第557話 21枚目:かの神とは

 12月イベントの時と同じく、あっという間にボックス様こと“神秘にして福音”の神の眷属、“ナヴィ”さんの事は召喚者プレイヤー中に広まった。まぁそりゃそうだろうな。

 お陰で多種多様な眷属たちに混ざり、妖精のような羽のついた半透明な板がふよふよ浮いているのがよく見られるようになった。そしてどうやら表示をお願いした各種情報は、お願いした本人にしか見えないらしく、視界がうるさくなる訳ではないようだ。

 ちなみに他の眷属や神様、住民に対する一部情報は表示を丁重に断られているとの事。自分の信仰値ぐらいならともかく、相手の性格とかアライメントとか好感度とか弱点とかは流石にね。


「というか、誰ですか最後の。あのゲテモノピエロの回し者では?」

『我々を良からぬことに利用しようとは、良い度胸をしていますね』

「(`△´#)(本当に失礼ですよ! 眷属様を何だと思ってるんですか!)」


 うん? 最後のはルージュだけど? 翻訳をお願いしたら分かるようになったから本当にありがたいよね。敬語喋りだったのか。


『物質系種族の言葉は特殊ですからね。理解する為には【魔物言語】に別の言語スキルと魔法スキルと解析スキルを組み合わせて派生させる必要があります』

「現在の私って取得圏内に居ますか?」

『解析スキルだけが不足しているので、十分狙える範囲に居ますよ』


 そして相変わらずぽこぽこと情報をくれるナヴィティリアさん。最高か? 最高だったわ。しかし解析スキルか。カバーさんが使ってる中にあるかな。聞いてみた後で頑張って探そう。

 そんな感じで、最初の混乱からの遅れを取り戻そうとイベントもとい除雪に邁進する熟練者組、雪像をせっせと作っては来てくれた眷属にお願いをしてスキルレベルを上げる初心者組、最初の大陸に戻って各種検証に精を出している検証組にざっくり分かれる事になった召喚者プレイヤー達。

 いや、氷の大地を放り出してる訳じゃないよ? 今もあっちで活動している召喚者プレイヤーはいる筈だけど、それ以上に、先に除雪しておかないと大変になるのが分かったからこっちを優先してる訳でね?


「ちゃんと除雪の大半が完了して、少々モンスターを倒したところで雪に埋まらないようになったら氷の大地に向かいますよ? えぇ」

「( ・◇・)?(でもモンスターを倒すと雪が降るんですよね? いつまで経っても除雪は終わらないんじゃないですか?)」

「氷の大地に向かえるだけの地力がまだついていない召喚者プレイヤーも多いですからね。彼らでも何とかなる程度という話です。結構な数を倒す必要があるみたいですから」

『地面が見えるところまで除雪してしまえば、降雪量も相当に少なくなりますからね。一度しっかり除雪しておくと後が楽になるのは間違いありませんよ』

「それに、北国の大陸で雪像型モンスターを倒しても雪が降るのは普通に想定外でしたし……」

『“雪衣の神々”は、その力を召喚者の保護へ振り向けていますからね。雪雲を防ぐだけの余力はまだ無いのでしょう。質の良い捧げものが大量にあったりすれば話は別かも知れませんが』


 おっとー? ナヴィティリアさんそれはポリアフ様達にたくさん捧げものしたら、降雪量の増え方自体が少なくなるとかそういう意味ですかー?

 本当に重要な情報を何でもないようにさらっとくれるんだから、このちゃっかり微腹黒なお姉さん風眷属さんは! テヘペロ☆の顔文字がこれほど似合う人は他に見た事が無いよ!




『「第三候補」。少々良いか』

『はい、大丈夫ですが何でしょうか、「第一候補」』


 ナヴィティリアさんがぽこぽこくれる情報を、カバーさん経由で全体に共有し、せっせと除雪からの雪像作成を進めていると、そんなウィスパーが届いた。珍しいな、微妙にもにょってる感じの声とは。

 うーむ……という感じでちょっと唸っていた「第一候補」だが、さほど間を置くことなく言葉を続けてくれた。


『かの、“神秘にして福音”の神についてなのであるが』

『はい』

『「第三候補」は、かの神について、相当に詳しいであるな?』

『まぁ詳しいでしょうね。以前の、ボックス様が司る世界からの付き合いですから。フリアドを加えると、かれこれリアル6年近いでしょうか』

『なるほど、それだけの期間をこれだけの熱量で信仰していたのであるか』

『何につけても最高ですからね。信仰しない理由がありません』

『筋金入りであるなー』


 ボックス様についてはガチ勢なので……ただし課金は除く。あれはやる気とか好き嫌いの外の問題だ。私のリアル立場的にはどうにもならない。

 けどまだ本題じゃないよな。と、せっせと雪像を作る手は止めずに続きを待っていると。


『……信徒に対して、全力で報いる姿勢。そしてあの、防ぐ戦いに関する非常な慣れ。「第三候補」よ。我は1つ、本来なら不敬となるかも知れぬが、確認しておきたいのだ』

『なるほど。それで私ですか。まぁ大体なら答えられると思いますが。今はナヴィティリアさんもいらっしゃいますから、確認もすぐにとれますし』

『うむ。そういう事である』


 どうやらそういう事だったらしい。なるほど? フリアドの召喚者プレイヤーを全員よく調べれば他にもコトニワからの移行組はいるだろうが、確実にそうだと分かっているのは私ぐらいだもんな。

 しかしボックス様についてか。……コトニワのバックストーリーでも語ればいいんだろうか? それとも世界観かな。あるいは「庭」の成り立ちことコトニワの設定とか?


『我は、かの神を、創造の権能を持つ神だと思っておったのだ。だが、どうにも違うらしい、と最近思うようになってな……。「第三候補」。かの神は、一体「何の」神なのであるか?』


 ……どうやら、それ以前の話だったようだ。いや、まぁ、分からなくはない。というか分かる。バックストーリーというか世界観のせいとは言え、ボックス様の権能ってちょっと万能すぎるもんな。

 しかしその辺詳しく語り過ぎると滅茶苦茶に時間がかかる。イベントで出てきた設定とかも結構あるから、割と量があるんだ。もちろん私は把握してるし、ルールに聞いたり、その資料関係を集めた「庭」の倉庫区画を出したりすればいくらでも細かい事は分かるんだけど。

 でもたぶん、今「第一候補」が求めてるのはそういう事じゃない。“雪衣の神々”にどう対応したらいいのかと相談されたり、或いはどういう風に祀ればいいのかという距離感を測りかねているのだろう。と、言う事は……。


『そうですね。一言で言うと……「本来の神格は守護神」です』


 たぶん、これでいいんじゃないかな。

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