第373話 16枚目:行方不明
「そうですね、可能性としては十分に有り得るでしょう。納品そのものは比較的何処でも出来るようですから、祭壇に細工をすれば祈りも捧げものも、納品そのものも「横取り」することは理論上可能ですので」
と、言うのがその話を聞いていたカバーさんの判断だ。『本の虫』は解散するが、『バッドエンド』対策をしない訳ではない、と、カバーさんは秒でメールを作成してどこかへ送信していた。
そんな訳で、『本の虫』というクランのある意味仕事納めとなったこの大クラン合同加入試験会。ちなみにパストダウンさんを始め「第五候補」と「第四候補」に『本の虫』からついていた人たちは皆無事に『アウセラー・クローネ』へと参加できたらしい。
日曜日の夜のログイン時間もほとんど使い切り、お開きの空気の中で、私は使徒生まれ組に集合してもらった。
「ごしゅじん、どうしましたー?」
「いえその。ちょっと気になったと言いますか……」
集合の理由が分からないのか、それぞれに疑問符を浮かべる中、私も疑問符にちょっと不安を足して、首を傾げた。
「……ルイシャールは何で来なかったのか、知りませんか?」
私の作成使徒は5人。ロップイヤーな黒兎のルナシール。手乗り鼠なルディスルート、同じく手乗り金糸雀なルチューリル、そこそこ大柄な針鼠のルドレイルと、あと1人、手乗り梟なルイシャール……ルイルが居る筈なのだ。
てっきり、今回で作成使徒だった5人は全員集合する物だと思っていた。具体的にはルシルが自力で来た時点で。だってそれはつまり、自分がいま所属している村あるいは集落を鍛えるのが一段落したって事だろう? ……もしかすると梟の村はこっちから迎えに行かないとダメだったりするのか?
いやまさか合流したくなかったとかその理由が私にあるとかそういう事では、無いと、信じたい……とか思いながらの問いに、何故か使徒生まれ組は、全員で顔を見合わせた。
「てっきりルシル先輩あたりが連れてくるものだと思ってましたー」
「合流、してない?」
「アタシは知らないねぇ。だって、隠鳥族からはもう旅立ったって聞いてたしぃ」
「同じく。もう合流してるものだと思ってた」
あれ? とばかり首を傾げているが、え、ちょっと待って。それってつまり、誰もルイルの現在位置を知らないって事? というか、村を出たタイミングも皆からずれてて分からない?
「まさかの行方不明……?」
「……に、なりますねー……?」
「なる」
マジか。来ないなーなんでかなーまさか嫌われたとかいやいやいやとかは思ってたけど、行方不明とは思わなかったぞ!?
どうしたルイル、ステータス的な知力は多分だけどスキル的に一番賢いのは君なんだけど!? 今ルチルが主にやってる戦い方は本来君がやる想定のスタイルだからな!? 弾幕手乗り梟さん! だってルドルとセットだから!
えぇー、と思っている間に、うーん、と悩んでいたルディルから、こんな言葉があった。
「……アタシもルドルもぉ、隠鳥族とはそんなに仲が良くないからねぇ……。けど、確かに、ちょっと不安かなぁ……」
「……あいつ、頭は滅茶苦茶いい癖に全体で見るとポンコツだからなー……」
それに続いてルドルも頭が痛そうに呟いたが、待って。何それ知らない。頭がいいのにポンコツってどういう事なの。ドジっ子ならまだあり得るかなとは思ったけどポンコツって何。
が。どうやらルシルとルチルには思い当たる節があったようだ。あー、と、納得と不安が半々な声が上がった。……2人が知ってるって事は、これは
「迷子でも、納得しか、ない……」
「方向音痴ではない筈どころか、誰かが方角を聞いたらすぐ割り出せるんですけどねー。地図も1回見れば覚えてましたしー。……その割に何故か、目的地と逆方向に進むんですよねー……」
話を聞けば聞くほどに不安になって来るのはどうしてだろう。おかしいな。スキルを組んだ時点では、それこそカバーさんみたいな知的なイメージだったのに。
いやまぁルシルが
でも……そうか。ルイルは頭がいいアホの子なのか。矛盾しているようだが、(勉強的な意味で)頭がいい事と(発想的な意味で)アホの子であることは両立する。だからこれで大体合っているだろう。
そしてその、頭のいいアホの子、ついでに迷子体質も持ってる子が、現在この世界の何処に居るかさっぱり分からない、と……。
「……それは、本気で探して早く見つけないとまずいのでは?」
「で、ですねー」
しかし、そうか。仲間フラグが立っても、合流フラグが立たないとこうなる訳かー……(頭抱え)。
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