第379話 16枚目:箱庭の管理者

 さて「庭」の中を案内してもらい終わった所で、今度はルフィル達に「庭」の外を案内するターンだ。ここでは案内役としてカバーさんが引率してくれた。うーん相変わらず分かりやすい解説だ。

 初めて見る「広い海」に大興奮のルフィルとルフェルはそのまま海岸で遊び始めてしまい、ルチル達がそこへ参加。ルシルとルージュがそこから少し離れた所で模擬戦(?)を開始して、その模擬戦の審判としてサーニャが残った。

 で、一緒に居るメンバーの大半と離れた所で、私はエルルとカバーさんだけを連れて、「庭」に戻って来ていた。


「で、お嬢。何で俺らだけ?」

「まぁちょっと念には念を入れておきたいと言いますか、機密度合いが高いと言いますか」

「おやそれは」


 そんな会話をしながら向かったのは、この「庭」の中で間違いなく一番大きい建物である図書館だ。こそこそしている自覚はあるので、さっさと中に入って2人を招く。

 ぱたん、と扉を閉じて、窓がほとんどない為に薄暗い室内のあちこちにある灯りを点けていく。魔力を通すだけの簡単操作で良かった。

 ずらりと本が詰まった本棚が並ぶ光景に、カバーさんが気持ち目を輝かせているのを見つつ、明るくなった図書館――あるいは資料館の中へと、控えめに声を投げる。


「――ルール。お久しぶりです」


 そう。私の「庭」にいる住人は、全部で4人だ。

 ルージュは直接戦力及び金属加工関係を担当。ルフィルとルフェルは畑の世話と素材の加工関係を担当する他、防衛に関しても噛んでいる。直接戦闘じゃなくてアイテムとか罠系で。

 そして最後にして最初の1人であるルール……「ルールブック」は、その名前の通り。この「庭」の、諸々設定の全てを管理するのが担当だ。つまり、この「庭」の、核にして急所と言う訳である。


『はい。お久しぶりですね、庭主様。こちらからご挨拶に出向かず申し訳ない』

「いえいえ、ルールはそれぐらい慎重で良いと思います」

『ありがとうございます』


 そして私が投げた声に応えて現れたのは、一冊の本だった。

 黒い装丁に白い枠があるだけの、ちょっとした辞典くらいの大きさがあるその本はひとりでに浮かんで空中を滑るように飛び、ぱらりと開いてその空白のページに文章を浮かび上がらせて見せる。

 いやぁルールが来る前と後では管理の難易度が雲泥の差だったからね。コトニワ時代は滅茶苦茶助かった。そして多分、これからも滅茶苦茶お世話になる。


「という訳で、エルル、カバーさん。こちらがルールブック、此処の総合管理者であり、ある意味この場所の核とも呼べる子です。その能力上人の目に触れる事は滅多にありませんが、いないと色々どうにもなりません」

『ルールブックと言います。特定範囲の物品や環境の整理整頓を含む管理及び調整を一括で行い、それらを記録する事が可能です。これからよろしくお願い致します』

「あぁなるほど、知られれば狙われる上に落とされたらアウトって事か。エルルリージェだ。よろしくな」

「確かに重要度及び機密度が高い方ですね。カバーと言います。こちらこそよろしくお願い致します」


 その説明を聞いて即座にその重要性を理解してくれたらしく、納得を見せて自己紹介を返してくれるエルルとカバーさん。うん。そうなんだよね。ぶっちゃけルールがやられたらリカバリが効くかどうか自信無い。

 なのでルールは原則この図書館に常駐で、動いているところを見せる事も滅多にない。木を隠すなら森の中じゃないけど、これだけ本がある中でルールをピンポイントに狙う事は難しいだろう。それこそ、どんな相手か知っていなければ無理がある。

 だから、万が一があった時に絶対動いてくれるエルルと、全体の動きを指揮してもらうカバーさんにだけ伝える事にしたのだ。知ってる人数が多い程秘密って言うのは守り辛くなるからね。


『ところで庭主様。私達と庭主様の間の繋がりが途切れているようですが……』

「まぁ異世界に来てますから……。と言っても、異世界の存在と言う判定になるのか【絆】では手ごたえが無いんですよ。ルールに試せば全員に適応されるかと思っていました、が……どうやらそうでもないようですね」


 そして、そういう算段もあった。……うん。現状、好感度がめっちゃ高いだけのモンスター扱いなんだ。うちの子なのに。ボックス様はこの世界の神になってて、ボックス様のお陰で縁が結べたうちの子なのに。

 異世界の存在で【絆】が通じないという事は、恐らく【契約】が適応されるのだろう。で、ナヴィティリアさん曰く私は既にその上位スキルを持っている、筈、なのだが……どれの事だかさっぱり分からないんだよね。

 スキルが多すぎるせいで1つ1つの詳細を確認するだけでも一苦労で、ちょっとそれだけのまとまった時間は取れなかったんだよ。色々あり過ぎて忙しかったから。


『そうでしたか。……それでは庭主様。私の方で確認させて頂いてもよろしいでしょうか?』

「勿論いいですよ。あれ? でもルールって能力の調査とか鑑定って出来ましたっけ」

『こちらの世界に来る際、能力の一部に変更が加えられたようです。管理できる範囲が現在存在する島およびその周辺まで広がり、そこに存在する友好存在のスキルを確認する事が可能になりました。恐らく世界を越えた事による最適化ではないでしょうか』

「便利とかそんなレベルじゃないなそれ」

「『本の虫』時代に知っていれば、総出で勧誘に掛かっていたでしょうね」

「ボックス様からの祝福込みの可能性もありますね。息をするように最高を更なる最高で越えていくんですからもう」


 という訳で、ローディングなうだ。ルールがページを閉じて空中でくるくる回る事しばらく。


『恐らく【契約書式】というスキルではないでしょうか。契約内容の自力作成が可能である事が下位スキルとの差異のようです』

「それだったんですか?」

「ちなみにお嬢、そんなスキル何処で手に入れたんだ」

「……あの谷底にあった装備品のどれか、じゃないかなぁ、と……」

「あー……」


 用途も効果も不明で、完っ全にノーマークだったスキルが出て来た。いや確認してないよそんなの! 確かに今聞いたら名前に「契約」って入ってるけど!

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