第370話 16枚目:爆弾(計算尽)

 フライリーさんが合格してからちょっとして、カバーさんは帰っていった。本当に休憩だったらしい。にしても、「それではまた後程」とはどういうことなのやら。

 流石に私もカバーさんを『本の虫』から引き抜くという暴挙に出るつもりは皆目ない。というか、私の側にいるより『本の虫』として動いてくれた方がありがたいからね。現状で何も文句は無いのだ。


「……働き過ぎで倒れそうっていうのはあるけど」


 と、独り言を言う現状は午前中のログインが終わり、日曜昼だ。もっもっとリアルお昼ご飯を食べて、一応もう一回ストレッチしとくか。ついでにフリアドについて外部情報を集めよう。

 たぶんそろそろ次のイベント詳細が届くと思うんだよな。召喚者プレイヤーの大多数も所属先が決まって来たし、このお祭りも今日で終わりだろう。

 まぁ、プレイヤーイベントとしては大成功と言っていいんじゃないだろうか? 参加人数は間違いなく過去最高だっただろうし。下手すれば公式のイベントに匹敵する人数が参加してただろうから。


「…………、は?」


 で。

 そんな事を思いながら、とりあえずいつもの流れとしてまず『本の虫』の人達が作っているまとめページに行って、第一声がこれだ。

 恐らく12時ジャストに更新されたのだろうその内容は、現実逃避気味に別窓で開いた掲示板でも話題をかっさらっていた。もう誰も種族やクランの話なんかしていない。この話題一色である。

 さて何が書いてあったか、と、言うと、だな。


『クラン『本の虫』の解散についてのお知らせ』


 赤い大文字に下線まで付けて強調されたその一文の下には、まとめページの今後や今までの検証データの扱いについての細かい内容が分かりやすく続いていたのだが。

 うん。正直それどころじゃない。


「はぁ!!???」


 待って『本の虫』が解散ってどういうこと!? 一体何があったの検証班!?




「おはようございます、カバーさん来てませんか!?」

「え、おう、お嬢おはよう。どうした。召喚者達がざわついてるけどお嬢もか」

「皆も聞けば驚くと思いますよ。覚悟しておいてください」

「マジで?」

「マジです」


 ログインしてテントから出るなり確認を取る。どうやら現在はエルルが審判でサーニャが模擬戦相手をしているターンのようだ。が、挑戦者が途切れてちょっと手持無沙汰になっているらしい。

 都合としてはいいので一旦全員に集合してもらい、手短に説明する。……うん。エルルやルチルといった『本の虫』の人達の活動をよく知ってる組は驚愕してるけど、ルシル達今回合流した組はよく分かってないな。

 なので簡単に『本の虫』の人達がどんな人達(検証班であり情報纏めチーム)で、どんな事をやってきたか(大手クランの纏め役やレイド戦の陣頭指揮)を説明したら、大体分かってくれたようだ。


「ちぃ姫、おはよう! まとめページ見た!?」

「ちぃ姫、おはようございます! 『本の虫』から連絡はありましたか!?」

「おはようございます。ちょうど皆に何が起こったか説明し終えたばかりですよ」


 そのタイミングでソフィーさん達もログインして起きてきた。ははは。まぁ第一声がそうもなるわな。私もそうだったし。実際はまだ来てなかったし連絡もない。つまり、何がどうしてそうなったかは私も知りたい。


「せせせせせ先輩! 先輩!! っほ、『本の虫』の人達が大変っすー!?」

「はい、おはようございますフライリーさん。同じく皆大混乱ですよ」

「ですよね!!!」


 ……今回合流した組も、召喚者私達が例外なく尋常ではない程混乱しているのを見て、事態の深刻さを修正してくれたようだ(ルウ除く)。と言っても、何も情報が無いし、そもそも何をどうするというか、動きようが無いんだよね。

 周りをざっと見た限りでもばたばた召喚者プレイヤーが動いているから、きっと今頃『本の虫』本部(『スターティア』の街角にクランホームがある)は大変な騒ぎになっているだろう。そこに押しかけても混乱が加速するだけだ。

 だからこうして、推測を並べて考え込むしか出来ない訳だが……いや、本当に何があった? 流石に今回のこれは爆弾過ぎるというか、完全に予想外だから推測も何もないぞ?


「……まぁ、『本の虫』の人達ですから……このタイミングで発表したのには、何か意味があるでしょうし。このイベントの主催もしてるんですから、全部計算づくというか、計画を練って行われた事だとは思うんですが……」

「それは確かにそうだが……あの練度の集団を解散する意味って何だ、ってなるしなぁ。そうそうないぞ、あそこまで連携出来て実働が早い集団」


 エルルの評価もこの通りだし、実際のところはもっと大きいだろう。召喚者プレイヤー同士のあれこれに関する仲裁役に纏め役、その圧倒的信頼度の高さから、きっと何が起こっても『本の虫』なら何とかしてくれるという一種の精神的支柱にもなってたからな。

 それが、前触れ無しに無くなる、となると……うん。大混乱待ったなしだな? たぶん、あの人達の事だから、フォローの方法は考えてるだろうけど。それこそ会見とかするんだろうか?

 流石にこれはカバーさんに直接連絡をするべきか、と思ったタイミングで、スペースの入り口に人の影。召喚者プレイヤーが大混乱に陥り、その様子にただ事ではない事を察したり、話を聞いたりした住民の人達も挑戦を中止している中、誰だ、と思って振り返ると。


「あぁどうも。皆様、今、少しお時間宜しいでしょうか?」


 現在、話題真っただ中に居る筈の『本の虫』中核メンバーである、カバーさんが、午前中にも見た穏やかな笑顔で、そこに立っていた。

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