第488話 18枚目:決戦初撃

 巨大な扉の向こうから聞こえて来た音は、聞きなれたものだと戦闘に関する内容の大声と、アビリティの発動音、武器がぶつかり合ったり振るわれたりする音だ。相当な大人数がいるようで、扉から見えていた緑の光では光量が不足だったのか、はっきりと強い白い光が見える。

 対して聞きなれない音は、唸り声の様な重低音と、それこそ巨人が暴れているような、地響きを伴う重い音だ。恐らく元凶……だと思うんだけど、これ、音だけで判断するならかなり相当大きいんじゃないか……?


「クカカ、いつかの百足もどきと良い勝負かも知れんのう」

「ですよねぇ。まぁ大人数でかかるのであれば、小さいとやり辛いのは確かですけど」


 緑の光の光源は、と探すと、嫌な事に気付いて思わず顔をしかめた。そのままの流れで床に視線を向けるが、床はどうやら、黒曜石の様な黒く透明感のある固い素材のようだ。


「む、どうしたのじゃ「第三候補」」

「実に趣味が悪いと再確認しただけですよ。壁と天井を見て下さい」

「……あー、これは確かにのう……」


 壁と天井を構成しているのかあるいは覆っているのか、びっしりとなにか、生物的な細長い物で覆われていた。天井はさっきの大部屋の更に倍以上あるが、そちらも私の視力だと問題なく見れる。

 で、その生物的な「何か」の、目なのかあるいは何らかの器官なのか、宝石が嵌ったようになっている部分が緑の光の源だ。目ならまだいいが、毒袋や、まして胃袋とかだったら最悪だろう。

 大きさとしては私の両手にちょっと余るくらいのようなので、少なくとも人間が入っている事は考えなくていいのだが。


「まぁ、この部屋の主の趣味があれではのー……」

「……うーわ」


 そんな「第二候補」の声に、戦闘音の源へと視線を向けて……思わずほぼ素の声が出た。どうやら後ろに居る護衛()の人達も気づいたらしく、それぞれ呻き声のようなものを零している。



 今、恐らく中心壁内部からここまでやって来ただろう召喚者プレイヤー達が相手にしているのは、分類としては巨人、になるのだろう。

 ただ、うん。私達の反応から分かるように、その見た目がこう、ナマモノ的な意味でグロいというか、無機物を生物で無理に再現した感じというか、まぁある種の「戦いたくない」見た目をしててだな。

 ……人が乗り込んで戦うロボット、あるじゃん? 戦隊モノでも戦争モノでもいいけど。それを、生物素材で組み上げて……しかもへたくそだから、いろんなものが、戦ってる間にボロボロ落ちては急速再生してる。そんな感じなのだ。



 しかもどうやらその落ちたパーツっぽいものは、取り巻きのモンスターに変わるらしい。処理に動いている一団があるから間違いないだろう。で、当然あれも寄生や洗脳の能力持ち、と。

 あ、ルドル見っけ。流石、最前線で巨人型ナマモノからの直撃以外は全部捌いてる。火力こそ他の子より低いけど、居ると居ないとじゃ安定度が違うのだ。メインタンクさんお世話になってます。

 うーんしかしこれは、どうやって合流するかな。どうもこっち、裏口っぽい扱いみたいで全然誰も気づいてくれないんだけど。


「ところで良いかの「第三候補」」

「何ですか、妙に楽しそうな「第二候補」」

「ほれここに、儂が作ったはいいが使い道を見失った大剣があるじゃろ?」

「確かに「第二候補」のスタイルではないでしょうけど、角材と喧嘩できるサイズですね」

「そしてじゃな。儂は発動時の速度に威力と攻撃範囲が比例するアビリティを持っておるのじゃよ」

「敢えて言いましょう。正気か?」

「クカカカカ! 勿論じゃ!」


 エルルが背負ってる剣を一回り小さくしたような、鉄にしては重く感じる剣を受け取り、というか押し付けられ、ニッコニコの笑顔で言われれば嫌でも察する。思わずツッコめば、全力の笑顔が返って来た。


「じゃが、斬って殴れば大ダメージじゃと思わんか?」

「思いますが思い切りましたねこの戦闘狂。しかもちゃっかり私が追撃する事になってますし」


 いや、追撃が嫌とかじゃなくてだな? 何でそうノリノリで、文字通りの横殴りを提案するかなっていうな?

