第515話 18枚目:最後の役者
「別に壊すのは苦でも何でもありませんが、余波がうざいのとキリがない事にうんざりはしますね」
『そんな事が言えるのはお嬢が神器を授かってるからだからな』
「貸して貰ってるだけですから、問題が解決すればちゃんとお返ししますよ?」
火力は私だけで十分なので、エルルはドラゴン姿で私を守ってくれる役だ。流石に火力は抑え気味で大丈夫とは言え、反動はまだキツい。その上塔を壊すと染王がこっちに攻撃してこようとするんだよね。まぁするだろうけど。
なので、サーニャは
「まぁ順調と言えば順調なんですが、3つ壊してる間に1つ増えるって、やっぱり増える速度がおかしいですよねこれ」
『おかしいだろうな。お嬢の火力だから大丈夫だとは思うが、穴の中にモンスターが落ちてるから、邪魔されてないとは限らないし』
面倒というべきか、殴りがいがあるというべきか。既にカバーさんから、残りログイン時間が30分をきったら染王本体を焼いていい、という許可は出ている。だから、どちらかというと今は殴りがいがあるに傾いているか。
なお、結局未だに話をややこしくした黒幕は見つかっていない。いいから出てこい。そして殴らせろ。私だって普通にイベント楽しみたいんだ。
確かにこの小細工が無かった場合染王の力はお話にならないほど弱かっただろうが、それならそれでティフォン様の領域で訓練したり、神定まらぬ領域を攻略したり、色々やりたい事は山積みになっている。
『しつこい! しつこいしつこいしつこいこの狂人共が!? お前らが何をやったって無駄なんだよ!
サイズ差があるものの袋叩きにされ、「穴」を守るための塔は出現する片端から壊され、リソースの保存方法の1つであるモンスターの群れは「第二候補」に薙ぎ払われ、流石に苛立った声を上げる染王。
その低能種族に手も足も出ずにボコボコにされているというのに、未だに負ける気が欠片も無いのには一周回って感心する。理解したいとも思わないし出来るとも思えないが、その絶対の自信は一体どこから湧いてくるんだろうな?
と思っている間に、新たに塔が生えて来た。もちろんすぐに焼くべく、瞬時に出て来た祝詞のウィンドウに目を向けて、口を開きながら神器を構え、
『せめて大人しく!
そんな、初めてとなる明確に苦しむ声と共に、出現した塔が何をするまでもなく、ボロボロと勝手に崩れてしまった。とうとうリソース切れか、それともリソースを運用する負荷が限界を超えたか?
流石にここまで明確な変化は
『うっふフふフふ。皆様、お久しぶりでス』
――鼻にかかったような。
エコーとノイズで装飾された、愉しい、と、聞くだけで分かる、声が、響いた。
『実に見事な奮戦、奮闘。特等席で見させて頂きまシた。素晴らしい働きと頑張りでスね。――その顔が、最後の最後で仲間の血と絶望に沈んでくれれば最高だったのでスが』
相変わらず、一切共感できない事を言っている、その声の源を探す。前も近く、騒動の源と言っていい場所に居た。今回も恐らくそうだろう。
だがそれを見つけるよりも早く、棒立ち状態になっていた巨人型ナマモノに変化があった。末端から、ボロボロと。さきほどの塔のように、何かの限界を超えたかのごとく、文字通りに崩れ始めたのだ。
『ぐ……っ! こ、の……低能、種族が……!!
その染王の言葉には、やっぱりか、という納得しかない。……クレナイイトサンゴは、モンスターだ。そして
つまり。……あんな、町を3つも飲み込むほどの数を、
吠える染王に、愉しいと嗤う調子を隠さないまま、鼻にかかる、エコーとノイズで装飾された声は、
『我らが神よりの託宣により、あなたへ注いでいた空間の歪みを遮断しまシた』
あっさり、と。裏切りを告げた。
『っな、なぁっ!? どういう事だ、話が違う!!
『我らが信じるのは我らが神のみでスよ。その神が「あなたを切れ」と告げただけの話でス。我らが神の寵愛が失われた事へは、まぁ若干の哀れみを感じなくもありまセんが』
『ふざけるな!! 神なんておめでたい幻覚の指示に従ってこの
『ふ、うっふフふ、ふフふフふフふ! そもそも、始めからの前提が食い違っている事にすら気付いていなかったとは、滑稽でスねぇ!』
ボロ、と巨人型ナマモノの肘から先が落ちた。胴体からも剥がれ落ちるパーツが出始めている。それは分かっているだろうに、だからこそ染王が苛立っているのも分かった上で、嗤いを隠そうともせず、声は続ける。
『我らは“破滅の神々”に魅入られ、かの神々を信仰する者。その最終目的は世界の滅び。一切の生物を残さない終焉。未来の可能性の一切を摘み取る事。――
『はぁっ!?』
『えぇ、えぇ。分かっておりまスとも。あなたの行動も、その目的も、「最終的には」世界の滅びである事は。でスが……そこまでがあまりにも
巨人型ナマモノが崩れていくのを前にして、嗤う声と、染王の怒鳴り声が響く。
「っち、いいとこどりしやがってあのゲテモノピエロ」
『お嬢、口調。……しかしどこから喋ってるんだ?』
「この周囲はあいつらのホームグラウンドですからね。やっぱりあっちを先に更地にしておくべきでしたか」
『流石に出る影響も領域自体もデカすぎるからやってる暇なかっただろ……』
ログイン時間の残りを確認すると、ちょうど1時間だ。ここからラストスパートをかけるのには実に丁度いい時間だろう。恐らくというか間違いなく狙っただろう。
……だが、これであのゲテモノピエロ達がモンスターを大規模に使役するという事も出来なくなる筈だ。つまり、少なくともこれまでのような、イベント自体をぶっ壊しかねない程規模の大きな妨害は出来ない、という事になる。
もちろん警戒は必要だ。必要だが……。
「……悪役としてであっても、その自覚に誇りを持ち、その芯を一切ブレさせないのは、敵ながらあっぱれ、と言うしか無いんですよね……全くこれっぽっちも相容れないので、褒めるのは大変業腹なんですけど」
モンスターの大規模支配。……その手札を自ら捨てたのは、そうしなければ自分達が詰んでいたという理由があっても、潔い、と、言えるだろう。
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