かった上でやっているように見えても、人間うろたえると妙な行動するもんだし。仕方ない仕方ない。
「ははは。
いやぁ本当に、心底から全力を出してぶん殴れそうだよね……! 直接触るのがダメならダメで、氷や雪玉を使うなり、魔法を使うなり、手段はこっちで考えるさ……! 元々逃がす気は爪の先ほども無かったけど、どんなにバカみたいな体力をしてたって、絶対にイベントの終わりを待たずに削り切ってやる……!
と、かなりしっかりと決意を固め、うっかり生産道具にダメージを入れかけたりしながらも、臨戦態勢というか、最前線に駆け付けられるようにそこそこで張っていた緊張は、解いて無かったんだよね。
だからまぁ、驚きはあっても、動揺は無かったんだ。
――ォォォォォオォォオオォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
びりびり、と。
「第四候補」の作る大規模戦闘用の砦、及び「第五候補」の作る最終防衛ライン。その奥に居る筈の私の所まで、氷のブロックで出来た建物を震わせる程の、非常に低い音域に属する咆哮が、響いてきても。
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