第516話 18枚目:幕は下りる

 元々、本来ならこの亜空間全体を使って受け止めるべき空間の歪みが一点に注がれている状態でも、討伐する目は見えていた。ティフォン様の神器っていうトンデモ武装ありきとは言え、それでも巨人型ナマモノは順調に削れていたのだから。

 それが、空間の歪みが注がれる動きが、小細工が無くなれば。それは本来、特級火力やトンデモ武装に頼らずともクリア出来る、つまりは、倒せる程度の弱さになる。

 そもそも私の感想は面倒と殴りがいがあるの二択だったし、聞き流していた広域チャットでも、もはやスキルレベルを上げる為のサンドバック扱いだったところに、そんな弱体化が入れば、どうなるか。


『こ、の――この、低能種族が……! 折角、救ってやるって言っているのに! このおれが! わざわざ! 助けを求める声を聞いて! それに応じて! 来てやったって言うのに――!?』


 それは、当然。順当に、当たり前に、削り切られる。

 最終的には胴体の中心部分しか残らなかった巨人型ナマモノは、そこからまた巨人の形を取り戻したのだが……小さくなれば、威力も当然だが、何より射程が無くなる。

 最終的には前衛がビームを引きつけて誘導し、向こうの射程外にいる後衛の魔法でボコボコにされていた。見事なワンサイドゲームだったよ。これなら取り巻きの雑魚が居ても問題無かったな、と思う程度には。

 まぁしかし、生き汚いというか、往生際が悪いというか、ここまでなってもまだ自分の勝利を心の底から信じている染王は、私が最深部に到着して焼き払った時と同じように、私の視力なら底が見える程に浅くなった大穴へと逃れ、


「――[喰らい滅ぼせ。フランムフレッセンアルフ]!!」


 タイミングを計ってその高高度で待機していた私が、せめてもの情けでフルバフ状態かつ大きなダイヤモンドを食べて過去最高に火力を上げた炎の柱を叩き込み、大穴と身に纏っていた生物的な何かごと、焼き尽くした。

 いやぁ、だって、あそこまで自信満々なら情けない悲鳴なんて聞かれたくないだろうし? 自分を信じているなら、信じたまま一瞬で痛みも何もなく消し飛んだ方がまだ幸せだろうし? 情けだよ。決して黒曜石を大量に手に入れる最後のチャンスだから気合入れたとかじゃなくて。

 ……過剰火力過ぎて、退避していた筈の召喚者プレイヤー達が巻き込まれそうになった? 火の粉に当たっただけで重度の火傷を負った重傷者多数? いや、それは……うん。ごめん。


[件名:イベントメール

本文:レイドボス「遍く染める異界の僭王」が討伐されました

   イベント空間内でレイドボスが討伐された為、イベント空間中央が「大神の領域」に変化します

   イベント期間内にレイドボスが討伐された為、イベント空間内全域に特殊なアイテムが出現します]


『イベントの特殊条件が達成されました。

 イベント空間内に特殊なダンジョンが出現します。

 イベント空間内に特殊な施設が出現します。

 イベント空間内に特殊な領域が出現します』


 そしていつかと同じ、討伐成功メールが届き……直後に勝手にイベントページが開いて、そんなお知らせが表示された。うん? 何だ特殊条件って。

 瀕死状態になったので即行エルルに回収してもらい、ポーションを立て続けに飲んで瀕死を脱する。うん。目的を達成したからか、神器もすっかり大人しくなってるな。

 とはいえ残りのログイン時間でティフォン様の領域まで戻って、謁見して、神器を返すっていうのはちょっと厳しいか。と思っている間に、中心壁はそのまま、その内部がただの草原から、水晶のように透き通った花弁を持つ花で覆われたものに変化した。


「お、これが大神の領域の姿ですか」

『とりあえず、アレクサーニャと合流するぞ』


 エルルが地上に向かってくれている間に【王権領域】をOFFにする。流石にもう必要は無いだろう。召喚者プレイヤーの人達も、花畑の中で早速BBQ形式の戦勝祝いを始めているし。

 そちらに参加したいのは山々だが、この透明な花も気になる。……という事で、さっそく一輪、根元から掘り返してみた。形は菊みたいだな。シロツメクササイズで透明だけど。土ごと根っこを布に包んで、さて【鑑定☆☆】と。


[アイテム:マナの花(無垢)

説明:世界に満ちる力であるマナを宿した花

   花弁の数が多い程、また色が純粋である程宿したマナが多い

   花弁の色は宿したマナの属性によって変化する

   多くは元素の属性であり、次いで亜種属性が多い

   希少属性のマナを宿した物は貴重

   無垢のマナを宿した物は一部特殊な環境下でしか育たず、大変貴重

   また育成する事で種を得られるのは無垢の物のみ]


 決めた。残り時間はこれの回収に使おう。

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