 確かに、私と「第二候補」っていう、現状フリアド召喚者プレイヤーにおいては最高の火力を、こんな見事な不意打ちで叩き込める状況って言うのはチャンスだろうけどさ。


「折角なのじゃから、火力と戦闘力について「また」みせてやろうではないか」

「…………後方への伝言を彼らに託すのでしたら」

「勿論じゃ。味方があまりに混乱しては不意打ちの価値も半減するからの」


 最終的に、護衛()の人達に、あの集団の後方にあるであろう司令部へ行って貰う、というところで説得させられた。それは卑怯だろ。以前のレイド戦の事を持ち出すとか。

 あの時も確かに、メイン火力を張っていたのは私と「第二候補」だ。他の召喚者プレイヤーも装備を整え、レベルを上げて、現在では見る限り立派に火力として戦えている、が……。本音を言えば、それはそれ、これはこれだ。

 スキルを入れ替えながら自分自身にありったけのバフをかけて、次に「第二候補」と相互にバフを掛け合う。最後にインベントリから、丸く加工された直径3センチぐらいのブラッドストーン血石を取り出して、一口で飲み込んだ。何かこれ、丸薬っぽいんだよね。


「タイミングをミスって壁の染みになっても知りませんからね」

「そちらこそ、出遅れてうっかりと繋ぎ治されぬようにのう?」


 は、とお互いにそんな凡ミスする訳無いと分かった上で憎まれ口をたたき合い、私は神器を、頭を自分の後ろに向けた状態で左側の床に置いた。そして「第二候補」から渡された大剣を手に取る。

 1回振るだけなら大丈夫だ。たぶん。耐久度も見た目相応にあるようだし、少なくともこの1回は大丈夫だろう。

 今の私でもそれなりに重量を感じる大剣を、その腹を横にして、思い切り身体を右側に捻って下段に構える。私の右斜め前に移動した「第二候補」は私に背を向けて、仕込み刀の鯉口を切った。


「行きますよっ!」

「クカカ、来い!」


 声と同時に、「第二候補」が小さくその場でジャンプした。同時にぐんっと身体を丸めるようにして構え、足裏がこちらを向く。



 私はその足裏を狙い。

 思い切り、全力で――大剣を振り抜いた。



 そして結果を見る前に大剣を放り捨てて神器を掴む。キンッ、と高く小さい音が聞こえたから、もうアビリティの発動自体は終わっている。一瞬もずらしてたまるか、と、渾身の力で床を蹴って、本来の床も、空気の足場も等しくヒビを入れながら空中を駆けあがり、


「――[閃斬]」


 静かなのに響く、という不思議な声と共に、巨人型ナマモノから悲鳴が響いた時には、思い切り左側へ神器を振りかぶり、その胸に相当する位置へ肉薄していた。

 当然、バシュッ!! とばかり、身長が半分になる位置で、全方向ぐるりに血のような液体を吹きだした時点では、もう振り抜く為に十分な力が入っていて。


「焼き尽くせ、汝我が祖の炎たるなら! ――[ヘヴィインパクト]!!」


 ゴッ、と。円錐形の方を先にして、威力もあるが、それ以上に強いノックバックが発生するアビリティを発動する。気のせいか、神器に彫られている竜の眼が、ギラリと光った気がした。

 同時に、アビリティの発声と寸分違わず打撃を叩き込めた、という、会心の手応えを掴む。そのまま、力任せ上等、と――思い切り、振り抜いた。

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