第440話 18枚目:神との謁見

〈よくぞ来た〉


 力はあれども圧は無く、威厳はあれども包容力が勝つ。そんな非常に素晴らしいバリトンボイスで、バチリと目が覚めた――ような感覚があった。

 【王権領域】を展開する時に伏せていた顔を上げる。そこには、いつかの夢と同じ。右を下に仰臥して、右頬に自分の拳を当てた姿勢でこちらを見ている貫禄ある悪役親父殿がいた。

 その声に対し、ふわりと笑みを浮かべて、カテーシーを1つ。


「此度は前触れの無い突然の訪問にも関わらず受け入れて頂き、ありがとうございます。ティフォン様」

〈はっはっは! 我が子がやって来たのを追い返す神が居るものか。ましてや友連れともなれば、歓迎以外には有り得んな!〉


 周囲も変わらず火山帯だが、どうやら山の中ではないようだ。もっとも、視界に入った範囲だと空は黒煙に塞がれ、高さがあっても星すら見えないのだが。

 で、友連れ、の言葉にちらっと左右に視線を向けると、どうやら全員揃って来れたようだ。ただまぁ神域の空気に当てられたのかティフォン様のサイズ感に圧倒されたのか、しゅっと膝をついているエルル以外は呆然としたように動きが無いけど。


「なっっっにこのイケオジ……」

「可愛いが好きなのに、目覚めてしまいそうです……」


 あ、ソフィーさん達は腰砕かれかかってたか。気持ちは分かる。この声だけでも十分反則的に格好いいのに、正式に生身で神域に踏み込んだからか、ティフォン様の包容力的なあれが空気からして分かるんだよね。どこまでもイケオジなんだよなぁ。


「お、おぉう。なんつーか、呑まれてたっす……」

「あぁ、すみません。直接の謁見、ましてや神域に迎え入れられてというのは初めてでして」

「びっくり」

「普通は初めてだと思うよぉ」


 そんなソフィーさん達の言葉だったが、それでも他の皆が戻って来るきっかけになったようだ。ぶは、と、詰めていた息を再開する様な音と共にフライリーさんが口火を切り、そこにそれにならうようにしてそれぞれ感想を口に出していく。

 最後にルドルが戻ってきたところでどうにかエルルを立たせて、ようやく話が再開できるな。


「いやだが始祖が目の前に居るのに立ってるってのは……」

「全員が膝をつくのとエルルが立つの、どっちが早いと思います?」

「…………」

〈はっはっは! まぁ、気にするな!〉

「……………………」


 気にするなと云われても……!! みたいな顔で、しかし多数決で押し切られてそれ以上何も言えなくなったエルルは黙ってしまった。うーん緊張が酷いな。

 古く偉大な神である事を忘れた訳じゃないけど、堅苦しいのは苦手だって本神が前に云ってたし。それに真面目な話ならともかく、こういう挨拶の時ぐらいは和やかに喋ってたっていいじゃないか。

 という訳でこちら側の自己紹介。ルールとサーニャについては、私が別行動の理由を合わせて説明した。なるほどな。と、ティフォン様から納得を貰ったところで、真面目な話だ。


「今回の試練なのですが、探索をもって新たな召喚者の助けとなり、絆を結ぶ。それは良いのです。良いのですが、最初にこの試練に入った際、少々、と言うには強く気がかりを覚える場所に出ました」

〈ほう?〉

「その後に分かった事からして“叡智の神々”が管理を担当する領域だったのは、大神の何らかの御意志だとして……その場を構成するものをスキルで調べた所、「異なる理に汚染された」と、表記されていたのです」

〈……ほぉ〉


 ティフォン様の目が僅かに細められ、遠く響いていた地鳴りのような音が少し近くなったような気がした。まぁ上機嫌で聞ける話じゃ無いよね。フォローは入れたしその後の事は言ってないけど、察するものはあるだろうし。

 けど本題は「異なる理」の方だ。実質答え合わせと確証を得る為だから、どれだけぼかされていても「いる」もしくは「あっている」という言葉が貰えればそれで決め打ちなのだ。つまり全力で討伐に動いて問題ない。

 そうじゃない可能性? 決まってるだろ、厄介事だよ。そして準備も含めると丸ごと2ヶ月という超大規模イベントである事を考えると、否定できないっていうのが辛い所だ。


〈色々とあちらに云いたい事が出来たが……まぁ、本題ではないな〉

「そうですね。それに正直、あちらにかかっている時間が惜しいので」

〈――はっはっは! そうか! ならば、ひとまず答えを返そう。核心からであるなら、その「異なる理」というのは敵だ。その源は微塵も残さず滅して構わん〉


 よーし太鼓判ゲット! これで最大火力で吹っ飛ばしても文句が出ないな。多少の周辺被害は致し方なしって事で! 実際に「多少」かと言うのは別の話だけど。ほら、程度っていうのは往々にして主観的な物だしさ?


〈そして、その「異なる理」というものの影響を深く受けている物についてもまた敵だ。本来の名が見えない程になっていれば全力で破壊していい〉

「試練の壁とかでもぶち破って構わないんですね?」

〈大いにやって良しだ。試練に不具合が起きれば神自体にも何の影響が出るか分からんからな。その前に破壊する事で被害を防ぐ事が出来る。よって、むしろやれ〉


 よっしゃ! ダンジョンの壁を壊す事についても許可が下りたぞ! 空間石はボックス様への捧げもので今のところ最上位だからな。ここで山ほど調達しておこう。

 たくさんとれたらティフォン様達の捧げもの作るのもありかもしれないな。このイベント前半で貰った納品アイテムみたいなドラゴンの石像とか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る