第365話 16枚目:予想外の参加者
どうやら可愛いもの好きにも派閥があり、細かいツボの違いによる趣味嗜好の差異が原因だとの事で、例えば私が初めて【人化】した状態で人前に出た時などの圧倒的可愛い大事件が起きた時は協力するが、それ以外はどこが最も可愛いに対してベストなポジションを確保するかで骨肉の争いが起きているらしい。
と、いう内容の話を、ソフィーナさんから聞いた。なるほど。だから一見同じ可愛いもの好きな別クランからの出向(実際は一度クランを辞めてフリーになっている)挑戦者を、ソフィーネさんが容赦も加減も無く盛大に吹っ飛ばしてるんだな?
まぁエルルが審判をしているし、その指示にはちゃんと従ってるから、今の所
「ちなみに、此処に集まってるのはちぃ姫の近くに居たいとかお世話したいとかいう集団で、可愛い野生動物を探しに行ったり自分のホームで小動物を可愛いしてる集団はまた別にあるわ」
「なるほど」
……まぁ住み分けた上で必要な時に相互協力をしているなら問題ないか。趣味嗜好による争いは、私が現在進行形で戦争している以上何を言ってもブーメランにしかならないし。
なんて話をしている間も加入試験の列は順調に消化されて行っている。いやしかし初日並みに盛況だね。一応挑戦回数は1人3回までって制限が付いてるし、大体の人は1度完敗したら実力不足を認めて2度目は来ないんだけど。
この調子なら、クランに所属しないフリーな
で。
「ヌシの群れはここかーネ?」
……ん?
という感じで全員が首を傾げる声掛けがあったのは、更にそこからしばらく経ってからの事だ。しばらくお互いに顔を見合わせて、その声が聞こえてきた方向……加入試験会場と言う名の広いスペースの入り口へ振り向く。
そこに居たのは、一言で言うと狩人風という感じの皮鎧を身に着け、ベルトに大きなナイフやポーチを下げている女性だった。身長は、女性にしてはかなり高い方だろう。
さっぱりと肩口で切りそろえた髪は緑がかった紺色に、メッシュのように朱色が散っている独特な物。肌は良く日に焼けたような濃い色で、ぐりんと見開いたような黒くて大きな目と、ちらっと覗いたギザ歯が目を引く。
背中には何も背負わずベルトにもナイフ以外の武器っぽい物は無く、かと言って肉弾戦をするようなタイプ及び装備の形ではない。一見すると、皮鎧を着ているだけの丸腰に見えるだろう。
……うん。すまない。「ヌシー、ヌシー、久しぶりだネー」ってかなり好感度高い感じで呼びかけられてるから最低でも顔見知りだと思うんだが、全然心当たりが浮かばない。
使徒生まれ組も心当たり無いみたいだしサーニャも以下略、エルルもあれ黙って動いてないって事は考えてるって事だな。しかし何処でのどんな知り合いだ、こんなちょっと怖い感じの圧が強い相手なんて見て交流したら覚えてる筈なんだけど、何時だ!?
「…………え、まさか、マジか」
そしてどうやらエルルの方が一歩早く心当たりを掴んだらしい。誰だっけ? が、えぇー? に変化したっぽい。え、誰?
「まさか……お前、あの時のマーレイ? 限界突破個体の?」
……へ?
「お、カリオサも久しぶりだーネー」
「かり……狩猟の狩りか?」
「そうだヨー」
否定が返ってこない。どころか全力で肯定してくる。かりおさ、狩り、狩り長? ってことはつまり、推定私の事を呼んでたあれは、ぬし、主? で、主の群れ? あ、うん、そうだな?
「……もう【人化】出来たとは知りませんでした」
「ふへへ。フネヒトが、こーゆーのは「さぷらいず」が良いんだって教えてくれたんだーヨ。ヌシ、驚いター?」
「えぇ、これ以上なく驚きましたね」
ふねひと。……船の人かな。うん。分かってたけど確定だわ。ルチルもようやく繋がったのか、ピッ!? って鳴き声に近い声が出てるし。
うん。まぁ。つまり、だな。
「まさか、もう進化したんですか? ルウ」
限界突破マーレイこと、ルウの登場だ。
その後話を聞いたところ、大嵐を収めた事に加え、あの小島でネレイちゃんを救出し、その後渡鯨族の街の復興や人魚族の神官さん達の意識改善にも携わり、北国の大陸における海関係の神の救助にも多大な貢献をしたとして、海の神が特別報酬を出した方がいいのでは? と思ったらしいとの事。
が、その頃私は氷の大地で活動中な上に、エルルのお陰で船に乗る必要性が無く、泳ぐ関係のスキルは持っていないし、釣りが趣味という訳でもない、と、海の神から贈られて喜びそうなものが思い当たらなかったらしい。
そこで考えた海の神は、私に関連づいている存在の内、一番属性的に近く親和性の高いルウに目を付けた、という事のようだ。
「だからまだ進化はしてないヨー。でも、ひとの姿もおもしろいネ!」
で、実際贈られたのが最初からレベルのついた【人化】及び【地上行動適性】と、レベル無しスキル【海神の加護】の3つのスキルで、私が船(残骸)の山を半海上拠点に改造したりしている間に、ルウは地上での動き方を練習していたらしい。
だから、【人化】していてもルウは種族的に魚のままのようだ。……そうか。あのデビルフィッシュの時に「第一候補」が言ってたな、神の加護があれば【魔物言語】で会話できるって。って事は、加護があって【人化】していれば【共通言語】でも会話できるようになるんだな、これ。
で、一緒に行動していた『本の虫』の人達にいろいろ教わりつつ【人化】及び地上での行動に慣れていった、と。
「陸の狩りも楽しいネー。においで獲物を追いかけるのは一緒だシ」
「あぁ、確かに。……ところでルウ。その、狩りに使う武器は一体? まさか地上で【人化】を解く訳ではないですよね?」
「神様にも「それだけはやったら死ぬからダメだ」っていわれてるからやらないヨー。ちゃんと武器は作って貰ったのを使ってル」
どうやらインベントリも使えるようになったらしく、「これだヨ」と言いながらルウは空中で手を動かした。そこから取り出されたのは。
ッッゴ!!! と、超重量物並の音を立てて地面をへこませた……直径1mを越える、鉄球だった。
よく見ればキャリーケースの持ち手のような物が付いているので、その持ち手を持って振り回すらしい。そんなものが、更にもう一個追加で出て来た。重量なんて怖くて考えられないよ。私は、持ち上げるまでならいけるだろうけど、多分振り回されると思う。
で。そんな取っ手付き鉄球を、ルウは両手にそれぞれ持って、応援に使うぽんぽんみたいに振り回して見せた。ぶおんぶおんと風を切る音が恐ろしいと感じるのは初めてだな。
「……ちなみに、何故それを武器にしようと?」
「他にも色々貰ったけドー、これが一番楽しかったかラ!」
「よし、これは手合わせする必要ないな。合格」
見た目はむしろスマートなぐらいだが、流石本質が全身筋肉なゴリッゴリのパワータイプと言うべきか。たぶんステータスが筋力に特化してるんだな。極振りかも知れない。その分弱点も多いだろうけど。魔法とか。
で、その様子を見たエルル、即座に合格の判定を出していた。……そうだね。流石にエルルやサーニャでも、あれはちょっと掠っただけで、痛いじゃすまない事になるもんね。
もちろん、誰からも異論は出なかったよ。
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