第542話 20枚目:引っ掛かる発見

 冷人族の記録媒体を解析する難易度が高かったので、一通りの必要な情報を確認した時点でイベントは既に折り返しを過ぎていた。そこから念の為早めに準備をしておいた方が良いか、という事で生産作業に入っていたので、現在イベントは10日目だ。

 そして「第四候補」は水場を囲むようにして砦を作っていた。だから案の定と言うべきか、その下からも集落跡が発見されて、現在は元冷人族の町だったらしいその場所を再利用する事で過ごしている。

 全体の進捗としては、やはり大陸西側の探索は非常に順調で、東側の探索がやや難航しているという感じだ。そしてそれとは別に、標高が高い部分での除雪及び探索が進んでいないらしい。


「まぁ高さがあるって事は、ただでさえ寒い気温がさらに下がるって事ですからね。気圧の働き方によっては、もうちょっと楽になっているかもしれませんが」


 沸点が下がるって事はつまり、溶けやすくなるって事だからね。すなわち地上より簡単に雪が溶かせるって事でもあって、要は除雪の難易度が低いのだ。実際はどうなのか知らないけど。

 あと、現在探索が進められている標高の高い山というのは、大陸南側の北寄りの山脈の事である。つまり、本来なら活火山だった筈の山だ。そんな場所に集落が、あるか? と言われると、まぁ無いよな。地図にもそれっぽいものは載ってなかったし。

 だから余計に探索が進んでないって言うのもある。どちらかというと、マッパーがマップ埋めたい病に従って探索してる感じだろうか。


「…………出来れば、あまり刺激を加えないで欲しいんですけど」


 そこに居る、現在は眠りに就いている神格を思えば、そっとしておいた方が良い気もするのだが、そこはもう仕方がない。本来の出番が来るまで、大人しくしておいてくれることを祈ろう。

 等と考えながら、基本生産作業、時々冷人族の記録媒体の解析、と、そこそこ忙しくしていると、ウィスパー……ではなく、クランメンバー専用の広域チャットで、こんな声が届いた。


『えーっと、緊急案件……だよな? たぶん? 緊急案件、だと思う。緊急案件なんじゃないかな! うん! 各自応答ヨロ!』


 ……なんのこっちゃ。と思いながら、立体パズルに苦戦していた手を止めて、屋内に移動する。流石に話をしながらできる作業じゃ無いし、妙に曖昧な言い方だが、緊急案件と言うならそっちに集中した方が良いだろう。


『随分と微妙な言い方ですが、緊急案件とは?』

『何だか随分と煮え切らないというか~、含みのある表現ね~。どうしたの~?』

『ふむ。急は要さぬが重要度は高い、それもあまり歓迎できぬ方向で、という感じであるか?』

『そう! そんな感じ! ちょっと俺時間やばいから手短になるけど!』


 どうやらタイミング良く「魔王候補」は全員揃っていたようだ(未合流の「第二候補」は除く)。「第一候補」の推測に全力で乗っかった「第四候補」は、宣言通りそのまま手短に説明を始めた。


『俺って主に南東の辺りを探索してたんだけどさー、海岸線に沿って北に上がってみた訳なんだよな。なんかその辺探索進んでない的な話だったし? そんで進んだところで、変な洞窟を見つけたんだよ。位置は掲示板にはっつけといたから各自確認してくれな!』


 その言葉にクランメンバー専用掲示板を開いて見ると、確かに位置情報が張り付けてある。……大陸の南半分の、東側の海岸線を、半分よりは北に上がった辺り、だろうか。

 竜都の隠し部屋にあった地図では、この辺りは特に何もなかった筈だ。それにしても「変な洞窟」と来たか。海岸線っていうのはいつかのスタンピートもどき騒ぎを思い出すが……いや、あれも海岸線とは言え、氷の上だったしな。


『んっで、なんかすっげー嫌な感じがするっつか、引き取った雪の子達がめっちゃ敵意むき出しにするっつか、周りに湧くモンスターの挙動がおかしいっつか、とにかく何かヤバそうだから一応フッダーに協力してもらって周辺封鎖中。だから「第一候補」か「第三候補」、後は頼んだって訳で緊急連絡!』

『ふむ。海岸線にある洞窟で、それは確かに妙な点が多いであるな。承知した。可能な限り早く探索に向かうとしよう。良いか、「第三候補」』

『……何というか引っ掛かるというか思い出すというか、嫌な予感はしますが、それなら確かに私も合わせて動いた方がよさそうですね。幸い、最低限必要な探索は終えた後ですし』

『あら~。「第三候補」がそういう時は、たいていとびっきりの厄介事なんじゃないかしら~。気を付けてね~』


 うーん。

 ……たまにはこの嫌な予感、外れてくれないものかなぁ。

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