第514話 18枚目:火力集約

『あぁあああああああもぉおおおおおおおおおっ!! このっ! 狂人共がぁっ!? いい加減にしろぉおおおおおおおおおっっ!!』


 大穴を飛んで戻っていく途中で、上から差し込む光の形が変わったので、上を塞がれてる可能性があるって事で横穴から脱出する事になった。地面は盛り上がり続けてるから大丈夫だとは思ったが、まぁ一応ね。

 で、横穴から地上に戻ったって事はつまり、中心壁の側と言う端っこに出る訳だ。そしてそこからは、染王の声で叫んでいる巨人型ナマモノが良く見えた。

 あの大穴はどうやら相当に直径も小さくなったらしく、巨人型ナマモノは完全に外に出ていた。だが「穴」を塞ぐのに力を割いているからか、上を塞いで高さを制限していた壁が無くなっているらしい。大穴から姿を覗かせていたその大きさが、そのまま地上に立ち上がっている。


「うーんこの。何となく予想はしてましたが、中に乗り込みますかー」

「予想はしてたのか……」

「まぁ儂らの世界だとありふれたパターンじゃの」

「あんなでかいのが普通に居るの!?」

「創作物、まぁ娯楽の一種ですね。そのテーマとしてはよくありますよ」


 なおそっちはちゃんと金属か、それに似た不思議物質なのは言うまでもない。何で素材がナマモノ的な何かになるだけでこんなにグロく感じるんだろうね? そのまま使うものじゃないのをそのまま使ってるからかな。

 大きさ比が大変な事になっているが、まぁ、ちゃんと「準備完了」の合図は聞いてから大穴の底を燃やしたんだし、ここはスキルも魔法も種族特性も神の加護も存在する世界だ。

 そして召喚者プレイヤー……特に英雄願望を持ってフリアドに来たゲーマーたちにとって、こんな文字通りのジャイアントキリングのチャンスは、気分が上がる材料にしかならない。


「そもそもクレナイイトサンゴの源って事で、全員凄まじく殺る気に満ちていましたからね」

「なるほど。既にその念だけで殺されかねん程の恨みは稼いでおったんじゃな」

「あの嵐の時は酷かったからな……」

「え、あの徒人族の町の事じゃないの?」


 どっちかっていうと嵐の時じゃないかな。3つの町の時は話を確認した人限定だったし、クレナイイトサンゴが猛威を振るった後しか一般召喚者プレイヤー達は知らない筈だし。

 まぁそんな訳なので、彼我のサイズ差がどうした、むしろそんなデカい図体でこんな小さい的に当てられるもんなら当てて見ろ! とばかりガンガン攻めかかっている状態だ。流石に多少の間隔は開くが、巨人型ナマモノにもまともにダメージが通る規模の魔法も次々と叩き込まれている。

 例によってダメージを受け、本体から分離した分は取り巻きこと雑魚モンスターになるようだが、片っ端から処理されているし、出現位置によっては大技の余波に巻き込まれて吹き飛んでいる。


「何と言うか、絵に描いたような袋叩きじゃのう」

「自業自得です」

「そんなすげー満足そうな顔で言わなくてもいいんじゃないかお嬢……」


 どうやら全体的に人数が増えているし、中には第三陣らしい人も混ざっているが、その殺る気の高さに大した差は無い。直接被害を受けてないのに全力も全力って事は……さっきの動画を流したかいがあったって事だな。頑張って話を聞きだして良かった。

 まぁあの考え方聞いたら普通は全力で敵対するよなー。と思っていると、ふと何か鈍い音が背後から聞こえた。何だ? と振り返ってみると、横穴の入り口から、横穴の周りをコーティングしていた黒曜石が吐き出されている。

 ごっそり、とそれなりの山になった所で、横穴自体が閉じてしまった。どうやら無事「穴」を埋める方も進んでいるようだ。


「とりあえずこの黒曜石は回収してと」

「マイペースじゃのー」

「神様の炎で出来たものですから、【鑑定☆☆】はしてませんが絶対に良い物ですしね」


 ちなみに回収はするが使い道は特に考えていない。……分類としては一応宝石になった筈なので、エルルにあげてエルルの刀に使えばいいかな。最終的に折って打ち直す本数考えたら、どうせこれぐらいは消費するだろうし。

 んー、そう考えるともうちょっと欲しくなってくる不思議。だが流石に今から地面に穴を開けるのは迷惑になってしまう。何せ元凶である染王は、今の所見た目には召喚者プレイヤー集団の相手で手一杯だからね。

 奪われているリソースこと空間の歪み、その流れを取り戻した、という話は聞いていないから、現在も変わらず莫大なリソースが流れ込んでいる筈なのだが……。


『狂人が、低能種族の狂人程度が!! この、おれに! こうも! 楯突いてんじゃ! ねぇええええええええええええ!!』


 体力バーはスキルが通らなかったからか表示されていないが、巨人型ナマモノに乗っている染王はそう叫び、巨人型ナマモノの右足を振り上げ、地面を割るように強く踏みつけをした。

 もちろん召喚者プレイヤー集団は即座に退避、一部箒に乗った人に拾って貰って地面から離れ、行動不能にならないようにしている。あぁ、あの腕の振り下ろしで対処方法は確立させていたんだな。

 が、その動きに応じて変化したのは、大穴の縁だった。ゴゴゴゴゴン! と続けざまに、大穴の縁に沿って、大穴を塞いでしまうように、若干内側へと角度をつけた塔が生えて来たのだ。


「やっぱり潤沢なリソースがあるっていうのは厄介ですね」

「そして流石に雑魚が溢れると処理が間に合っておらんのう」

「で、余った雑魚は当然、修復に使われると」

「塔をどうにかせねば、最悪、せっかく埋められておったのがまた掘り直されるまでありそうじゃの」

「というか、今塞がれてるだけでも埋めるのが邪魔されてると思いますよ」

「……なるほどの? 「復活」ではなく「復帰」なのが引っ掛かっておったが、悉く戦っているのがいくらでも替えの利く僕じゃ。治療するのではなく、作り直すから「復帰」じゃったのかの?」

「あー、そういう事ですか……」


 流石にレイドボスが開始するお知らせは届いていたらしい。そして「第二候補」もその部分には違和感を覚えていたようだ。なるほどね? 確かにそれならしっくりくる。

 でまぁ、対処が間に合わない、戦線が崩壊気味だって状況で、ここには浮いている特級戦力が居る訳でさ。


「はい。予想通りですね。エルル、サーニャ、お仕事ですよ」

「ふむ、儂にも来たのう。……なんじゃ、単なる雑魚の相手か」

「こちらも、塔だけを狙ってアレ自体の相手はしないでくれ、との事です。特級戦力の定めですよ」

「仕方ないのう。その分手に負えない相手が出たら、優先的に任せて貰えるという事じゃろうし」


 ……理由が戦闘狂なのは、もう今更か。

 私もついでに地面を焼いて、もうちょっと黒曜石を回収しようと思ってる訳だし。

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